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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -18 〈オクルくん〉と〈マナミエル〉

 俺は、ある程度の情報を明かすことにした。


「──実は、俺、剣術士なんだ」


「フム。マア、腰に剣を差しているカラナ」


 丸わかりだった。


「どうしても勝たなければならない相手がいる。そのために、戦闘中に治癒術をかけ続けたいんだ。でも、わざわざ治癒術をかけてもらうために、いちいち皆のところへ戻るわけにもいかない。だから、そういう道具が存在すればと思って、発明家を探してたんだよ」


「チト卑怯ではナイカ?」


「……言い方が悪かったな。試合とかじゃなくて、純粋な命のやり取りだから」


「ウーム……」


「頼む、金なら払う!」


「スポンサーが複数いるユエ、金には困ってオラン! 助手カタナよ。助手をスル代わりに、ソノ発明品を譲るとイウのはドウダ?」


「あー……」


 助手ともなれば、この研究所《ラボ》に詰める必要があるだろう。

 だが、俺たちには時間がない。

 リンシャの段階で影の魔獣を処理したことで、ハルユラに下る神託がどう変化したかもわからない。

 早急にアルクハルヴァ神殿へ向かう必要があった。


「……すまん。けっこう急ぐ旅路なんだ」


「ソウカ……」


 ハレが、寂しげに俯く。

 見かねたマナナが、ハレに話し掛けた。


「どうして助手を大々的に募集しないんだい? ハレの資産なら何人も雇えそうだし、やる気のある人が来るだろ」


「──…………」


 ハレが、俺たちを順に見回す。


「助手カタナに、ソノ仲間タチよ。帽子をカブッテいる面々は、純人間ダナ?」


「……ああ、気付いてたか」


 遠慮なく帽子を脱ぐ。

 ヤーエルヘルとクロケー以外の四人も、俺に続いた。


「ヤハリな」


 ハレが満足げに頷き、答えた。


「知ってのトオリ、宗教上の理由カラ、亜人は魔術を忌避スル。魔科学の役には立タン。ツマリ、魔科学を追求するニハ、魔術に長ケタ人間──スナワチ純人間の協力が必須ナノダ。ワタシは決して魔術に堪能デハナイ。それユエな」


「あ」


「ム?」


「それなら、なおさら無理だわ。俺、そもそも魔力《マナ》がないんだよ」


「──…………」


 ハレが、一瞬固まった。

 失望されただろうか。

 あれほど助手だ助手だと騒いでいたのに、すこし心が痛んだ。

 だが、ハレの反応は、その正反対だった。


「──興味深イ!」


「は……?」


「ソモソモ、魔力《マナ》を持たない人間は非常に珍シイ! 研究を行うタメのサンプルが、ほとんどいないノダ! 彼らは何故魔力(マナ)を持たないノカ! 仮に持っていたとシテ、魔法や魔術を使えナイのはイカなる理由によるモノカ! 助手カタナ! ソノ問題を解決するためニハ、君が必要ナノダ!」


 なるほど、これか。

 エル=タナエルが、ハレにとって俺たちは面白い存在なのだと言っていた。

 魔科学の研究のためには純人間の協力が必要だし、魔力《マナ》を持たない俺は貴重な研究対象だ。

 俺たちのことを知ったハレが押し掛けてくるのも、むべなるかな、と言ったところだろう。


「いや、だからな。先を急ぐから……」


「ダッタラ、ワタシが君タチについて行けばイイ!」


 ああ、やはりこうなるのか。

 様子を窺っていた面々を振り返る。


「わっ、わたしは、あぶない、……と思う……」


「……そうだよな」


「こ、これ以上女の子が増えるのは、あ、あ、あぶない……!」


 そっちかよ。


「……オレも、危ナイと思う。コレから戦う相手を考エルと、一般人は連れて行けナイ」


「そうだよな!」


 さすがクロケー、我が戦友である。


「フム。よほどの強敵と見タガ……」


「まあ、な」


 世界一の剣術士、その成れ果て。

 本物の怪物だ。


「ナラバ、こうシヨウ。フラスネイオン式ワイヤレス魔術伝送装置〈オクルくん〉だけでナク、ワタシの開発した他の発明品も提供シヨウではナイカ!」


「ほう」


 意外にも、ヘレジナが食いついた。


「ハレよ。私は今、剣術士として伸び悩んでいてな。正直に言って、猫の手も借りたい状況なのだ。何かこう、一足飛びに強くなれる発明品はないか?」


「フム」


 ハレが下唇をつまみ、答える。


「モウすこし方向性を絞れナイカ? ワタシは武術士ではないユエ、何をドウしたら強くナレルのか、ワカラン!」


「そうさな……」


 しばし思案したヘレジナが、頷きながら答えた。


「例えば、魔力《マナ》が見えるようになる道具──などはどうだ?」


 理解する。


「ああ、遠当ての練習用か」


「そうだ。出ているか出ていないかもわからなければ、上達するはずもない。魔力《マナ》さえ見られればコツが掴める気がするのだ」


「ナルホド! すこし待ってイタマエ」


 どう見てもガラクタ置き場としか思えない場所に頭を突っ込み、しばしごそごそしたかと思うと、ハレが一本の眼鏡を持ってきた。


「コレは、ワタシが開発した魔力《マナ》観測用眼鏡〈マナミエル〉の予備ダ! 魔力《マナ》が見エルと便利なので愛用シテイル」


 ネーミングセンスにツッコみたいが、話がややこしくなりそうなのでやめておく。


「おお、本当にあるとは! いったい、どういう原理なのだ?」


「このレンズは、半輝石《セル》を非常に薄ク加工したモノダ。半輝石《セル》は、魔力《マナ》を内ニ貯め込むダケでナク、魔力《マナ》に反応シ僅かに発光する性質を持ってイル。ソノため、魔力痕の調査ニ使うヨウナ純度の高イ半輝石《セル》で作ったレンズを通スト、魔力《マナ》が観測デキルようにナルノダ!」


「へえー……」


 素直に感心する。

 この発明品だけで、世界が変わるのではないだろうか。


「サア、着けてミタマエ!」


 ヘレジナが〈マナミエル〉を掛ける。


「どうだ、似合うか?」


「……けっこう似合うな」


 学級委員って感じだ。


「うん、似合う似合う。知的に見えるよ」


「似合いましー!」


「そうかそうか」


 既に満足そうだ。


「デハ、ワタシの指先を見るがイイ」


 ハレが人差し指を立て、口をつぐむ。


「──おお!」


 ヘレジナが、目をまるくしてハレの指先に見入っていた。


「どうだ?」


「カタナも掛けてみればわかるぞ」


 ヘレジナから〈マナミエル〉を受け取り、装着する。

 そこにあったのは、水に落とした金色のインクのような、輝く流体だった。

 ハレの指先から放たれる魔力《マナ》は、重力に従うことなく自由に線を、弧を、渦を描き、徐々に霧散していく。

 煙草の煙にも近いが、それよりも遥かに重く、もったりとした印象だ。


「魔力《マナ》って、こんなんなのか……」


「み、み、みたー……い!」


「はいよ」


 プルに眼鏡を渡す。


「魔力《マナ》の観測は、各自でヤッテくれタマエ」


 そう言って、ハレが人差し指を下ろした。


「……カタナ。私は、あの眼鏡が欲しくてたまらん」


「だよな……」


 魔力《マナ》の可視化は、地味ながら、確実にヘレジナの地力となるだろう。

〈オクルくん〉に〈マナミエル〉。

 この二つの発明品が手に入るのであれば、ハレを騎竜車に乗せる価値は十二分にある。


「……わかった。俺は、ハレの加入に賛成するよ。皆はどうだ?」


「う」


 眼鏡を掛けたレアなプルが、しぶしぶ頷く。


「……し、しかたない……、よね」


 プルは、消極的賛成。


「えへへ。いろんな発明品、見てみたいでし!」


 ヤーエルヘルは、賛成。


「他にも面白い発明品がありそうだし、なんだかんだ頼りになりそうじゃないか? うちも賛成だよ」


 マナナも賛成。


「この眼鏡と交換であれば、私は喜んで賛成するぞ」


 ヘレジナは大賛成。


「絶対危ないと思うんだケド……」


「クロケーの言い分もわかるがな。だが、加入のメリットはでかい。全部飲み込んで、それでもついてくるってんなら、それはハレの嬢ちゃんの自由だろ」


「……ウン」


 アーラーヤは賛成、クロケーは消極的反対。

 決まりだ。


「わかった。ただ、一つ条件がある」


「条件、トハ?」


「俺たちの事情を聞いたあとで、改めて決断してほしいんだ。何も教えずに連れ歩くには、危険が大きすぎる」


「もちろんダトモ! 面白い話が聞けると期待シテイル!」


 俺は、氷でキンキンに冷えた香ばしいお茶で口を湿らせると、これまでの経緯を飛ばし飛ばし語り始めた。

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