第11話:新しい住人と、住居の提供
モールを脱出した六人は、死角を縫うようにして住宅展示場へと戻ってきた。
車で塞いだゲートの隙間をくぐり抜け、内側から単管パイプでバリケードを戻した瞬間、女性三人は張り詰めていた糸が切れたようにその場へへたり込んだ。
「……ここまで来れば、もう大丈夫や。立てるか?」
陽介が声をかけ、ゲートから一番近く、かつ強固な防犯シャッターが下りている自分の拠点――02号棟(重量鉄骨3階建て)の玄関へと三人を目配せで促した。
「靴、脱いで入ってな。今はお客さんや」
陽介が招き入れ、内側から頑固なツーロックをカチャリと閉める。
玄関を上がって二階のLDKへ通すと、女性たちはその広さと清潔さに息を呑んだ。
テーブルの上には午前中にモールから運んできた物資が整然と積まれ、太陽光で動くエアコンからは心地よい涼風が吹き出している。
「座って、座って! とりあえず喉潤して落ち着こ!」
大輝が手際よく動き、昨日スーパーから回収してきた未開封のミネラルウォーターと、個包装の焼き菓子をリビングテーブルに並べた。
喉を鳴らして水を飲み、甘いものを口にしたことで、ようやく三人の顔に血の気が戻ってきた。
落ち着いたところで、互いに自己紹介を交わす。
オフィスカジュアルを着た二十五歳の女性は、モール内のアパレル店に勤める絵里。
リュックを抱えていた二十歳の女子大生は、近隣の大学に通う葵。
そして、制服姿で二人をかばっていた十七歳の高校生は、地元高校の二年生美咲だった。
「本当に……助かりました。あのまま部屋にいたら、私たちもどうなっていたか……」
絵里が何度も頭を下げる。
「礼はええよ。同じ人間見捨てて逃げられるほど、俺らも図太くないしな」
陽介が笑い、リビングのローテーブルに展示場の案内図を広げた。
「さて……これからのみなさんの寝床についてや。ここは十一棟のモデルハウスが並ぶ展示場や。俺たち三人はすでに一棟ずつ自分の家を決めて使ってるけど、まだ空いてる家が八棟ある。どれも最新のモデルハウスで、鍵もかかるし雨風もしのげる」
「えっ……一人一軒、まるごと使ってるんですか……!?」
葵が目を丸くして驚いた。
「せやで! 好きな家選び放題や!」
大輝が得意げに胸を張る。
「ただし、設備面の条件を説明しておく」
蓮が静かに口を開き、案内図を指差した。
「電気は各棟の太陽光パネルで昼間なら動く。水も各棟の裏にある給湯タンクから抜けば、当面の生活用水には困らない。ただ、夜間に安定して蓄電池で電気が使えるのは、俺の家(03号棟)だけだ。他の家は、夜は充電式ランタンで明かりを取ることになる」
蓮は空き家の中から、状態が良く安全性の高い候補として、敷地の奥にある【04号棟・木造平屋】をペンで指した。
「三人で一緒に暮らすなら、この04号棟の平屋が一番いいと思う。通りから一番離れた敷地奥にあるから外からの視線も入らない。大輝の平屋と同じで階段の上り下りがないワンフロア設計だから、何かあったときの逃げ道も多くて移動が安全だ。広いLDKに、寝室がしっかり分かれて三部屋ある」
「三人一緒でいいなら、そこが一番落ち着くはずや」と陽介も頷く。
三人は顔を見合わせ、少しの間小声で相談した後、年長の絵里が代表して口を開いた。
「あの……その、三人で一緒に住める平屋の家をお願いできますか? この数日間ずっと三人で身を寄せ合っていたので、一人ずつ分かれるのはまだ怖くて……」
「夜の電気も、昼間のうちにランタンを充電しておけば十分です!」
美咲も頷いた。
「決まりだな。じゃあ、さっそく鍵を持って案内しよう」
陽介がリビングのキーボックスから「04号棟」と書かれた鍵を取り出した。
陽介の家を出て、中庭を抜けて敷地の奥へと向かう。
04号棟の玄関ドアを解錠し、一歩足を踏み入れた瞬間、女性陣から「わあ……」と小さな歓声が漏れた。
無垢のフローリングに、落ち着いた木目調の家具。
広々としたワンフロアのリビングには大きなソファが置かれ、奥にはそれぞれ個別に使える清潔なベッドルームが三部屋並んでいた。昨晩まで埃っぽい防災センターの床で震えていたのが嘘のような、清潔で温かみのある空間だった。
「キッチンも広い……! ちゃんとIHもついてる!」
葵がカウンターを撫でて目を輝かせる。
「階段がないから段差で転ぶ心配もないし、ワンフロアで互いの気配が分かるから安心やろ」
大輝がからりと笑う。
「内側からしっかり鍵をかけて、外回りのシャッターを下ろせば外からは絶対に見えないし入れない。ここは今日から、君たち三人の城や」
陽介が鍵を絵里の手のひらに手渡した。
「ありがとうございます……本当に、ありがとうございます……!」
三人が深く頭を下げた。
「着替えの服やタオル、あと食料も後で運んでくるからな!」
大輝が頼もしそうに腕まくりをする。
展示場の一角に、新たな生活の拠点がしっかりと根を下ろした瞬間だった。




