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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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3/ペルフェン -3 留置棟

 広い駐留所を縦断し、ある建造物の前へと辿り着く。


「ここが留置棟だ。いま手続きをしてくる。しばし待て」


 数分後、事務手続きを終えた兵長と共に、留置棟へと足を踏み入れる。

 そこは、数日前に俺たちがぶち込まれたベイアナットの留置所とは異なる快適そうな部屋だった。

 ただし、鉄格子が嵌められている点に変わりはないが。


「オゼロ=プリヤシュ。面会だ」


 心ここにあらずとばかりに窓の外を眺めていた老齢の小男が、こちらを向いた。


「どなた、でございましょう……」


 ヘレジナが一歩前に出る。


「私たちは、ワンダラスト・テイル。ルルダン二等騎士の屋敷を半壊させた張本人──と言えば、思い出していただけるだろう」


「あなたたちが……!」


 オゼロが目を見張る。


「言われた通りに百三十万シーグルを用意してきたら、こんなことになっていた。お悔やみ申し上げる」


「そうか。あなたたちが、あの銀琴を……」


「あの時ばかりはやむを得なかったのでな」


「──…………」


 主人のことを思い出したのか、オゼロが目を伏せる。


「私たちは、銀琴を取り戻さねばならない。そのために、ルルダン二等騎士を殺害した犯人を捜すつもりだ。もし貴殿がルルダン二等騎士の雪辱を望むのであれば、私たちに賊の面相を教えていただきたい」


「嗚呼──……」


 しばし床を見つめ沈黙したのち、オゼロがようやく顔を上げた。


「……私などでよろしければ」


「ありがとう」


 ヘレジナが、オゼロに右手の甲を向け、一礼する。

 俺たちもそれに倣った。


「あれは、昨夜のことでございました。ルルダン様を訪ねて来られたのは、銀髪の女性であったと記憶しております。私とは言葉を交わさなかったものですから、名はわかりません。年の頃であれば三十歳前後。ドレスの左袖から爛れたような火傷の痕が覗いたことを、よく覚えております」


「──……!」


 俺たちは、互いに顔を見合わせた。

 重要な手掛かりだ。


「妙だとは思っておりました。ルルダン様のすることには口を挟むまい。そう思い、何も進言しなかったこと、悔やんでも悔やみきれません」


「妙?」


「はい。神代の魔術具のような価値あるものを売却する場合は、オークションを開くのが常です。誰しもの目に留まり、価格も吊り上がる。ですが、ルルダン様はそうしなかった」


「……確かに妙だな。より高く売り払う手段があるのなら、そちらを選ぶのが自然だろう」


「私の推測になりますが、その点には心当たりが」


「聞かせていただきたい」


「はい。ルルダン様は売却を急いでおられました。あなたたちが百三十万シーグルを工面してくる可能性を危惧してのことでしょう。事実、耳を揃えておられるのですから、その判断は正しかったかと」


「返す気などは毛頭なかった。そういうことか」


「申し訳ございません……」


「あなたの落ち度ではあるまい」


 深々と頭を下げたあと、オゼロが続ける。


「ルルダン様は、方々手を尽くして売却先をお探しになられました。ですが、価値ある品ほど小回りは利かぬもの。検討する方はおられても、即決する方はそういない。少なくとも、遺物三都では買い手は見つかりませんでした。あの銀髪の女性がどこから来たのか、私には皆目見当もつかないのです。あのような怪しい手合い、お止めしていれば──」


 兵長が、懐中時計を手に告げる。


「あと一分だ」


「……他に、役立ちそうな情報はあるか」


 オゼロが首を横に振る。


「ありがとう、オゼロ=プリヤシュ。銀琴を取り返し、ルルダン二等騎士の仇を討つため、全力を尽くすと誓おう。それでは」


「お気を付けて……」


 最後に一礼し、俺たちは、留置棟を出た。

 ヘレジナが呟く。


「……左手に火傷の痕、か」


「心当たりでもあるのか?」


「ないこともない。だが、恐らく違うだろう。そもそも、手に火傷の痕がある人間というのは、多くはなくとも決して珍しくはないものだ。子供のころ、炎術の制御に失敗して火傷を負った経験ならば、私とてある」


「そうか、手から火を出せる世界だもんな……」


 現代世界の感覚で言うならば、決定的な特徴なのだけれど。

 すたすたと早足で歩く兵長の背中に声を掛ける。


「──ああ、兵長さま。一つ確認したいことがあるのですが……」


「なんだ」


「憲兵隊であれば既に、出入国管理所へ手を回しているはずです。銀琴らしき魔術具を所持した人物がいたか、お尋ねしたいのですが……」


 兵長が振り返り、腕を組む。

 左手の指が、三本立っていた。


「──…………」


 金貨を三枚握らせる。


「現状、ペルフェンからロウ・カーナン、ベイアナットへ出国する人々の中に、銀琴らしきものを持っていた人物は確認できていない。犯人がまだペルフェンにいる可能性は低くないだろう」


「なるほど……」


 捜索すべきは、やはりペルフェンだ。

 その確信が持てただけでも、金貨三枚の価値はある。


「お前たちが犯人を捜すと言うのなら、止めはせん」


「よいのですか?」


「実を言えば、現在、郊外に魔獣の群れが現れていてな。憲兵隊の隊士の半分は、そちらの対処に追われているのだ。ルルダン二等騎士の件も決して捨て置けはしないのだが、より優先すべきは市民の命だ。そのため、捜査に回す手が足りていないのが実情でな。たとえ捕まえたのが冒険者だとしても、逃げられるよりは言い訳が立つ。我々は関知はしないが、邪魔もしない。ワンダラスト・テイルという名を出せば通るよう、通達を出しておこう」


 ヘレジナが目をまるくする。


「至れり尽くせりではないか」


「受け取った金額ぶんの働きはする。その程度のプライドはあるものでな」


 欲望に忠実で金に汚いわりにカッコよかった。


「相手は殺人者だ。気を付けろ。もっとも、冒険者に言うことでもないだろうがな」


「ありがとうございます」


 俺たちは、兵長に別れを告げ、憲兵隊駐留所を後にした。

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