表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
リネアの選択  作者: とたか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/97

42 駆け引き

 その日の授業の終わりを告げる鐘が鳴ると、教室は一気にざわめいた。

 椅子が引かれる音。笑い声。鞄の金具が鳴る。

 その中にミカの姿はすでにない。


 リネアはすぐには動かなかった。

 ノートを閉じながら、呼吸を整える。

 逃げない、と小さく決めて立ち上がった。


「リネア、どこ行くの?」


 セラフィナが首をかしげる。


「うん、ちょっと用事」





 中庭に出ると、窓の外は秋の光がやわらかく差している。

 その一角、人目が少ない場所にミカはいた。


 木にもたれて、落ち葉をいじっている。

 いかにも暇つぶしの姿勢。

 けれど、気配は研がれている。

 こちらに気づくと、いつもの軽い笑みを浮かべた。


「来たね」

「約束だから」


 リネアはすぐ側のベンチに座る。

 ミカは距離を保ったまま、木にもたれ続ける。


 近すぎず、遠すぎない。

 はたから見ると、会話をしていないようにも見える距離感だった。

 

「で?」


 真正面からきた短い問いに、リネアは一度、深く息を吸った。

 声が震えないように、慎重に口を開く。


「夢の、話をする」


 その言葉で、空気が変わる。


「……五歳の日から、見るようになった」


「どんな夢?」

「大星蝕が、学院で起きる夢」

「学院で?」


「うん。でも、いつかはわからない。

 未来かもしれないし、違うかもしれない」


 自分で言っていても、確証はない。

 けれど、夢で感じる恐怖だけは本物だ。


「曖昧だね」

「断定できないから」


 風が吹く。

 木の葉が擦れ、乾いた音がする。


「それだけ?」

「それだけ」


 ミカは数秒、黙ったままリネアを見た。

 その視線に値踏みの色はある。

 けれど、嘲りはない。


「夢に誰か出てこないの?聖女は?」

「出ない。人は……はっきりしない。

 でも、学院の制服を着た生徒はたくさんいた」


 嘘と真実を織り交ぜて、リネアは淀みなく答える。

 すべては話さないと決めていた。


「他は?……全部じゃないよね」


 わずかな緊張。


「ミカも、全部は言ってないでしょう。

 他も知りたいなら、条件がある」


(ああ、そうくる)


 ミカの口角が上がる。


「了解。それなら、出せる札だけでやろう。条件は?」


「……神殿の非公開資料を見せて欲しい」


「大胆だなあ」

「大星蝕を止めたい。なら、神殿が知っていることを、私も知る必要がある」


 ミカは視線を外し、木の枝葉を見上げる。

 面白い。

 脅しに屈するどころか、交渉を持ちかけられるのは予想外だった。


 少し考える素振りを見せる。

 実際、できないことはない。

 閲覧の方法もいくつか思いつく。


 問題は――


(君を、どこまで巻き込むか)


「いいよ。約束する。次の休暇中に時間を作る」

「本当に?」

「嘘つく理由ないでしょ」


 大星蝕が学院で起こる可能性がある。

 情報としては、今はそれで十分だ。


「神殿も大星蝕は止めたい。だから、協力はできる」


 リネアがほっとしたように少し警戒と緊張感を緩める。

 その様子を見ながら、ミカはようやくリネアの隣に腰を下ろした。


「じゃあ、交渉成立」

「うん……」


 いつもの軽い笑顔だけ。

 手を差し出すわけでもない。

 握手もしない。それで終わり。


 ミカは、そのつもりだった。


 なのに。

 頷いたリネアの方が、躊躇いがちに手を差し出している。


 ミカは本気で固まった。


「俺の恩寵、知ってるよね?」

「知ってる」

「甘すぎない?」

「"使うのはやめた"って言ってた」


 ――校外演習での会話。

 自分の言葉は、確かに覚えている。


 怯えていないわけじゃない。

 それでもリネアの表情は、もう迷っていなかった。


「ほんと、お育ちがいいね」


 ミカは呆れながら苦笑する。


 恩寵は使わない。

 ただの握手。

 温度が、掌から伝わる。


 手を離したあと、ミカはほんの少しだけ真顔になった。


「リネア」

「なに」

「君は、何もの?」


 本当に聖女じゃないの?

 冗談めかして言う。

 けれど、問いは本気だ。


 リネアは静かに、首を振る。


「分からない」

「そう」


 ただ、視線だけが交わる。


 あの白い揺らぎ。

 見覚えのある光。

 自分の過去と、どこかで繋がる感覚。


「なら、一緒に確かめようか」


 ミカは愉しげに目を細めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ