第27話 判断が通じる場所
依頼は、あまりにも普通だった。
山間の小さな集落。最近になって魔物の出没が増え、夜になると畑や家畜に被害が出ている。死者はまだ出ていないが、このままでは時間の問題だという。
「……拍子抜けするくらい、いつも通りだな」
カイルが、地図を眺めながら言った。
「こういう依頼が一番、ありがたい」
「そうだな」
レインは頷いた。
逃げない住民。
協力的な村長。
情報も揃っている。
判断が、そのまま結果につながる場所だ。
集落に到着すると、住民たちは不安げながらも、きちんと迎え入れてきた。被害の場所、時間帯、魔物の種類。どれも明確で、曖昧な点がない。
「森の北側ですね」
レインは即座に答えた。
「夜間に動く。群れではない。二体。索敵を嫌う個体だ」
村長が目を丸くする。
「……そこまで分かるのですか」
「痕跡が、そう言っている」
説明は最小限だった。
それで十分だった。
作戦は、短時間でまとまった。
住民を下がらせ、夜間にこちらから森へ入る。追いかけない。囲わない。逃げ道を一つだけ残す。
「追い詰めすぎると、村へ逃げる」
「……なるほど」
全員が納得する。
疑問も反論もない。
――判断が、通じている。
レインは、その感触を確かに感じていた。
夜。
森は静かだった。
風の流れも、音も、予想通り。
「……来る」
低く告げる。
二体の魔物が現れ、こちらの動きを探る。
レインは、迷わず指示を出した。
「今だ」
「止まれ」
「引け」
短い言葉。
それだけで十分だった。
戦闘は、数分で終わった。
被害なし。
想定通り。
集落に戻ると、村人たちが安堵の表情を浮かべる。
「助かりました」
「これで、安心して眠れます」
感謝の言葉。
自然な反応。
レインは、軽く頭を下げただけだった。
――これでいい。
判断は通じ、結果は出た。
誰も傷つかず、誰も迷わない。
だが。
焚き火のそばで装備を整えながら、レインは微かに違和感を覚えていた。
何かが、軽すぎる。
成功が。
判断が。
すべてが、滑らかすぎる。
「……なあ」
カイルが、ぽつりと言う。
「どうした?」
「いや……」
言いかけて、首を振った。
「何でもない。うまくいった、それだけだ」
その言葉に、レインは頷いた。
確かに、うまくいった。
これ以上、言うことはない。
それでも。
森の奥を振り返ったとき、レインは一瞬だけ、胸の奥に引っかかるものを感じた。
――ここは、判断が通じる場所だ。
では。
判断が、通じない場所は?
その問いは、まだ形にならないまま、静かに残った。
焚き火が、ぱちりと音を立てる。
第4章は、何事もなかったかのように始まった。
だからこそ、この先に待つ違和感は、
より深く、逃げ場のないものになる。
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