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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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3/ペルフェン -4 依頼

 次に俺たちは、ペルフェンの迷宮特区にある遺物三都ギルド連盟本部を訪れていた。

 ギルドという形態の人材斡旋業を最初に導入したのはペルフェンだ。

 そのため、ギルドの中心はペルフェンであり、逗留している冒険者の数も遺物三都でいちばん多い。

 にも関わらず、ベイアナットのような粗野な印象がないのは、アインハネス公国自体が罰金制度の多い国だからだ。

 憲兵の駐留所も、先程訪れた中央区のものだけでなく、各区ごとに存在し、取り締まりを厳しく行っている。

 その代わり、ペルフェンには富裕層が多く、高額な依頼料が見込める。

 自由なベイアナットを選ぶか、仕事を選り好みできるロウ・カーナンを選ぶか、収入の多いペルフェンを選ぶか、それはパーティ次第ということだ。


「──すみません、仕事の依頼をしたいのですが」


 受付の女性が朗らかな笑顔で答える。


「どういったご依頼でしょうか」


「人捜しです」


「了解いたしました」


 手元の紙に何やら書き付けながら、受付の女性が説明を始めた。


「依頼の際は、予定成功報酬の三割を手数料としてギルド連盟に納めていただきます。この手数料は依頼が達成されなかった場合でも徴収いたしますので、その点、ご理解のほどよろしくお願いいたします。また、前金制度については、ギルドは一切責任を持ちません」


「前金、でしか?」


 プルが驚く。


「や、ヤーエルヘルでも、知らないんだ……」


「ベイアナットではあまり聞きませんでした……」


「ベイアナットやロウ・カーナンではあまり一般的でない制度ですね。前金を設定すれば、冒険者たちは我先にと仕事を承ります。急ぎの依頼などでは役に立つ場合もありますが、反面、前金のみを狙う輩が受けるだけ受けて仕事を放棄する事例がございます。そういった場合、当ギルド連盟は責任を負いかねますので、その旨をあらかじめ告知させていただきました」


「勝手に乗せるぶんには構わない、と」


「ご自由にしていただければと思います。ところで、ご予算はいくらくらいを想定なさっておられるでしょうか。人捜しですと、成功報酬は最低でも百シーグルとなっております。ですが、最低価格ですと、請け負うパーティが少なく──」


 金貨を一枚、受付の女性の前に置く。


「──……!」


 受付の女性が目をまるくする。


「……これ一枚あれば、皆、競い合うように仕事を受けるでしょう。予定報酬のさらに五パーセントを手数料に上乗せしていただければ、連盟と直接契約を交わしている信頼と実績のあるパーティを優先的に斡旋いたしますが、いかがでしょうか」


「ああ、たぶん必要ないですね。複数の冒険者に依頼したいんで」


「複数、……ですか?」


「ええ。百名ほど」


 受付の女性が絶句する。


「いえ、その。このエルロンド金貨を以てしても、百人への依頼は少々難しいかと……」


「これは前金ですね」


「だとしても、一枚の金貨を百人で分けるのは、いささか少ないかと存じます」


「なら──」


 俺は、足元に置いてあった革袋を開き、受付の机の上に置いた。

 無数の金貨が覗く。


「……はい?」


「百枚ほどあるんで、前金は一人一枚。捜し人の発見に通じる重要な情報を手に入れた方には、金貨二百枚を支払います。これでどうですかね」


 受付の女性が目を白黒させる。


「ぜ、ぜ、前代未聞です……! すみません、う、上の者を呼んで参りますので、その、しばらくお待ちいただければと!」


 そう言って、慌てて奥の扉へと姿を消した。


「な、なんか、悪いことしちゃった、……かな」


「いえ、これほど大口の依頼もそうありますまい。喜んで冒険者を集めてくれるかと」


「でしね」


 そこに、受付の女性の上司と思われる壮年の男性が、揉み手をしながら現れた。

「お待たせいたしました。高額のご依頼、まことにありがとうございます。それでは、これより必要事項を──」






 手続きが滞りなく終了し、各区の掲示板に俺たちの依頼が迅速に貼り出される。

 予定の百人が集まったのは、掲示してから僅か三十分後だった。

 誤算だったのは、規定の百人を超えても冒険者の波が収まらず、ギルド連盟本部の大会議室がギュウギュウ詰めになってしまったことだ。

 だが、一人当たり金貨一枚なら、さして惜しくはない。

 結果として三百人以上に膨れ上がった冒険者たちに向け、依頼内容を説明する。


「おい、聞け! 俺たちが捜してるのは、銀髪の──」


 だが、俺がいくら声を張り上げても、こちらに注目するのは手前の数列のみ。

 ざわめきばかりが大会議室を支配している。

 なにせ、廊下にまではみ出しているのだ。

 声が届かないのも当然かもしれない。


「か、かたな。まかせて」


 プルが俺の前に出る。

 そして、




「──静まりなさい」




 決して大きくはない。

 にも関わらず、どこまでも響き、伸びる、透き通った声だった。

 冒険者たちの私語が、ぴたりと止まる。


「わたしたちは、銀髪で、左手に火傷の痕のある、三十歳前後の女性を捜しています。捜し人の発見に通じる有力な情報を提供していただいた方には、成功報酬として金貨二百枚をお支払いいたします」


 プルが言葉を止めた瞬間、会議室が歓声に包まれた。

 ある者は吠え、ある者は叫び、ある者は隣と肩を組んで踊り出す。

 やがて我先にと大会議室を出て行き、残されたのは俺たち四人だけとなった。


「……お、お金って、すごー……い」


 プルが、目をまるくしながら呟いた。


「金が手に入る。たったそれだけの理由で、人は人を殺し得るのです。これほど恐ろしいものもありません」


「怖いでしね……」


「遺物三都を出たら、俺たちが金を持ってることは隠そう。トラブルの元だ」


「そ、……そうだ、ね」


「──さて、しばらくは報告待ちか」


 事ここに至れば、待機することしかできない。

 俺たちまで捜索に出てしまえば報告を受け取ることができないからだ。

 携帯電話の便利さを噛み締めながら、俺たちは、ただただ時間が過ぎ行くのを待ち続けた。






 曰く、銀髪の女性を見たが火傷はまだ確認していない。

 曰く、そこらを歩いていた子供の手に包帯が巻いてあった。

 曰く、行きつけの定食屋の大将が火傷をしたからそれに違いない。

 そんな箸にも棒にもかからない証言ばかりが次々と届く。


「……三百人は、ちと多すぎたかもしれん」


「たしかに。ここまで情報の質が落ちると思わなかった。成功報酬も高すぎたか。金貨百枚くらいに抑えておいてもよかったかもな」


 もっとも、それでも十分過ぎる額だとは思うが。


「も、もう、やっちゃったから……。でも、じょ、情報は集まってるし、あとは、わたしたちが、見逃さないようにするだけ、……かな」


「でしね。三百人もいれば、ペルフェンの隅から隅まで目が届くはずでしから」


 そんな会話を交わしていたときのことだった。


「──お、おい! ワンダラスト・テイル!」


 革鎧が寸断され、腹からかすかに血を滲ませた若い冒険者が、大会議室に飛び込んできた。


「!」


 プルが立ち上がる。


「け、怪我、してるんです、……か!」


「いや、気にすんな。皮一枚しか切れてねえ。──って、それより!」


 冒険者が、まくし立てるように続けた。


「俺の仲間が、長い銀髪を束ねた男に声を掛けたんだ。左手に火傷のあるやつだ。華奢な優男だったから、見ようによっては女に見えるんじゃないかと思ってよ」


「……銀髪を束ねた、男」


 ヘレジナが、神妙な顔で、冒険者の言葉を繰り返す。


「そしたら奴さん、いきなり斬り掛かってきやがった!」


「──来たか!」


 思わず口の端が上がる。


「ありゃあ、間違いねえ。すねに傷のあるやつだぜ。今は、そこらにいた冒険者たちで追い込んでる。あんたらもさっさと来い!」


「わかった、案内してくれ!」


「ああ!」


 俺たちは、手早く荷物をまとめると、冒険者の後について駆け出した。

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