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沖浦数葉の創作メモ -浦島太郎のウラ話-  作者: 広瀬凉太


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第11話 水族館へ行こう

「いや、あの……二人で出かけたいなら、水族館じゃなくても他にどこか……」

「……水族館デートが、したいです」

 そんなバスケットボールみたいに……。


「正直、水族館デートとか、もう彼女ほったらかしで魚に熱中する未来しか見えんのだが」

「……か、かのじょ……」

「そっちに反応する!?」

 また頬を赤らめた数葉だったが、不意に決意を込めた面持ちで俺の方をにらみつける。


「……大丈夫。絶対、魚なんかに負けない」

「なんでそんな浮気された彼女みたいになってんの⁉」

 時々妙な方向に暴走するな、この人。


「でもそれ、水族館に行って魚を見ないとか、行く意味ないんじゃないか?」

「……えっと、なくない……ちゃんと、ある」

「俺もデートなんてしたことないけど、何をすればいいんだ?」

「……それは、二人でしゃべったり、ごはん食べたり、お茶したり、歩いたり、たまには静かに時間を過ごしたり……」

 何か、いつになく饒舌だなあ。

 いやしかし、それは水族館じゃなくても……っていうか。


「それ、いつも学校で俺たちがやっていることと変わらないじゃないか」

「……ゑ」

 その一言だけを発して、数葉の動きが止まった。


「理数部は、実質部員二人みたいなもんだからな」

 うちの高校、全員がいずれかの部に所属しないといけないという校則がある。しかし実際は、名前だけ籍を置いただけで、事実上の幽霊部員だの帰宅部だのは多数存在する。

 だから、二人だけの部活動を中心とした高校生活は――。


 朝、別に待ち合わせたわけじゃないけど、同じ時間に通学路で出会い。

 また昼休み、と言葉を交わし、それぞれの教室へ向かう。

 教室は居心地悪いから、部室まで来て二人で弁当を食べる。

 また午後の授業はそれぞれの教室で別れ別れになるけど、授業中もどこか放課後を楽しみにしている自分がいて。

 部活中はそれぞれ別の作業をしながらも、時々声を掛け合って。

 たまに休憩して、おやつを食べて。

 時には今日のように、部活に関係ない話に熱中して。

 下校時間を迎え、名残を惜しみながら家路につく。


 そしてまた、同じような日々が続く。


 そんなたった二人の部活動だけど。

 『理数部』が今廃部になっていないのは、俺たち二人が実績を残せているから。

 そして俺の実績は、近くの山で絶滅危惧種の昆虫を見つけて、博物館に報告したとかそういうことなので。


「もし数葉がいなかったら、俺はさっさと学校飛び出して外で部活やってたぞ」

 放課後に部室に入り浸るようになったのは、部の統廃合で数葉と同じ部になって、そこからトラブルを乗り越えて少し仲良くなってからだ。

 

 その時、フリーズしてた数葉の唇がピクリと動くのが見えた。

 あ、再起動した。

「……この……アウトドア引きこもり……!」

「俺の扱いひどくない?」

 そう一瞬思ったが、人付き合いはずっと苦手で、野外で昆虫や魚、植物を相手に部活をしてたから、残念なことにあながち間違いでもない。

 正直、よく俺を見ているなと思えるほど。


「……違うの! 日常生活と、ちゃんとお出かけするのは違うの!」

 わ、わかったようなわからんような。


「で、それは具体的にどう違うんだよ」

「……知らない」

「いや知らんのかい!」

 ぷい、と顔を背ける数葉に、思わず脊髄反射でツッコんでしまう。

 数葉の方だっていままで男友達も彼氏もいなかったようだから、知らなくても当然かもしれないが。


「……だから、どう違うのか。確かめに、行こ?」

 俺だって、興味がないと言えば嘘になるだろうし、数葉にそこまで言われると応えたいとは思う。


 小学生のころ、いじめのせいで孤立していた俺。中学になっても人付き合いが苦手で、一生一人で生きていくなんて甘いことを考えていたこともあるが。

 たとえ恋愛、結婚をするつもりがなくとも、女性恐怖症を抱えたままでこの世を生きてゆくのは、やっぱり面倒だ。


 高校に入ってからの一年半、彼女にはいろいろと世話になった。

 この借りは、必ず返さねばなるまい。

 まだまだ時間はかかりそうだし、どんな形になるかもわからないが。


 そして俺は、期待と不安の入り混じった瞳を向ける数葉に対し、再び口を開く。

「それじゃあ、今度の土曜、あの水族館に行こう。待ち合わせは――」

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