第12話:生き残るための役割分担
女子たちの家に荷物を運び込み、それぞれの部屋を整え終えてから一時間後。
六人は大輝の家のリビングに集まっていた。
「さあさあ、まずは腹ごしらえや! 陽介んちのIHで炊いた白米、山ほどあるから遠慮せんと食ってな!」
大輝がテーブルに、湯気の立つ炊きたてご飯と温めたレトルトカレーを豪快に並べた。
皿に盛られた熱々のカレーを前に、絵里、葵、美咲の三人はスプーンを握ったまま目を潤ませた。
「……温かいご飯……」
葵の目から思わず涙がこぼれ落ちる。三日間の乾パンとわずかな水だけの生活から一転、温かい食事を口に運ぶと、三人とも無言で、だが夢中でスプーンを動かした。
食事が一段落し、蓮が淹れたドリップコーヒーの香りが漂い始めたところで、陽介が姿勢を正した。
「腹も膨れたところで、これからの共同生活について大事な話をさせてほしい」
女性三人の表情が引き締まり、最年長の絵里が居住まいを正す。
「はい。命を助けていただいて、あんなに綺麗なお家まで用意してもらって……私たちにできることなら、何でもやります」
「何でも、なんて重く捉えんでええよ」
陽介は苦笑いしながら手を振った。
「ただ、俺たち三人は見ての通りただの体育会系の大学生や。外へ物資を獲りに行ったり、重いものを運んだり、力仕事はいくらでもできる。でも、展示場の中に六人全員が引きこもって、男だけで全部の生活を回すのは正直限界がある」
「分業制の確立だな」
蓮がテーブルの上にメモ帳とボールペンを置いた。
「俺たち三人の主務は『外の警戒』『物資の調達』『正面バリケードの強化』だ。外に出るリスクを俺たちが背負う代わりに、展示場の中の生活維持――つまり内政を三人に手伝ってほしい」
「具体的には三つの仕事がある。それぞれの得意分野に合わせて分担してほしいんや」
陽介が指を一本ずつ立てながら説明を始めた。
「一つ目は、生活用水の管理と衛生管理だ」
蓮がメモに『水・衛生』と書き込む。
「各棟の給湯タンクから水を抜く作業や、持ち帰ったタオルの洗濯、食器の洗浄だな。水は命綱だが、無駄遣いすればあっという間に底をつく。生活排水をどこに流すか、感染症を防ぐために部屋や共用スペースをどう清潔に保つか。これを誰かに主導してほしい」
「それ、私にやらせてください」
手を挙げたのは、女子大生の葵だった。
「私、大学で生物環境系の学科なんです。水の節約とか、衛生管理の基本は分かります。タンクの水位チェックや排水の管理、あとゴミの分別や消臭対策もきっちりやります!」
「頼もしいな。それじゃあ水と衛生の統括は葵にお願いする」蓮が頷く。
「二つ目は、食料の在庫管理と調理計画」
大輝が身を乗り出して口を開く。
「俺たち、スーパーから米やら缶詰やらごっそり持ってきたはええけど、正直男の雑なメシしか作れん! どの食材から消費すべきか、カセットガスの残量をどう節約するか、栄養バランスをどう取るか……そういう家庭的な管理をしてくれる人がおるとめちゃくちゃ助かる!」
「それは私にお任せください」
絵里が穏やかに微笑みながら手を挙げた。
「アパレルの店長をしていたので、商品の在庫管理や仕分け、期限のチェックは一番得意です。実家暮らしで毎日の料理もずっと作っていました。調味料を無駄にせず、あるもので飽きのこない献立を考えます」
「完璧やん……! これで男の適当なそばめし生活から卒業できる!」大輝が歓喜の声を上げる。
「そして三つ目、日中の敷地内見張りと通信連絡」
陽介が最後に言った。
「陽介の家の屋上は、展示場の敷地全体とモールの幹線道路が一望できる。俺や大輝、蓮が外へ調達に出ている間、あるいは敷地内で作業している間、屋上から双眼鏡で周囲を監視する見張り番が必要や」
「私、やります!」
制服の袖をまくって元気よく手を挙げたのは、高校生の美咲だった。
「学校で弓道部に入ってて、動体視力と集中力には自信があります! 目も両目とも1.5あります!」
「頼もしいけど、絶対に無理は禁物やぞ」陽介が真剣な目で美咲を見た。「もし感染者や怪しい影を見かけたら、絶対に大声を出さず、モールから回収してきた小型トランシーバーで俺たちに静かに知らせる。それだけが絶対のルールや」
「はい! 責任持って見張ります!」美咲が力強く頷いた。
絵里:食料の在庫管理・調理計画
葵:生活用水・衛生・環境管理
美咲:屋上からの見張り・通信連絡
綺麗に三人の役割が決まった。
「よし、これで俺たちの『展示場コミュニティ』の骨組みができたな」
陽介が全員を見渡して笑う。
「俺たちが命がけで外から物資を引っ張ってくる。三人はこの展示場の中を安全で快適な場所に保つ。誰が上でも下でもない、対等なチームや。みんなで生き残るぞ」
「「「はい!」」」
三人の女性の返事は、救出された直後の怯えきった声とは見違えるほど、力強く前を向いていた。




