第28話 噛み合わない善意
次の依頼も、問題なく片付いた。
川沿いの集落で、夜ごとに姿を現す魔物の討伐。被害は軽微、住民の協力も得られ、判断に迷う要素は一つもなかった。
レインの指示で陣を張り、逃げ道を限定し、夜明け前に仕留める。
結果は、これまでと同じだ。
被害なし。
想定通り。
誰も疑問を挟まない。
「……完璧だな」
カイルが、川面を見ながら言った。
「完璧すぎるくらいだ」
その言葉に、レインは曖昧に頷いた。
否定はできない。
だが、胸の奥に残る感触が、消えない。
集落に戻ると、住民たちが静かに頭を下げた。
派手な歓声はない。
涙もない。
ただ、安堵だけがある。
「これで、元の生活に戻れます」
村長の言葉は、穏やかだった。
「……本当に、それでいいのですか」
レインは、思わず聞いていた。
村長は、少しだけ驚いた顔をしてから、微笑む。
「もちろんです。魔物さえいなければ、我々はそれで十分です」
迷いのない答え。
それ以上、話すことはなかった。
野営地へ戻る途中、セレスがレインの隣に並ぶ。
「顔に出ている」
「そうか」
「“判断が通じている”のに、納得していない顔だ」
図星だった。
「……通じすぎている」
レインは、低く言った。
「疑問が挟まらない。迷いもない。俺の判断が、そのまま正解になる」
「それは、悪いことではない」
「そうだな」
だが、と続ける。
「だからこそ、怖い」
セレスは足を止めた。
「理由は?」
「この状況では、判断が“選択”になっていない」
レインは、ゆっくりと言葉を探す。
「ただ、処理しているだけだ。救うか、切るかを選んでいない」
セレスは、しばらく考えてから言った。
「それは、住民が“選ばせていない”からだ」
レインは、はっとした。
「彼らは、救われることを望んでいる。判断を、あなたに預けている」
「……ああ」
だから、摩擦がない。
だから、違和感も表に出ない。
そのとき、後方から声がした。
「判断って、そんなに重いものなんですか?」
振り返ると、若い村人の娘が立っていた。
荷物運びを手伝っていた、名も知らない少女だ。
「助かるなら、それでいいと思うんですけど」
素朴な言葉。
悪意はない。
レインは、すぐに答えられなかった。
「……そう思えるうちは、それでいい」
絞り出すように言う。
少女は首を傾げたが、それ以上は踏み込まなかった。
夜。
焚き火の前で、レインは地図を見つめていた。
だが、そこに答えはない。
判断が通じる。
皆がそれを望む。
それ自体は、救いだ。
だが――。
もし、救われることを望まない者が現れたら?
もし、判断を拒む相手がいたら?
そのとき、自分はどうする。
焚き火が、静かに揺れる。
今はまだ、何も起きていない。
だが、違和感は確実に形を持ち始めていた。
それは、善意の裏側に空いた、小さな穴だった。
本話もお読みいただき、ありがとうございました!
少しでも続きが気になる、と感じていただけましたら、
ブックマーク や 評価 をお願いします。
応援が励みになります!
これからもどうぞよろしくお願いします!




