4/ジランブ・モア -18 〈オクルくん〉と〈マナミエル〉
俺は、ある程度の情報を明かすことにした。
「──実は、俺、剣術士なんだ」
「フム。マア、腰に剣を差しているカラナ」
丸わかりだった。
「どうしても勝たなければならない相手がいる。そのために、戦闘中に治癒術をかけ続けたいんだ。でも、わざわざ治癒術をかけてもらうために、いちいち皆のところへ戻るわけにもいかない。だから、そういう道具が存在すればと思って、発明家を探してたんだよ」
「チト卑怯ではナイカ?」
「……言い方が悪かったな。試合とかじゃなくて、純粋な命のやり取りだから」
「ウーム……」
「頼む、金なら払う!」
「スポンサーが複数いるユエ、金には困ってオラン! 助手カタナよ。助手をスル代わりに、ソノ発明品を譲るとイウのはドウダ?」
「あー……」
助手ともなれば、この研究所に詰める必要があるだろう。
だが、俺たちには時間がない。
リンシャの段階で影の魔獣を処理したことで、ハルユラに下る神託がどう変化したかもわからない。
早急にアルクハルヴァ神殿へ向かう必要があった。
「……すまん。けっこう急ぐ旅路なんだ」
「ソウカ……」
ハレが、寂しげに俯く。
見かねたマナナが、ハレに話し掛けた。
「どうして助手を大々的に募集しないんだい? ハレの資産なら何人も雇えそうだし、やる気のある人が来るだろ」
「──…………」
ハレが、俺たちを順に見回す。
「助手カタナに、ソノ仲間タチよ。帽子をカブッテいる面々は、純人間ダナ?」
「……ああ、気付いてたか」
遠慮なく帽子を脱ぐ。
ヤーエルヘルとクロケー以外の四人も、俺に続いた。
「ヤハリな」
ハレが満足げに頷き、答えた。
「知ってのトオリ、宗教上の理由カラ、亜人は魔術を忌避スル。魔科学の役には立タン。ツマリ、魔科学を追求するニハ、魔術に長ケタ人間──スナワチ純人間の協力が必須ナノダ。ワタシは決して魔術に堪能デハナイ。それユエな」
「あ」
「ム?」
「それなら、なおさら無理だわ。俺、そもそも魔力がないんだよ」
「──…………」
ハレが、一瞬固まった。
失望されただろうか。
あれほど助手だ助手だと騒いでいたのに、すこし心が痛んだ。
だが、ハレの反応は、その正反対だった。
「──興味深イ!」
「は……?」
「ソモソモ、魔力を持たない人間は非常に珍シイ! 研究を行うタメのサンプルが、ほとんどいないノダ! 彼らは何故魔力を持たないノカ! 仮に持っていたとシテ、魔法や魔術を使えナイのはイカなる理由によるモノカ! 助手カタナ! ソノ問題を解決するためニハ、君が必要ナノダ!」
なるほど、これか。
エル=タナエルが、ハレにとって俺たちは面白い存在なのだと言っていた。
魔科学の研究のためには純人間の協力が必要だし、魔力を持たない俺は貴重な研究対象だ。
俺たちのことを知ったハレが押し掛けてくるのも、むべなるかな、と言ったところだろう。
「いや、だからな。先を急ぐから……」
「ダッタラ、ワタシが君タチについて行けばイイ!」
ああ、やはりこうなるのか。
様子を窺っていた面々を振り返る。
「わっ、わたしは、あぶない、……と思う……」
「……そうだよな」
「こ、これ以上女の子が増えるのは、あ、あ、あぶない……!」
そっちかよ。
「……オレも、危ナイと思う。コレから戦う相手を考エルと、一般人は連れて行けナイ」
「そうだよな!」
さすがクロケー、我が戦友である。
「フム。よほどの強敵と見タガ……」
「まあ、な」
世界一の剣術士、その成れ果て。
本物の怪物だ。
「ナラバ、こうシヨウ。フラスネイオン式ワイヤレス魔術伝送装置〈オクルくん〉だけでナク、ワタシの開発した他の発明品も提供シヨウではナイカ!」
「ほう」
意外にも、ヘレジナが食いついた。
「ハレよ。私は今、剣術士として伸び悩んでいてな。正直に言って、猫の手も借りたい状況なのだ。何かこう、一足飛びに強くなれる発明品はないか?」
「フム」
ハレが下唇をつまみ、答える。
「モウすこし方向性を絞れナイカ? ワタシは武術士ではないユエ、何をドウしたら強くナレルのか、ワカラン!」
「そうさな……」
しばし思案したヘレジナが、頷きながら答えた。
「例えば、魔力が見えるようになる道具──などはどうだ?」
理解する。
「ああ、遠当ての練習用か」
「そうだ。出ているか出ていないかもわからなければ、上達するはずもない。魔力さえ見られればコツが掴める気がするのだ」
「ナルホド! すこし待ってイタマエ」
どう見てもガラクタ置き場としか思えない場所に頭を突っ込み、しばしごそごそしたかと思うと、ハレが一本の眼鏡を持ってきた。
「コレは、ワタシが開発した魔力観測用眼鏡〈マナミエル〉の予備ダ! 魔力が見エルと便利なので愛用シテイル」
ネーミングセンスにツッコみたいが、話がややこしくなりそうなのでやめておく。
「おお、本当にあるとは! いったい、どういう原理なのだ?」
「このレンズは、半輝石を非常に薄ク加工したモノダ。半輝石は、魔力を内ニ貯め込むダケでナク、魔力に反応シ僅かに発光する性質を持ってイル。ソノため、魔力痕の調査ニ使うヨウナ純度の高イ半輝石で作ったレンズを通スト、魔力が観測デキルようにナルノダ!」
「へえー……」
素直に感心する。
この発明品だけで、世界が変わるのではないだろうか。
「サア、着けてミタマエ!」
ヘレジナが〈マナミエル〉を掛ける。
「どうだ、似合うか?」
「……けっこう似合うな」
学級委員って感じだ。
「うん、似合う似合う。知的に見えるよ」
「似合いましー!」
「そうかそうか」
既に満足そうだ。
「デハ、ワタシの指先を見るがイイ」
ハレが人差し指を立て、口をつぐむ。
「──おお!」
ヘレジナが、目をまるくしてハレの指先に見入っていた。
「どうだ?」
「カタナも掛けてみればわかるぞ」
ヘレジナから〈マナミエル〉を受け取り、装着する。
そこにあったのは、水に落とした金色のインクのような、輝く流体だった。
ハレの指先から放たれる魔力は、重力に従うことなく自由に線を、弧を、渦を描き、徐々に霧散していく。
煙草の煙にも近いが、それよりも遥かに重く、もったりとした印象だ。
「魔力って、こんなんなのか……」
「み、み、みたー……い!」
「はいよ」
プルに眼鏡を渡す。
「魔力の観測は、各自でヤッテくれタマエ」
そう言って、ハレが人差し指を下ろした。
「……カタナ。私は、あの眼鏡が欲しくてたまらん」
「だよな……」
魔力の可視化は、地味ながら、確実にヘレジナの地力となるだろう。
〈オクルくん〉に〈マナミエル〉。
この二つの発明品が手に入るのであれば、ハレを騎竜車に乗せる価値は十二分にある。
「……わかった。俺は、ハレの加入に賛成するよ。皆はどうだ?」
「う」
眼鏡を掛けたレアなプルが、しぶしぶ頷く。
「……し、しかたない……、よね」
プルは、消極的賛成。
「えへへ。いろんな発明品、見てみたいでし!」
ヤーエルヘルは、賛成。
「他にも面白い発明品がありそうだし、なんだかんだ頼りになりそうじゃないか? うちも賛成だよ」
マナナも賛成。
「この眼鏡と交換であれば、私は喜んで賛成するぞ」
ヘレジナは大賛成。
「絶対危ないと思うんだケド……」
「クロケーの言い分もわかるがな。だが、加入のメリットはでかい。全部飲み込んで、それでもついてくるってんなら、それはハレの嬢ちゃんの自由だろ」
「……ウン」
アーラーヤは賛成、クロケーは消極的反対。
決まりだ。
「わかった。ただ、一つ条件がある」
「条件、トハ?」
「俺たちの事情を聞いたあとで、改めて決断してほしいんだ。何も教えずに連れ歩くには、危険が大きすぎる」
「もちろんダトモ! 面白い話が聞けると期待シテイル!」
俺は、氷でキンキンに冷えた香ばしいお茶で口を湿らせると、これまでの経緯を飛ばし飛ばし語り始めた。




