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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -15 テベラル公社

 夕食のサルナバーレのおかげで、まだ体がぽかぽかしている。

 毎夜の楽しみである朗読会を終えたあと、女性陣は、騎竜車の二階へと上がっていった。

 アーラーヤとクロケーの加入を機に、寝室を男女で完全に分けることにしたのだ。

 二階から聞こえる姦しい声を微笑ましく思いつつ、俺はクロケーに話し掛けた。


「自分の方向性、すこしは見えたか?」


 魔力銃《マナガン》の手入れをしていたクロケーが、顔を上げる。


「ア、ウン。スコシは……」


「俺とマレウスの勝負を見てわかったと思うけど、一対一の戦闘において、互いの力量が極まれば極まるほど、魔力銃《マナガン》は決め手になりにくくなる」


「……タシカに。正直、カタナサンに当たる気がしなかった」


「これが、火薬を用いた銃なら話は違ってくるんだけどな」


「ソウなのか?」


「魔力銃《マナガン》は、発射音がしてから銃弾が来る。音よりかなり遅いんだよ」


「音ヨリ、遅い……」


「遅いってことは、避ける余地が大きいってことだ。マレウスみたいに正確な射撃が可能な相手だと、俺みたいに神眼がなくても、とりあえず横に走れば射線からは外れる」


「避ケタ先を狙うのは?」


「偏差射撃ってやつだな。移動してる目標に対して、着弾までのタイムラグを計算に入れて撃つ。これも、ある程度までの相手には有効だと思う。ただ、距離が離れれば離れるほど難易度は高くなるし、相手が同じ速度で同じ方向へ移動し続けるとも限らない」


「アー……」


「遠距離は雑魚狩り。魔力銃《マナガン》で選別して、当たらない相手には近、中距離戦を仕掛ける。最終的には、そういったスタイルに収束するだろうな」


「ナルホド」


 二日分の新聞を読み込んでいたアーラーヤが、口を挟む。


「おいおい、カタナ。お前、クロケーをどこまで行かせたいんだよ。師匠の俺を差し置いて」


「あ、悪い。育成方針は師匠が決めたほうがいいよな」


「いんや、そこは構わねえよ。俺も同じ考えだからな。ただ、見据えてる場所が最初から高すぎる気がしてよ」


「ああ……」


 俺は、前の周について、皆に概要しか話していない。

 ハシュラムや皇都コルハインでの出来事について、〈二人と肩を並べて戦った〉以上の詳細を語っていないのだ。


「……もう失われた可能性のことを言い過ぎるのもよくないから、短く済ませるけどな」


 俺は、言葉を探し、そっと口にした。


「俺は、クロケーのことを、めちゃくちゃ高く買ってる。無理を通して仲間に引き込んだのも、それが理由だよ」


「ほう」


 アーラーヤが、愉快そうに口の端を上げた。


「どこまで行くと思う?」


「二十歳までに特位。もうすこし早いかもな」


 クロケーが、目をまんまるにする。


「ト、特位……!?」


「……とんでもねえ金の卵を抱えちまったな、こりゃ」


「クロケー。俺が褒めたからって、才能にあぐらをかくなよ。お前なら大丈夫だと思うけどさ」


「ウン! むしろ、ヤル気出てきた……!」


「そっか」


 しかし、あんまりクロケーを褒めすぎると、イオタがいじけそうだなあ。

 改めて、思う。

 もっと長く、傍で指導してやりたかった。


「──しかし、特位か。こんな身近な単語になるとは思わなかったぜ。この騎竜車に乗ってる連中だけで、たぶん、国が落とせる」


 後頭部で腕を組み、寝転んだ。


「ルインラインだけで小国を滅ぼせるって聞いたときは呆れたけど、まさか、自分がその立場になるとはなあ……」


 だが、この高みに立ってみれば、わかる。

 具体的にどうすべきか、攻め手が見える。

 可能だ。


「……なーんで、こんなことになったんだろ。悪い意味ではないんだけどさ」


「お前、地球《タナエル》では一般人だったんだっけ?」


 アーラーヤに視線を向け、頷く。


「一般人も一般人よ。家は農家で、上京してブラック企業に入社。七年へこへこ使い潰されて、自殺寸前で月《サンストプラ》に飛ばされた。そんで、あれよあれよとここまで来ちまった。わけわからん」


 クロケーが小首をかしげた。


「ブラック企業、って?」


「社員を人とも思わない金儲け優先の企業だよ。一日十六時間労働は当たり前。罵倒と罵声が挨拶で、俺たち下っ端は上司のストレスの捌け口だ。まあ、その上司はさらに上司から罵倒されて、肥えてるのは経営者の親族どもだけなんだけどな」


「……ナンデ、ソコで働いてたんだ?」


「なんでだろうな。もう、覚えてねえや」


 冗談めかして、アーラーヤが言う。


「今のお前なら、五分で更地にできるな」


「ははっ、できるできる!」


 愉快愉快。


「──お前さ」


「うん?」


「地球《タナエル》に帰るんだろ」


「まあ、そのつもりではいるけど……」


 アーラーヤへと向き直る。

 彼は、真剣に俺を見つめていた。


「帰って、どうすんだ? その武をよ」


「──…………」


 天井を見上げる。

 二階からは、変わらず女性陣の楽しげな話し声が聞こえてくる。


「……わかんね」


 プルと結ばれ、ヘレジナ、ヤーエルヘルと共に、米を作って暮らす。

 それが俺の目標であり、目的だ。

 だが、その生活に、神眼も、天眼も、白き神剣も、必要ない。


「お前、月《サンストプラ》のが合ってるんじゃねえか?」


「──…………」


 すこし、揺らぐ。

 俺は、この旅路が、本当に楽しかった。

 三十年の人生の中で、この半年間が、いちばん充実していた。

 旅路が終わってしまうことに、努力で手に入れた強さが不要になってしまうことに、俺は、どこか空しさを感じている。


「オレは、カタナサンに、月《サンストプラ》にイテほしいよ。アーラーヤサンはオレの師匠だケド、カタナサンはオレの目標だ。第二の師匠、ミタイな」


「……考えとく」


 今、ここで決めることでもない。

 ルインラインを討たなければ、そもそも、俺とプルに未来はないのだ。


「──ま、人生先は長いんだ。よーく考えて決めろ。選ぶことは、捨てることと同義だ。軽々にすべきことじゃ、ねえんだから」


「ああ。わかってる」


 人生は選択の連続だ。

 選び取り、選び捨て、生きて行かねばならない。

 時間なんて、普通は巻き戻らない。

 巻き戻ったとしても、そこには、また別の苦悩が待っている。


「んで、ちっと話は変わるんだけどよ」


「うん?」


「新聞。最後の紙面の、いちばん下を見てみてくれ」


 アーラーヤが差し出した新聞を受け取り、最下段へと視線を移す。


「……提供、テベラル──なんだ? クロケー、この単語なんて意味?」


 クロケーが、ひょいと新聞を覗き込む。


「テベラル公社、だよ」


「公社。国が作った会社か」


「電信は新しい技術だろ。発明者は有名なはずだ。若いって話だから、年齢的にハレ本人って可能性は低いが、発明家同士で繋がりがあるかもしれねえ。今日みたいにテキトーに聞き込みするより、テベラル公社から発明者を辿ったほうが、可能性あるんじゃねえか?」


「おお!」


 アーラーヤの言葉に、思わず小さく拍手を送る。

 確かにその通りだ。

 発明家の界隈が広いか狭いかはわからないが、当てもなく尋ね歩くよりは希望が見える。


「あ、でも、テベラル公社ってマウダンテトにあったりしないか?」


 ハルユラは、エル=サンストプラの神託によって、俺たちを先回りする。

 いずれは必ず出会うのだ。

 マウダンテト陥落の悲劇を再演しないためには、そもそもマウダンテトへ近付かないことが肝要だ。


「公社って、デカい会社だろ。電信網は国中に張り巡らサレてるんダカラ、支社もたくさんアルと思うケド……」


「あ、確かに。頭いいな、クロケー」


「へへ」


 てれりと笑うクロケーを見て微笑みながら、アーラーヤがまとめる。


「次の街でテベラル公社の支社を探して、電信の発明者の名前と、できれば所在を聞き出す。これだな」


「ああ。指針が決まっただけで、前に進んだ気分になる」


「ダナ!」


 ふと、気付く。

 二階から話し声が聞こえなくなっていた。


「……俺たちも、寝るか。うるさくしてると上の連中に悪い」


「そうだな」


「ウン。ジャア、明かり消すぞ」


 クロケーが立ち上がり、天井付近を漂っていた灯術の明かりに指先で触れる。

 明かりが弾け、車内が暗闇に包まれた。


「んジャ、おやすみ……」


「おやすみ、クロケー。アーラーヤ」


「寝小便たれんなよ」


「タレるか!」


 二人のやり取りにくすりと笑い、膝を暖めていた毛布を肩まで引き上げる。

 ベッドの寝心地が恋しいが、こればかりは仕方がない。

 目蓋を閉じ、意識を静かに沈めて行くと、俺は、あっと言う間に眠りに落ちていった。

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