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最強の眷属たちに囲まれて、まったりダンジョン運営してます~裏山ダンジョン、ときどき攻略者~  作者: Jasmin


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第12話 模擬戦

翌朝、俺は訓練エリアに立っていた。

昨日作ったばかりの空間は、まだ岩肌がむき出しの殺風景なものだ。天井は高く、剣を振り回しても十分な余裕がある。

剣を抜き、素振りを始めた。昨日覚醒したばかりの【剣術】Lv.1は確かに身体に馴染んでいる。構えが安定し、振りの軌道に無駄が減った。だが素振りだけでは分からないことがある。


「ユキ。」


「はい、ご主人様。」


振り返ると、いつの間にかユキが訓練エリアの入口に立っていた。気配がまるでなかった。


「一つ頼みたいことがあるんだけど。模擬戦の相手をしてもらえないか?」


ユキがわずかに目を見開いた。表情の変化は微かだが、短い付き合いでも分かるようになってきた。驚いている。


「……ご主人様と、ですか?」


「翠嶺洞でロックリザードを斬るだけじゃ限界がある。相手が知恵を持つ存在だった場合にどうなるか、知っておきたい。」


しばらくの沈黙。ユキの蒼い瞳がこちらを静かに見つめている。何かを推し量るような視線だった。


「承知しました。ただし、手加減はさせていただきます。」


「もちろん。ユキが本気出したら俺は消し炭になるだろうからな。」


「ご安心ください。消し炭にはいたしません。」


冗談で返してくれたのか、本気の保証なのか。表情からは読み取れなかった。

ユキが訓練エリアの中央に歩み出る。武器は持たない。構えすら取らず、ただ自然体で立っている。

俺は剣を正眼に構えた。【剣術】Lv.1が示す正しい構え。足幅、重心、剣先の位置。すべてが噛み合っている感覚がある。


――行ける。


そう思って踏み込んだ。

剣が空を切った。ユキの姿が視界から消えている。いや、消えたんじゃない。半歩だけ横にずれていた。たったそれだけの動作で、俺の全力の踏み込みが完全にかわされていた。

振り抜いた体勢から即座に斬り返す。翠嶺洞で身につけた連撃の動きだ。だがユキは身体を傾けるだけでそれも避けた。刃が通過した場所に残っているのは、微かに揺れる銀髪だけ。


三撃目。フェイントを混ぜて――足を払われた。

気づいた時には背中から床に叩きつけられていて、天井の鉱石の光がぼんやりと視界を満たしている。


「……っ。」


何が起きたか理解するのに数秒かかった。フェイントを仕掛けようとした瞬間、ユキの足が俺の軸足を正確に引っかけたのだ。全体重が前に乗っていた分、受け身すら取れない。


「重心が前に偏りすぎています。」


見上げると、ユキが真上からこちらを覗き込んでいた。


「攻撃に意識が向くと、足元が疎かになる癖がありますね。ロックリザードのような低級モンスター相手なら問題ありませんが、知恵のある相手にはそこを突かれます。」


的確すぎる指摘だった。

立ち上がり、もう一度構える。今度は足を意識した。前に突っ込まず、間合いの外から様子を窺い、隙を探す。

だが、隙なんてものはどこにもなかった。ユキはただ立っているだけなのに、どの角度から見ても付け入る余地がない。仕方なく踏み込む。横薙ぎ、突き、切り上げ。三手を連続で繰り出したが、ユキは歩くような速度で全てをかわした。俺が一歩踏めば半歩で回り込まれ、剣を振れば風が通り抜けるだけ。最後にバランスを崩したところを肩を軽く押され、それだけでまた床に転がった。

その後も十五分ほど模擬戦を続けたが、俺はユキの身体に一度も触れることができなかった。

ユキは終始素手で、魔法も使わず、派手な動きもしない。最小限の体捌きと、こちらの意図を完全に読み切った位置取り。それだけで俺のすべてを無力化してみせる。ステータスがどうとか、スキルレベルがどうとか、そういう次元の話ではない。


「ご主人様。」


息を切らして膝に手をついている俺に、ユキが静かに声をかけた。


「まず足捌きを覚えてください。攻撃の威力はステータスで十分です。ですが、相手の攻撃を避け、自分の間合いを維持する技術が足りていません。」


「足捌き、か。」


「はい。剣を振ることよりも、足を動かすことに意識を置いてください。毎朝、お付き合いします。」


ちなみに、ユキは近接戦闘は本領ではなく、魔法戦が得意らしい。心が折れそうになったのは秘密である。


――毎朝。

その言葉通り、翌日からユキとの朝の稽古が日課になる。



そこから一ヶ月が、あっという間に過ぎていた。

生活のリズムができあがった。朝はユキとの稽古。身体が温まったら翠嶺洞へ向かい、夕方まで攻略。魔石の換金と、帰宅後はダンジョンの管理。会社員時代のルーティンが、そっくりそのまま攻略者のルーティンに置き換わった。業務内容が蜥蜴の討伐に変わっただけだが、毎日強くなる実感があり、楽しいものだ。


翠嶺洞の攻略は順調に進んだ。3層はロックリザードの大型個体が出現するようになり、鱗も硬くなったが、ユキとの稽古で動きが改善されてからは被弾することがほぼなくなった。最初のころは初心者向けの剣が半ばから折れて撤退したりもしたが、数日で3層を踏破し、4層へ。


4層から環境が変わった。岩肌の通路に地底湖が現れ、水棲のモンスター――ロックサーペントと呼ばれる大蛇が出現するようになった。水中からの奇襲と陸上での突進を使い分けてくる厄介な相手だったが、一週間も通えばパターンは覚えた。この頃、【剣術】がLv.2に上がった。


5層に辿り着いたのは、攻略を始めてちょうど一ヶ月が経った頃だ。

それまでの階層と空気が違った。通路の幅が広がり、天井が高くなる。壁面の苔が青白く発光して空間全体を照らし、薄暗い水族館のような雰囲気を帯びている。魔力の密度も一段上がっていて、肌がぴりぴりする。

5層のモンスターはロックリザードやロックサーペントに加え、鎧のような甲殻を持つロックタートルが出現するようになった。動きは鈍いが一撃が重く、まともに受ければ骨が軋む。こいつの甲殻の継ぎ目を正確に狙って剣を差し込む技術は、ユキとの朝の稽古がなければ身についていなかっただろう。


この環境が功を奏したのか、5層を探索して三日目に二つの変化が訪れた。

一つ目は【剣術】のLv.3への到達。Lv.2からの成長速度は明らかに鈍化していたが、5層の魔力濃度が後押ししたのかもしれない。Lv.3になると、剣の軌道を戦闘中にリアルタイムで微調整できるようになった。「斬る」から「斬りたいように斬る」へ。地味な変化に聞こえるかもしれないが、実戦での差は大きい。

二つ目は、新しいスキルの覚醒。


――スキル【身体強化】Lv.1を習得しました。


脳裏に浮かんだ文字列を見て、思わず拳を握った。身体強化は戦闘系スキルの基本中の基本で、自身の身体能力を一時的にブーストする能力だ。発動した瞬間、体内に熱い回路がもう一本通ったような感覚があった。ステータスの恩恵で元々高い身体能力に、さらにブーストが乗る。5層程度なら、かなり余裕を持って立ち回れるようになった。

朝のユキとの稽古も、一ヶ月で様変わりしていた。最初は一方的に転がされるだけだったのが、今では数手は持ちこたえられるようになっている。触れることはまだできないが、少なくとも「何をされたか分からないうちに転がっていた」という状態からは脱した。進歩、と言っていい。たぶん。


ダンジョンの方にも少しずつ手を入れた。訓練エリアに木製の打ち込み台と的を設置し、居住エリアの家具もいくつか追加した。大規模な拡張はまだ先だが、「住める場所」が「住みやすい場所」に近づいている実感はある。

収支面は安定した。5層のモンスターから得られる魔石は1層や2層とは単価が違い、一日の稼ぎが数万を超える日も珍しくない。装備の更新費用と生活費を差し引いても、貯金は着実に増えている。ポーション貧乏だった頃が嘘みたいだ。


夕食後、リビングでユキと向かい合う。毎晩の日課になりつつある報告の時間だ。


「5層、だいぶ慣れてきた。来週あたりから6層を覗いてみようと思う。」


「ご主人様の成長速度には目を見張るものがあります。」


「ステータスのおかげだよ。それにユキの指導がなかったら、まだ2層でうろうろしてると思う。」


「お役に立てて、嬉しく思います。」


稼ぎが安定してきた以上、そろそろダンジョンの次の拡張を本格的に考える頃だ。まずは何を作るべきか。


「ユキ、そろそろダンジョンの拡張について、考えようかと思うんだ。」


――――

貯金残高:1,850,000円 / ダンジョン蓄積魔力:480

スキル:【剣術】Lv.3 / 【身体強化】Lv.1 ★New!

眷属:ユキ(エルダーエルフ)

――――

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