第8話「午後の本命調達と、激変する生活」
午後一時半。強烈な日差しがアスファルトを焼き、幹線道路の向こうには熱気で陽炎がゆらゆらと揺れていた。
外をうろつく人影は直射日光を嫌ってか、高架下や建物の深い影に引っ込んで完全に静まり返っている。
「よし、午後の買い出しはこの一回で済ませるぞ」
陽介が電動アシスト自転車のサドルに腰を下ろし、二人に声をかけた。
「自転車二台の前カゴと荷台、キックボードのステップとリュック。これで積める分だけだ。無理して山積みにしたら危ないからな。必要な食料と、これからの生活が楽しくなるアイテムをしっかり選ぶぞ」
「了解! 米と肉と、あとはテンション上がるやつな!」
大輝がリュックのベルトをパチンと締め直す。
三人は正面ゲートに寄せた車のわずかな隙間から、音もなくスーッと道路へ滑り出した。
目指すのは、展示場のすぐ向かいにある大型の総合スーパーだ。
午前中に確認した通り、開け放たれたままのエントランスからスムーズに店内へ入り、ガラガラと音を立てないよう静かにカートを押して進む。
「まずは生きるための基本だな」
薄暗い食品フロアで、蓮が手際よく商品をカゴへ入れていく。
研ぐための水がいらない無洗米を二袋、合計十キロ。
飲料用のミネラルウォーターの箱を二つ。
さらにサバの味噌煮缶や焼き鳥の缶詰、ツナ缶を棚から一気にかき集め、日持ちするパスタ乾麺と大容量のトマトソース、レトルトカレー、そして自炊用の醤油や油、塩コショウを揃えた。
生活の基盤が整ったところで、三人はおもちゃ・バラエティ雑貨のフロアへ向かった。ここからが「ただ生き延びる」のをやめて、「優雅に暮らす」ための本番だ。
「おい、これ見てみろよ」
蓮が鍵の外れていたショーケースの前で足を止め、嬉しそうに振り返った。
「テレビに繋いでも本体だけでも遊べる携帯ゲーム機だ。予備のコントローラーも揃ってる。ネットがなくても、みんなで画面を囲んで遊べるパーティーゲームとレースゲームのソフトもあるぞ」
「うおお、マジか!」大輝が思わず声を弾ませる。「夜、部屋でボーッとしてたら絶対退屈で死んでたわ! これで夜更かし決定だな」
さらに三人は、男子三人暮らしを極上のリゾート気分に変えるアイテムを次々とカートに放り込んでいった。
水を入れてボタンを押すだけで良い香りのミストが出るアロマ加湿器と、柑橘系の天然オイル
頭から足先まで倒して完全に脱力できる、折りたたみ式のリクライニングチェア二脚
お風呂上がりに贅沢な気分になれる、分厚くて柔らかな新品の国産大判バスタオル
肌触りが最高にとろけるスウェット生地の部屋着
卓上でみんなでつつける、深型プレート付きの大きなカセットガス式ホットプレート
エントランスに戻り、自転車とキックボードへ荷物をパズルのように積み込んでいく。
重い米と水は自転車の低い位置へ固定し、ゲーム機や精密機器は背中のリュックへ。
バランスを完璧に整えた三人は、午後の穏やかな日差しの中をのんびりと走り、誰にも邪魔されることなく展示場へと帰還した。
ゲートの隙間に単管パイプをしっかりと噛ませ、内側から鍵をかける。
「ただいまー! いやあ、大収穫だな!」
スマートハウスのリビングに荷物を広げた瞬間、大輝が歓声をあげて床に転がった。
吹き抜けの高い天井を持つリビングに、真新しい生活の道具たちが並ぶ。
蓮がキッチンで小型プロジェクターをセットし、真っ白な大壁面に向けてゲーム機の電源を入れると、壁一面に鮮やかで楽しげなゲーム画面がパッと広がった。
サイドテーブルの上ではアロマ加湿器が静かに白い蒸気を吹き出し、部屋中に爽快なレモンの香りがふんわりと満ちていく。
「……なあこれ、ほんまに外でパンデミック起きてるんか?」
大輝がリクライニングチェアを深々と倒し、天井を仰ぎながら笑った。
「涼しい部屋で、ええ匂いがして、壁一面の大画面でゲームできて……ただの大学生の最高の夏休みやんけ」
「精神の安定は、長期の共同生活において最優先事項だからな」
蓮が満足そうに頷き、ケトルで沸かしたお湯でドリップコーヒーを三つのマグカップに注いだ。
「よし! 今夜はホットプレートでパスタ茹でて、ツナとタマネギを炒めて山盛り食うぞ!」
陽介が腕まくりをして笑いながら、二人にコントローラーを手渡した。
「腹ごしらえしたら、誰が一番速いか大画面で勝負だな!」
外の街がどれほど静まり返っていようと、鉄壁の守りと最新住宅に包まれたこの場所だけは、のんびりと笑い声の絶えない、温かな日常の空気が流れていた。




