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無能と追放された【鑑定士】、王国最強の軍師になる 〜見えない才能を切り捨てた者たちの末路〜  作者: 水無月レイ


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第31話 救われたくなかった理由

 朝の集落は、静かだった。


 泣く者もいない。

 怒鳴る者もいない。

 昨夜の被害を嘆く声すら、上がらなかった。


 家畜小屋の壊れた柵を直す者。

 血の跡を黙々と洗い流す者。

 それぞれが、淡々と“今日やるべきこと”をこなしている。


 まるで、最初から織り込み済みだったかのように。


「……異常だ」


 カイルが、小声で言った。


「普通は、こうならない」


「普通じゃないからだ」


 レインは、そう答えた。


 ミレアは、集落の中央で指示を出していた。

 若い。

 だが、誰も逆らわない。


 彼女が“選ばれた”のではなく、

 “残った”のだと、レインは直感した。


「少し、話がしたい」


 レインが声をかけると、ミレアはすぐに頷いた。


「構いません」


 二人は、集落の外れにある、小さな丘に向かった。

 見渡せば、森と畑と、古い墓標が並んでいる。


「ここは、元々大きな村だった」


 ミレアが、ぽつりと言う。


「十数年前までは」


 レインは、何も言わずに聞いた。


「魔物が増え始めてから、王都に嘆願しました」

「柵の補強、兵の派遣、移住の許可」


 指で、一つずつ数える。


「どれも、通りませんでした」


 理由は分かっている。

 費用対効果。

 数値。

 優先順位。


「次に、ギルドに依頼しました」


「結果は?」


「“持続不可能”と判断されました」


 その言葉に、レインの喉がわずかに鳴る。


 あまりにも、聞き覚えのある響きだった。


「だから、私たちは選びました」


 ミレアは、墓標の方を見た。


「抵抗しないことを」

「無理に生き延びないことを」


「……死ぬことを、選んだわけじゃない」


 レインが言う。


「ええ」


 ミレアは、静かに微笑む。


「ただ、“奪い合う側”にならないことを選んだだけです」


 延命のために、他所を犠牲にする。

 移住のために、誰かの土地を奪う。

 救済の名の下に、争う。


「それが、嫌だった」


 ミレアの声は、震えていなかった。


「ここで終わるなら、それでいい」

「少なくとも、自分で選んだ結末です」


 レインは、言葉を失った。


 正しい。

 だが、受け入れがたい。


「……俺は、判断を引き受けると言った」


 絞り出すように言う。


「だが、これは……」


「あなたの判断ではありません」


 ミレアは、はっきりと言った。


「これは、私たちの判断です」


 その言葉が、胸に突き刺さる。


 自分が踏み込めなかった理由。

 それが、ようやく形になった。


「救われたくなかったわけじゃない」


 ミレアは続ける。


「ただ、“救われる形”を選びたくなかった」


 制度に切り捨てられ、

 次は善意に救われる。


 その繰り返しを、拒んだのだ。


「……昨夜、あなたは踏み込みませんでした」


 ミレアは、レインを見る。


「それが、答えだったと思います」


 答え。

 だが、正解ではない。


 レインは、ゆっくりと息を吐いた。


「俺は、ここに介入しない」


「分かっています」


「だが、一つだけ」


 ミレアは、首を傾げる。


「もし、人が襲われるようになったら」

「その時は、判断する」


 ミレアは、しばらく考え――頷いた。


「それで、十分です」


 それ以上、求めない。


 丘の下で、子どもたちが遊んでいる。

 笑い声が、風に乗る。


 この光景が、いつまで続くかは分からない。


 だが、今は確かに“生きている”。


 レインは、その現実を、胸に刻みつけた。


 救うことだけが、判断ではない。

 踏み込まないこともまた、選択だ。


 だが――。


 その選択が、いつか誰かを殺す可能性もある。


 判断は、終わらない。


 重さだけが、少しずつ増していく。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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