4/ジランブ・モア -13 一対百
折れた神剣を抜き放つ。
「いつでもいいぜ」
「ナラ、オレ様はすこし距離を取らせてもらうぜ。構わないだろ」
「好きにしろよ」
マレウスと町民たちが俺から距離を取る。
マレウスは、俺から二十メートルほど離れた位置に。
町民たちは、円形の広場の円周に並ぶ。
誤射で仲間を撃たないようにか、円の三分の一ほどの円弧を描くような陣形だ。
マレウスが、俺に向かって魔力銃を構えた。
「コイツを一発撃つ。それが開始の合図だ」
「ああ」
沈黙が帳を下ろす。
誰も、何も言わなかった。
ただ吹き抜ける風だけが、さやさやと葉擦れの音を響かせていた。
そして、
──パシュッ。
合図としては地味な音が、広場に響いた。
神眼を発動する。
1/12倍速の世界へ。
マレウスの放った銃弾が、それなりの速度で襲い来る。
だが、問題は、その一発ではない。
──パパシュパシュッパシュパパパパシュッ──
百人全員が、俺一人へ向けて銃撃を行う。
視線を向けることはしなかった。
連射も含めて百発以上の銃弾を、まともに避けてはいられない。
右手の人差し指と小指を立てる。
──キュボッ!
耳慣れた音と共に、白き炎が刀身を成していく。
俺は、白き神剣の火勢を上げると、自分の周囲を白炎で薙ぎ払った。
魔力銃の銃弾は、圧縮された魔力だ。
魔力は、燃える。
白き炎を、銃弾は、貫通することができない。
俺は、一瞬だけ目を閉じ、今度は火勢を最大にして頭上で爆裂させた。
太陽と同じ6,000度の炎が間近で爆ぜたのだ。
目眩まし程度には、なる。
まず、厄介な町民たちから処理する。
擬似フラッシュバンにより視界を奪われた町民たちに、白き炎の火勢を利用して一瞬で近付き、1/12倍速の世界で丁寧に魔力銃を無力化していく。
無力化は容易だ。
斬る必要すらない。
魔力銃の銃口に、白き刀身を一瞬近付けるだけで事は済む。
銃口が溶け、塞がり、銃弾を発射することができなくなるからだ。
火傷はするだろうが、遠慮はしない。
治癒術士が三人もいるのだから、それでいいだろう。
魔力銃百丁の処理にかかったのは、十秒少々だ。
最後の魔力銃を無力化した瞬間、白き神剣の刀身が掻き消えた。
──パシュッ。
恐らく、俺が町民たちの端に来るのを待っていたのだろう。
──パシュッ、パシュッ。
魔力銃が連射される音が耳に届いた。
振り返る。
マレウスが陣取っていたのは、円弧の反対側だ。
百人分の固定砲台は、マレウス側に一方的に有利だったわけではない。
俺が町民たちへ近付けば、マレウスは、誤射、あるいは俺が回避することを恐れて攻撃することができない。
恐らく、百人もの人々を無力化する術があると思っていなかったのだろう。
放たれた三発の銃弾を、折れた神剣で弾く。
そして、俺は、円形広場の中央へと移動した。
マレウスが広場の円周を駆けながら、俺に向かって魔力銃を連射する。
狙いは見事だ。
眉間、心臓、腹部、股間──すべて急所を狙っている。
だが、それだけだ。
魔力銃の弾速は、音速に遥かに届かない。
銃弾の軌道を完全に把握できる俺からすれば、防ぎやすくすらある。
──キュボッ!
俺は、神剣に、再び白き刀身を纏わせた。
そして、マレウスへ向けて駆け出すと同時に、剣先を背後に向け、火勢を爆裂させる。
亜人の身体能力を遥かに超える速度でマレウスへと肉薄すると、俺は、彼の膝を思いきり蹴り抜いた。
マレウスの右足が、折れる。
そして、それでも離さなかった魔力銃を、手の届かない場所まで蹴り飛ばした。
神眼を切る。
「──ウッ、……ぐ、アア、ア……!」
「三人とも、怪我人に治癒術頼む! 特にマレウス!」
「は、……はあーい!」
「よしきた!」
プルがマレウスへ、アーラーヤが町民たちの元へと駆けていく。
「──…………」
駆け寄ってきたマナナが、目をまるくして俺を見つめていた。
「あー、悪い。白き神剣を使うと、全身軽く火傷するんでな。治癒術、頼めるか?」
「あ、ああ。わかったよ!」
マナナが俺に手を翳すと、手から治癒術の淡い光が溢れた。
プルやアーラーヤのように即座に治癒するわけではないが、白き神剣の火傷は軽傷だ。
徒弟級第一位の腕前でも十分過ぎた。
マナナが、興奮気味に言う。
「す、……ッごいねえ、カタナ! すごいのは知ってたけど、頭でわかってんのと目で見るのとではぜんぜん違うよ。まいったね、こりゃ」
「すこしは安心できたか?」
くすりと微笑み、マナナが頷く。
「……うん!」
やがて、俺とマレウスの治療が終わる。
マレウスが服を払いながら、ぐちぐちと口を開いた。
「チッ、まるで勝負にならねえ。ベアハウル、よくこんなバケモン連れてきたナ」
「すまんの、マレウス。カタナくんの強さが、ワシらの理解の及ばん領域だとは思っておらんかった。逆説的に、あの話は真実だったことになるの」
「信じてもらえました?」
「信じざるを得ないのう……」
「うっし」
軽くガッツポーズを取る。
「──…………」
ベアハウルが、屋敷へと視線を向ける。
そこには、驚愕の表情でこちらを見つめるクロケーがいた。
「……ところで、クロケーについて頼みがあるんだがの」
「はい」
俺が頷くと、ベアハウルが、真剣な目で話し始めた。




