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リネアの選択  作者: とたか


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54/99

53 距離

 三学期が始まって、小隊での演習は拍子抜けするほど安定していた。


 クロウの矢が人工魔物を引きつけ、エマの増幅を受けたガイが、勢いよく攻撃する。

 ネーリス兄弟は次の索敵へ散る。

 リネアも恩寵は温存しながら、要所で無駄なく立ち回れていた。


「今日も、楽だったな!」

「うん、噛み合ってた」


 演習終了後、ガイが素直に言うと、エマやネーリス兄弟も頷く。


 リネアは自分の掌を見つめた。

 魔力の制御も滑らかだ。

 恩寵の対価も、最小限で済んでいる。


 だけど、理由が自分だけの成長とは思えなかった。


 演習の合間に、静かに差し込んでく感覚。

 荒れそうなところを、先回りして整えられていく。

 ミカの干渉には、以前のような引っかかりはない。


 演習地を出たところで、軽く伸びをするミカにリネアが話しかける。


「ミカ、さっきのフォロー……」

「あれ?バレてた」

「うん。ありがとう」

「演習なんて、早く終らせた方が楽だしね。

 何?俺と星約組みたくなった?」

「そういうの、やめて」


 リネアの珍しく呆れたような視線を、ミカが笑ってかわす。


 やり取りが気安い。

 演習中の指先を取る動作も自然で、リネアも気にしていない様子だった。


 ガイは気づかない。

 エマも何も言わない。

 ネーリス兄弟も特に反応しない。


 クロウだけが、そのたびに視線を止める。

 何がどう、とは言えない。

 ただ、休暇前とは違う空気がある。


 それが妙に引っかかった。





 演習場から校舎へ戻る途中。

 まだ中間試験も先だというのに、三学期に入ってから上級生たちは妙に忙しない。


「決まった?」

「まだ。向こう待ち」

「え、断られたらどうすんの」


 すれ違った二年生がひそひそと話している。


 プロム。

 三学期の終わりに行われる、学院最大の社交行事だ。


 二年生と三年生はパートナー必須。

 異性を伴って出席する決まりだった。

 それ以外は比較的自由で、会場ではダンスや食事を交えながら生徒同士の交流が楽しめる。


 ――パートナーが星約である必要はない。

 異性同士の星約の場合は、そのまま参加が“自然”という空気はある。

 けれど強制ではない。


 将来の家同士の繋がりを意識する者もいれば、純粋に思い出作りと割り切る者もいる。

 憧れの相手がいるなら、申し込む機会でもあるのだ。


 一方で一年生はというと。


「プロムって踊るだけ?」

「菓子出るって聞いた」

「裏方って何やるの?」


 まだのんびりしている。


 一年生はホスト側にまわるのが慣例だ。

 開催前の準備に駆り出されるので、忙しくなるのは期末試験明けから。


 同伴も必要なし。当日も自由参加だから、参加しないという選択もできる。

 もっとも、大抵の生徒は参加するのだが。


 教室に戻ると、やはりその話題になる。


「リネア、プロムの準備は同じ担当にしよ?」

「うん」


 セラフィナが嬉しそうに笑う。


「飾り付けやりたいなあ。お花いっぱいにしたい!」

「お前は菓子係だろ。つまみ食い担当」


 レオニスが即座に返すと、笑いが広がる。

 そんなことしないわよ、とセラフィナは頬を膨らませる。


「でも、当日はやっぱり踊りたいよね!」

「セラフィナはダンス、好きなの?」

「うん!」


 クロウは机に肘をついたまま、わずかに顔を上げた。


「踊るのか」

「え?私?」


 リネアが驚いて視線を向ける。


「……どうかな。あんまり自信ない」


 リネアは夜会の経験があまりなし、ダンスも得意ではない。

 うまくやれる気は、正直しなかった。


「楽しければいいのよ!」

「俺の足は踏むなよ」

「踏まないもん」


 セラフィナたちの軽口が飛ぶ。

 クロウは少しだけ間を置いてから言った。


「……練習するなら、付き合う」

「ありがとう」


 それだけのやり取り。

 けれど、その言葉を口にしたあと、クロウはほんの一瞬だけ考えるように視線を落とした。





「あ、そろそろ行かなきゃ」


 時計を見てリネアが立ち上がる。


「どこに?」

「セイルのところ。王立研究所の採用試験に通ったって聞いたから」

「え、すごいね!」

「うん。だから、お祝いを言いに」


 リネアは小さな包みを手に取ると、軽く手を振って教室を出ていく。

 扉が閉まる。


 クロウは教室の入口の方を見たまま、静かに口を開いた。


「……レオニス」

「ん?」


「セイル・フォレストの星約は?」

「観測系の男だな。確か子爵家の」

「……そうか」


 二年と三年は異性の同伴必須。

 セイルは三年だ。


(誰を)


 思考がそこまで進んで、止まる。

 従兄妹だ。

 不自然ではない。


 さっきまで、リネアはミカの隣にいた。

 今は、セイルの元へ向かっている。


 自分は、何を気にしているのか。


「どうした」


 レオニスが横目で見る。


「別に」


 短く答える。プロムはまだ先だ。

 けれど。

 演習でも、教室でも、別の場所でも。


 わずかにずれていく距離が、妙に目につく。

 自分がどの位置に立っているのか。

 それが、クロウにははっきりしなかった。

次話も短めなので、明日は朝晩二話更新する予定です。

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