第25話 選ばれない立場
野営地を引き払った翌日、カイル隊は街道を外れた。
依頼が途切れたわけではない。むしろ逆だ。王都の打診を断ったという噂は、すぐに広がった。表立って評価されない代わりに、「表に出せない案件」が回り始めている。
それは偶然ではなかった。
「……随分と、きな臭い依頼ばかりだな」
地図を見ながら、カイルが呟く。
「正規ルートでは処理できない」
「失敗したときの責任を、誰も負いたくない」
レインは淡々と状況を整理する。
「だから、“判断を引き受ける存在”が必要になる」
セレスが、静かに補足した。
「選ばれない立場にいる者ほど、都合よく使われる」
「構わない」
レインは即答した。
「使われるのではなく、使わせる」
その言葉に、カイルが眉を上げる。
「……ずいぶん強気だな」
「強気じゃない」
レインは首を振った。
「選ばれないからこそ、選べる」
王都の制度に選ばれない。
ギルドの枠にも戻らない。
だからこそ、判断を縛るものがない。
最初の依頼は、辺境の集落だった。
表向きは魔物被害。
実際は、貴族領同士の境界争いに巻き込まれた住民たちだ。
「どちらの陣営につく?」
カイルが聞く。
「どちらにもつかない」
即答。
「被害を止める。それだけだ」
現地に着くと、状況は複雑だった。
一方の領主は防衛を理由に兵を出し、
もう一方は「侵入」を理由に討伐を命じている。
どちらも、法的には間違っていない。
だが、その間で人が死んでいる。
「……典型的だな」
セレスが言う。
「制度が衝突するとき、必ず“隙間”ができる」
レインは、集落を一瞥した。
「その隙間を埋める」
作戦は、単純だった。
夜のうちに魔物の巣を潰し、
同時に、両陣営の兵を接触させない。
危険な賭けだ。
どちらかが動けば、衝突は避けられない。
だが、レインは即断した。
「今だ」
「引け」
「それ以上、近づくな」
指示は短く、迷いはない。
夜明け。
魔物被害は止まり、
兵同士の衝突も起きなかった。
だが、両陣営ともに不満は残る。
「成果が曖昧だ」
「功績がはっきりしない」
報告書に残るのは、そんな言葉だけだった。
それでいい。
レインは、焚き火の前で静かに息を吐く。
救われたのは、名もない住民たちだ。
だが、誰も感謝を公式には表せない。
功績にならないから。
「……なあ、レイン」
カイルが、ぽつりと聞く。
「この立場、いつまで続ける?」
レインは、炎を見つめたまま答えた。
「必要とされなくなるまで」
「そのときは?」
「判断をやめる」
それは、逃げではなかった。
終わりを知っているからこそ、今を選べる。
遠くで、王都の方向に雷鳴が走る。
世界は、まだ整っていない。
だが、整えようとする者もいる。
選ばれない立場は、孤独だ。
だが、自由でもある。
レインは、その自由を、今日も選び続けていた。
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