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沖浦数葉の創作メモ -浦島太郎のウラ話-  作者: 広瀬凉太


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第12話 デート・イン・アクアリウム

 水族館の館内は薄暗く、大水槽から(こぼ)れる青い光が沖浦(おきうら)数葉(かずは)の横顔を照らしていた。

 静かに繰り返す波の音と、かすかに聞こえてくる雄大な音楽が、周囲の喧騒を忘れさせてくれる。


 先日の約束通り、俺――(しま)幻也(げんや)は数葉と共に、家から少し離れたところにある水族館を訪れていた。


 『夜目(よめ)遠目(とおめ)(かさ)(うち)』なんて言葉がある。

 女性が普段より美しく見える状況のことらしいが、そんなものがなくても元々彼女はかなりの美少女ではある。口に出しては言わないが。

 それでも、普段とは違う何やら神秘的な雰囲気を、今日の彼女は(まと)っていた。


 魚を眺めていた数葉が、こちらに視線を動かしたので、俺は慌てて目をそらす。

 水族館はあちこちに何度も行ったことがあるが、ほとんど俺一人だった。小さい頃に家族で行ったのを除けば。

 先日は、水族館は魚を見るところであってデートスポットなどではない、などと発言したが。

 女友達と一緒に来た途端に前言撤回とは恥ずかしい限りではあるが、誰かと一緒に魚を見るのも悪くない。

 それについては、大いに彼女に感謝しないと……。

 そう思っていた矢先。


「……タイや、ヒラメが食べたい……」

 大水槽で泳ぐ魚たちをぼんやり眺めながら、数葉はそんなことを(のたま)った。

「水族館は料理屋の()()じゃないぞ」

 なんか、ちょっといいムードだなとか思っていた俺が、一人で空回りしてたみたいじゃないか。


「……料理屋じゃなくても、水族館にレストランはない?」

「ここの食堂はレストランというよりフードコートみたいなもんだからな。本格的な魚料理はさすがに期待できないと思う」

「……今日じゃなくてもいい」

 うーむ……。何かこのまま、なし崩しに連続して二人で出かけることになりそうな気がするが……さて、どうしたものやら。


 しばらくそのまま、エントランスを兼ねた大水槽を眺めていた。

 その間、数葉の質問に答えたり、数葉のボケにツッコんだり。

 最初は少し緊張していたが、数葉のおかげというべきか、俺もいつもの余裕を取り戻しつつあった。


「そろそろ、次に行っていいか?」

「……ん」

 数葉を誘うように、次の順路へ向けて歩き出す。


「……あ」

 さすがに土曜の水族館は人が多い。それに、先日ニュースでこの水族館が話題になったこともあるのだろう。

 距離が空きそうになり、数葉が伸ばした左手を右手で軽く握る。

 ……まあ、はぐれると面倒だからな。


「……あっ……」

 数葉がまた、小さな声を漏らす。

 先ほどと少し違うが、嫌がっているわけでもなさそうだ。


 そう思った数秒後には、繋いだはずの手を彼女の方から(ほど)かれる。


 ……⁉


 やっぱり、いきなり手を握るのはまずかったか。そう思い引きかけた俺の手を、今度は数葉の方から(つか)み直してきた。

 な、何⁉


 戸惑いで動きの止まった俺に対し、数葉は俺と目を合わせぬままさらに左手を動かす。柔らかく、少し冷たい女子の指が、俺の指と指の間にもぐり込んできて――。


 待て。おい待て。ちょっと待て。

 これはまさか……。


 そのまま数葉は、互いの手のひらと手のひらを重ね、指にぎゅっと力を込めてきた。

 や、やっぱり、これ……俗に言う恋人繋ぎとかそういった何かでは……。


 いや、俺はデート的なものはこれが生まれて初めてだったりするわけで……。

 もうちょっと手加減とかそういうものをしてくれるとありがたいというか……。

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