第33話 揺れた選択
その夜、集落の中央に人が集まった。
これまでになかったことだ。
焚き火を囲み、老若男女が輪になる。
誰も声を荒げない。
だが、全員の目に迷いがあった。
ミレアが、中央に立つ。
「……私たちは、終わることを選んだつもりでした」
静かな声が、夜に溶ける。
「誰かを奪ってまで、生き延びないと」
「抗わず、静かに消えると」
視線が、子どものいる家に向けられる。
「でも、それは本当に“選択”だったでしょうか」
沈黙。
誰も、すぐには答えない。
「抗わないことは、綺麗に見えます」
「けれど、守ろうとしないことと同じだったのかもしれません」
老人が、ゆっくりと口を開く。
「……王都に見捨てられた時、私は諦めた」
「諦めることを、誇りだと思った」
別の女が、続く。
「移住して、誰かの土地を奪うのが嫌だった」
「だから、ここで終わろうと」
ミレアは、頷く。
「その気持ちは、間違っていません」
そして、視線をレインに向ける。
「でも、私たちは昨夜、揺れました」
誰かが、小さく泣き出す。
子どもが、失った腕を抱えている。
「終わることを選ぶなら、迷ってはいけなかった」
ミレアの声は、震えていない。
「でも、迷った」
それが、答えだった。
レインは、一歩前に出る。
「俺は、救えない」
ざわめきが起きる。
「選ぶだけだ」
「結果も、責任も、消せない」
それでも。
「生き延びると決めるなら、手は貸す」
押しつけない。
説得もしない。
ただ、選択の先に立つ。
長い沈黙のあと。
最初に手を挙げたのは、子どもの父親だった。
「……俺は、守りたい」
声は震えている。
「ここが駄目なら、他所でもいい」
「それでも、生きたい」
次に、若い男が続く。
「奪うのが嫌なら、交渉すればいい」
「戦わなくても、生きる道はある」
やがて、手が増えていく。
全員ではない。
だが、半数を超えた。
ミレアは、目を閉じる。
「……移住します」
それは、敗北ではなかった。
「終わることを選んだ私たちが、もう一度選び直す」
「それが、今回の答えです」
レインは、静かに息を吐いた。
救ったわけではない。
導いたわけでもない。
彼らが、自分で選んだ。
それでも、重い。
子どもの腕は戻らない。
選び直しには、代償があった。
「……ありがとう、とは言いません」
ミレアが、レインを見る。
「あなたは、正しかったとも言いません」
だが。
「踏み込んでくれたことは、忘れません」
それで、十分だった。
焚き火が、静かに揺れる。
終わるはずだった集落は、
まだ終わらない。
選び直した。
だから、進む。
判断は、救いではない。
だが、止まった時間を動かすことはできる。
夜が明ける。
集落は、解体の準備に入った。
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