↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末世界の住宅展示場  作者: すごいだぎとも


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/14

第3話「爆買い、ただしお代はツケで」

スマートハウスの給湯タンクから無事に生活水を確保し、回収したお菓子とジュースでひとまず空腹を落ち着かせた三人は、昼下がりのリビングで再び作戦会議を開いていた。


「家具もカーテンも展示場に山ほどあるし、この家の備え付け設備も最低限は動いとる。……せやけどな」

陽介がメモ帳をトントンと指先で叩いた。

「カップ麺を食うにも湯を沸かすケトルがない。夜に別の棟へ移動する懐中電灯もない。……それに、スマホの充電器が一人分しかないやろ」


「せやねん!」大輝が自分のポケットから黒い画面のスマートフォンを取り出した。

「電波はとっくに死んどるけどな……これ、電源切れたら終わりなんや。カメラロールに家族の写真も、あいつらの動画も入っとる。いつ通信が奇跡的に一瞬復旧するかも分からんし、何よりこれ見れんくなったら、俺ほんまに心が折れるわ……」


大輝の言葉に、リビングが少しだけシンと静まり返った。

あの日――世界が一変した数日前、あの地獄のようなパニックが始まる前まで当たり前に存在していた、笑い合っていた家族や仲間たちの姿。この3日間をがむしゃらに生き延びてこられたのは、ポケットの中にある「壊れる前の日常の記録」が心の支えになっていたからだった。


「せやな。あいつらが生きてるって信じるためにも、このバッテリーは絶対に切らしたらあかん」

蓮も静かに頷き、湿っぽくなった空気を払うように話題を切り替えた。

「あとな、大輝がさっき『リモコンの電池が切れててテレビがつかん』って騒いでたけど、テレビなんて画面の横か下に本体の主電源ボタンあるやろ。押せば普通につくぞ。ただ、当然地上波の放送は全部砂嵐やったけどな」


「うわ、本体にボタンあるん忘れてたわ……! でも砂嵐かぁ、ニュースも見れんのはキツいな」

大輝が頭をポリポリと掻く。


「だからこそ、欲しいのは『実用的な防災用品』と、この先の長い籠城を正気で耐え抜くための『QOL(生活の質)向上グッズ』や」

蓮が腕を組む。


陽介の屋上テラスからの事前偵察によれば、隣の大型家電量販店の周囲にゾンビの姿は見当たらない。モールの地獄絵図とは打って変わり、平日の開店前のように不気味なほど静まり返っていた。


「よし、家電屋へ行くぞ。狙いは防災グッズの棚、それと各自の城を快適にするアイテムを一つや」

「よっしゃあ! 行こうぜ!」


三人は展示場の倉庫にあった作業用の台車を引き、小走りで道路を横断した。

正面のガラス張りエントランスは電源こそ落ちているものの、ガラスの隙間に指をかけて横へ引くと、自動ドアの引き戸が「スーッ」とあっさり開いた。


「開いた開いた。鍵すら閉めてへんやん」

「そらパニックの最中に律儀に施錠して帰る店員もおらんわな」


店内に足を踏み入れると、天井の高い薄暗い空間が広がっていた。幸いにも感染者が迷い込んだ形跡はなく、営業終了後の静けさのまま時が止まっている。


「うおお……選び放題や……!」

大輝が目を輝かせて駆け出そうとするのを、陽介が首根っこを掴んで引き戻す。


「走るな、まずは必須の防災グッズからや!」


三人は入り口近くの特設コーナーへ急行した。

案の定、防災シーズン用の棚にはお宝が手つかずで残されていた。


カセットコンロ2台と、ガスボンベ(3本パック×8箱)


大容量モバイルバッテリー4台と、各種スマホ充電ケーブルの束


手回し充電対応の防災FMラジオライト


強力LEDランタン3個と、単三・単四乾電池のメガパック


湯沸かし用の省電力電気ケトル


「完璧や……! これで家族の写真が入ったスマホをいつでも充電できるし、温かいもんも食える!」

陽介が手早く段ボールごと台車へ積み込んでいく。


「よし、必須の任務は完了や。ここからは各自、自分の城の『QOL爆上げアイテム』を一個だけ選んで台車に載せろ。5分で戻ってこい!」


陽介の号令とともに、三人は店内の別々の通路へと散った。


5分後。


最初に戻ってきたのは蓮だった。抱えてきたのは、細長い箱。

「蓮、それ何や?」

「Bluetoothのネックスピーカーと、ノイズキャンセリングヘッドホンや」

蓮は満足げに箱を撫でた。

「和モダンの書斎で静かにラジオを聴いたり、オフラインで落としてある家族との動画をじっくり見返したい。それにノイキャンがあれば、外の不気味な風音や物音に怯えずに熟睡できる」

「さすが合理性の塊やな。ええチョイスや」陽介が頷く。


続いて、満面の笑みを浮かべた大輝が、両手で抱えきれないほどの巨大な箱を引きずってきた。

「おい大輝! それ何やねん!?」

「見ての通り、最新の全自動エスプレッソ&コーヒーメーカーや!!」

「はぁ!?」

陽介と蓮の声がハモった。

「お前、このサバイバルの真っ只中にエスプレッソマシンやと!?」

「当たり前やろ! 俺の南欧風のテラスハウス見ろよ! あのバルコニーのパラソルの下で、朝日に照らされながら淹れたてのエスプレッソ飲んだら、こんな地獄におることなんか一瞬で忘れられるわ! 俺たちには心の余裕が必要なんや!」

「……まあ、電気は使えるし、スタッフルームから回収したコーヒー粉もあるから否定はできんのが悔しいな……」蓮が苦笑いする。


「で、陽介は何にしたんや?」

二人が振り返ると、陽介は棚の奥から、片手で持てるコンパクトな直方体の箱を大事そうに抱えて歩いてきた。


「これや」

見せられたパッケージには、高級感のあるレンズの絵が描かれていた。

「……小型レーザープロジェクター?」

「せや。スマートハウスのリビングも、俺の三階の部屋も、壁一面が真っ白のクロスやったやろ。これがあれば、スマホ繋いで壁一面に大画面を作れる。夜、真っ暗な部屋でみんなで世界が狂う前の動画見たり、家族の写真を大きく映したりしたら……絶対元気出るやろ」


大輝と蓮が顔を見合わせ、同時にふっと表情を緩めた。


「……陽介、それめっちゃええやん」大輝が笑う。

「リーダー特権、大正解やな」蓮も頷いた。


防災用品を満載し、その上にプロジェクターとエスプレッソマシンと高級ヘッドホンを鎮座させた台車は、切実な生活とささやかな希望の塊だった。


「よし、レジを通るぞ」

陽介はカウンターの上に、メモ用紙を一枚ペラリと置いた。


『カセットガス、乾電池、プロジェクターその他諸々、ツケで借ります。世界の秩序が戻ったら必ず家族と一緒に払いに来ます。大学生一同』


「よし、撤収!!」


三人は台車を押しながら、再び小走りで展示場の要塞へと戻った。

背後でモールの巨大な影が沈黙を保つ中、彼らの避難生活は、確かな「温もりと人間らしさを取り戻した我が家」へと進化を遂げようとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。