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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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2/ロウ・カーナン -11 リンドロンド遺跡

「──…………」


「──……」


 もう、どれほどのあいだ、この部屋に閉じ込められているだろう。

 とうに話題も尽きて、沈黙の支配する時間が多くなっていた。

 そんなとき、まだ尋ねていないことを思い出した。


「……そう言や、聞き忘れてたな」


「うん?」


 横になっていたヘレジナが身を起こす。


「ルインラインが銀琴を見つけたときの話だよ。ナクルが好きだってやつ。暇だし、話してくれよ」


「ああ、構わんぞ。リンドロンド遺跡にまつわる逸話は、たしか歌劇にもなっていたはずだ」


「マジか……」


 こほんと咳払いをし、ヘレジナが話し始める。


「リンドロンド遺跡とは、トレロ・マ・レボロ以北の無帰属地帯──どの国にも属さない死の土地にある遺跡群のことだ」


「カナン遺跡群みたいなもんか?」


「少々趣が異なる。カナン遺跡群は見渡す限りの廃都だが、リンドロンド遺跡には象徴的な建造物が一つあった。それが、尖空の塔。天を衝く高さの尖塔だ。師匠は、その尖空の塔の調査を仰せつかり、調査隊を引き連れて雪中行軍を行った」


「トレロ・マ・レボロって、ヤーエルヘルの故郷だよな。北方十三国最北の国だっていう。そのさらに北って、とんでもない寒さなんじゃ?」


「寒いなんてものではない。尖空の塔へ辿り着くまでの物語で、歌劇の一、二幕にはなるのだが、そこは省こう。調査員の半分を失いながら、師匠は、天を衝く塔を登っていった。最上階へと上がることができたのは、師匠ともうひとり──この物語の語り部であるアイヴィル=アクスヴィルロードだけだった」


「誰だ、それ」


「パレ・ハラドナ騎士団〈不夜の盾〉の、現副団長だ」


「〈不夜の盾〉って、たしか──」


「ああ。〈不夜の盾〉は、師匠が団長を勤める国家最高位の騎士団だ。アイヴィルは師匠の直属の部下に当たる。彼は当時、若干十六歳。にも関わらず、師匠に最後まで付き従い、ついには師匠が天竜を殺す瞬間をその目でたしかに見届けたのだという」


「地竜だけじゃなくて、天竜なんてのも殺してたのかよ……」


 ほんと、とんでもないおっさんだ。


「尖空の塔の最上階で天竜が後生大事に守っていたのが、銀琴とハサイ楽書だ。銀琴の名は、銀輪教の聖典に記される魔術兵器の名から取られている」


「魔術兵器……」


「純粋魔術によって作られた魔術兵器〈白銀の琴〉。研究者いわく、銀琴は、〈白銀の琴〉を元に粗製濫造されたレプリカの一つではないか、ということだ」


「……あの威力で、レプリカ?」


「本物ではない。それだけは確かだ。何故なら、師匠とアイヴィルは、尖空の塔の最上階で本物の〈白銀の琴〉を目撃しているのだから」


「なんだ、結局はその塔にあったのか」


 ヘレジナが首を横に振る。


「違う。最上階から見えたのだ」


「──…………」


「師匠とアイヴィルは、見た。吹雪に煙る景色のなか、尖空の塔より北の地にそびえ立つ、塔より遥かに巨大な琴の影を。その周辺に並び立つ、自分の立っている塔とまったく同じ、無数の尖塔の姿を」


 背筋が総毛立った。


「……マジかよ」


「聖典では人の身より遥かに巨大とされる〈白銀の琴〉。それがまさか塔より巨大とは、いやはや間違いではないにしろ、聖典の編纂者にはすこしばかり文句がある──と、師匠は笑っていたよ」


「ルインラインらしいな」


 ふ、と笑い合う。


「なら、ハサイ楽書っつーのは?」


「銀琴と共に発見された魔術書だ。無数の未知の術式が記されている。だが、七百ページにわたる術式のすべてが近代魔術とはまったく異なる法則によって描かれており、解析の取っ掛かりすらない。すべてがでたらめと断じる学者も多い」


 ヴォイニッチ手稿みたいなもんか。


「銀琴の傍にあったから、音楽書なのではないか。そんな冗談から付けられた仮の名が、そのまま通名になったという話だ」


「すげえ面白い話だな……」


「だろう?」


 たしかにナクルが好きそうだ。


「──あのさ」


「うん?」


「やっぱ、お前にとって、銀琴は大切なものなんだろ」


「……もう、いいのだ。そこにある財宝で足りなければ、もう失っても構わない」


 首を横に振る。


「駄目だ」


「カタナ……」


「銀琴の話をしてるお前は、すげえ生き生きしてた。楽しそうだった。だから、取り返すぞ。……絶対に!」


 ヘレジナが苦笑する。


「強引なやつめ」


「諦めるのが嫌いなんだよ。嫌いになったんだ。お前のご主人さまのおかげでな」


「ははっ」


「迷惑だったか?」


 すこしだけ間を置き、ヘレジナが俺の目を見つめ返した。


「──迷惑なはず、あるまい?」


 その言葉を最後に、また、沈黙が場を支配した。

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