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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -17 魔科学

 ハレ当人が見つかったからには、もうテベラル公社を訪ねる理由はない。

 ひったくり犯を警邏官に引き渡したあと、俺は、ハレに腕を掴まれたまま連行されていた。


「──待て、待てって! 逃げねえって! 俺たちもお前に用があるんだから!」


 華奢な少女とは言え、さすがに亜人だ。

 ぐいぐいと引く力は思いのほか強い。


「助手はダイタイそう言って逃げるノダ! 雇用契約を結ぶマデ信じられるモノカ!」


「──…………」


 こいつ、頻繁にこんなことしてるんだろうな。

 一輪バイクを押して運ばされているアーラーヤが、呆れたように口を開く。


「カタナよう」


「なんだよ……」


「後ろ見てみ」


「……?」


 背後を確認する。

 プル、ヘレジナ、ヤーエルヘル、マナナのみならず、クロケーまでもが半眼でこちらを見つめていた。

 プルが口を尖らせる。


「……ま、また、新しい女の子と……」


「ちッ、違う! 今回だけは違うだろ!」


 マナナが指折り数えていく。


「プル、ヘレジナ、ヤーエルヘルと、ヤーエルヘルの別人格のヤガタニちゃん。ハノンソルのメルダヌアと、ラーイウラの王様のネルと、魔術大学校のシオニアちゃん。ナナイロ、ハレで、何人目だい?」


「マナナを入れてよいのであれば、十人目であるな」


「記念すべき二桁目じゃん。よかったね」


 当たりが強い。


「……ほんと、頼む。俺の立場が一秒ごとに悪くなっていく」


「ウム!」


 離す気は一切ないようだった。

 ここまで会話が通じない相手は久し振りだ。


 俺たちは、ハレに引きずられるまま市場から離れ、新区画へと足を踏み入れた。

 新区画の道は、トレロ・マ・レボロの他の街と同じ規格になっているらしく、あのジランブ・モアとは思えないほどに広かった。

 新区画に騎竜車を預けるべきだった気がするが、ハレと出会うことができた時点でこちらが正解だ。


「──サ、ココがワタシの研究所《ラボ》だ! 助手カタナとその仲間タチよ! 遠慮なく入るノダ!」


「ここ、……って」


 比較的新しい四階建てのビルは、新区画の他の建造物と遜色がない程度には立派だった。


「……このビルのワンフロア、とか?」


「全部が研究所《ラボ》ダ!」


「マジかよ」


 それが本当なら、かなりの成功者だぞ。

 ハレが、ようやく俺を解放し、懐から金属製のカードキーを取り出す。

 魔術研究科で見たものとよく似ている。

 カードキーを所定の位置に収め、魔力《マナ》を込めると、ビルの玄関扉が自動的に開いた。

 ハレが、たったかと研究所《ラボ》へ入り、俺たちを歓迎する。


「ヨウコソ、フラスネイオン研究所へ!」


 思わず周囲を見渡す。

 そこは、非常に雑然とした空間だった。

 一輪バイクを彷彿とさせる完成品のほか、開発途中で投げ出されているものや、まったく同じに見える物品が無数に転がっていたりと、とにかく整理整頓が成されていない。

 ただ、研究所《ラボ》の広さで許されているだけだ。


「サア、助手カタナよ! 初仕事だ! ワタシたちにお茶を淹れるノダ!」


「雇用契約してないから無理です」


「クッ、ソコを突かレタか。仕方アルマイ! ワタシが淹れてくるカラ、好きにクツロぐがイイ!」


 悔しげな表情で、ハレが階段を上がっていく。


「……逃げるか」


 ヘレジナに肩を掴まれる。


「逃げてどうする」


「あんなに話が通じないとは思わなかったんだよ!」


「鼻の下を伸ばしていたではないか」


「伸ばしてないからな。これはマジで」


 背後からの冷たい視線で、それどころではなかったのだ。


「ほんと、か、……かなあ……」


「……仕方ない、でしよ。カタナさん、かっこいいので」


「あいつ顔で選んでないぞ、絶対」


 顔で選ばれるとも思わないけれど。

 アーラーヤが、困ったように口を開く。


「んで、このバイクってのは、どこに置きゃいいんだ」


「適当に転がしとけばいいんじゃないか? どっちにしろ、転んで擦れて傷だらけなんだし」


「そーすっか……」


 一輪バイクを適当な場所に倒し、アーラーヤが腰を伸ばした。

 中腰がきつかったらしい。


「……仲間にするより、発明品だけ売ってもらえねえかな。あんまり連れて行きたくない」


「個人的には嫌いじゃないんだけどね、ああいう子」


「マナナ、元気な子供とか好きだもんな。ハレが何歳か知らんけど」


「見た感じ、十七か十八くらいじゃないかい?」


「外見で判断すれば、まあ、そんな感じか。ただ、ヘレジナの例もあるからな」


「む」


「年齢いじりじゃないぞ」


「ならばよい」


 いじりと言うより、ただの事実だ。

 そんな会話を交わしていると、ハレがお盆にグラスを持って戻ってきた。


「サア、遠慮なく飲むがイイ!」


 グラスには濃いめのお茶が汲まれており、かろん、と氷が涼やかな音を立てた。


「──…………」


 氷?

 俺と同時に、全員が驚愕する。


「氷だ……!」


「もっ、ものを冷やす魔術、ま、まだ、開発されてないはず……!」


「ウム! 魔術ではないカラナ」


「魔術じゃないんでしか……?」


「魔科学の産物でアル!」


 魔科学。

 さっきも言っていたな。


「ハレ。その魔科学っつーのは、魔力《マナ》を動力源にした機械を作る学問──みたいな認識で合ってるのか?」


「サスガ我が助手、一を聞いて十を知るトハ! 概ね正しいガ、正確な定義は、魔力《マナ》及び魔術と科学の融合、でアルナ」


「ああ、なるほど。魔術も組み込むんだな」


 俺たちの目的は〈魔術の効果を離れた位置に発現させる道具〉だ。

 それこそ、魔術と科学を融合させた発明品と言えるかもしれない。


「ソレデ、助手カタナよ。ワタシを探していたトイウ話だったガ、何故だ。理由を述ベヨ!」


「ああ……」


 正直に言って、ここまで我が道を行かれると、不安以外の感情が湧いてこない。

 戦闘能力がないのに真っ先に出て行く姿が目に見えるようだった。


「……高名なハレ=フラスネイオンなら、俺たちの求める道具を作れたりするんじゃないかと思ってな」


「ホウ!」


 まんざらでもなさそうだ。


「たとえば、こう、パーツAに魔術をかけると、その効果がパーツBに、空間を越えて効果が発動する──みたいな道具が欲しいんだ」


「──…………」


 ハレの表情が、一気に不審に傾いた。


「何故、ソノ発明品を知ってイル? ソレはマダ調整中ゆえに、情報を秘匿しているハズ」


「ああ、いや。作ってるのは知らなかったよ。そういう道具が欲しいってだけだ」


「……怪シイ。マサカ、助手カタナよ。君は産業スパイなのではアルマイナ!」


「違う違う」


 まさか未発表の品物だとは思わなかった。

 確かに、そんなものをタイムリーに欲しがる輩が現れれば、怪しむのも当然だろう。

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