4/ジランブ・モア -10 長い長い物語
クロケーが、人数分の紅茶と焼き菓子をテーブルに置く。
「すまんの、クロケー」
「ベツに、イイ。ソレより──」
ベアハウルを横目に、クロケーが俺に鋭い視線を投げ掛けた。
「カタナサン。アンタの話が聞きたい」
どうやら、俺がクロケーの名前を知っていたことで、彼の興味を引いたらしい。
「──まず、最初に俺の目的を言う。アーラーヤ。クロケー。お前たちを仲間に引き入れたい」
俺の言葉に、二人が豆鉄砲を食ったような顔をする。
「エッ?」
「……俺だけじゃなくて、コイツもか?」
「ああ。いろいろ悩んだけど、全部ぶちまけることにした。判断は二人に任せる」
そうして、俺は、話し始めた。
本当に最初から。
流転の森から皇都コルハインまで、北方大陸の北西部をぐるりと巡る大冒険を。
魔竜ルインラインと相討ちになり、中天に浮かぶ地球にてエル=タナエルと邂逅したことを。
第一章から第五章までを再演し、そして、記憶を取り戻したことを。
気が付けば日は沈み、窓の外では夜が帳を下ろしていた。
「──そして、俺たちは、ここまで戻ってきた。アーラーヤ。そして、クロケー。お前たちの力を、借りるために」
「──…………」
「──……」
「──………………」
アーラーヤ、クロケー、そしてベアハウルの三人は、深く静かに思案している。
俺の話をどう咀嚼すればいいのか、わからないのかもしれない。
「……カタナサン。証拠は、ナイのか?」
「証拠はない。見せられるとすれば、天眼一閃くらい──」
そこまで言って、ふと思い出した。
「クロケーの小さい頃の話を、一度だけ聞いたな。証拠になるかわからないけど」
「聞カせてくれ」
「ああ」
前の周での、クロケーとの会話を思い出す。
「トレロ・マ・レボロの、ここからいちばん近い街のレストランで、小さい頃にサルナバーレとトゥイレを食べたって。新年、家族三人で」
「!」
ベアハウルが、自分の腹を撫でながら、懐かしげに目を細める。
「ああ、そんなこともあったの。美味しい、美味しいと、クロケーがはしゃいでおったのをよく覚えとる」
「懐かシイ、な……」
思い出を見つめる二人の目は、優しかった。
アーラーヤが、言う。
「俺は信じるぜ。作り話にしちゃあ、出てくる俺が俺過ぎる。こんな〈俺ならこうする〉の詰め合わせみてえの出されちまったらな。それに、トレロ・マ・レボロとパレ・ハラドナの戦争に茶々入れられるのも気に入った。防げるかは知らねえが、少なくとも邪魔はできる。戦争は嫌いでね」
「ヴワルツワルダ出身、だもんな」
アーラーヤが一瞬驚き、すぐに納得した顔になった。
「前の俺が話してたか。そうだよ。ガッツリ巻き込まれちまってな」
「……──俺は」
思い返す。
惨劇を。
そして、怒りを。
「俺は、マウダンテト陥落によるトレロ・マ・レボロの無条件降伏だけは阻止したい。パレ・ハラドナ軍は、ハシュラムにおいて、二千人の亜人の命を奪った。あれだけは絶対に止めたいんだよ。だから」
こぶしを握り締め、宣言する。
「──魔竜ルインラインを、討つ」
アーラーヤが、俺にこぶしを差し出した。
「やってやろうぜ」
「……ああ!」
こつん。
軽くこぶしをぶつけ合い、互いに不敵な笑みを浮かべる。
よかった。
アーラーヤなら、と思ってはいたが、やはり不安は拭えなかった。
俺の経験は、あまりに現実離れしている。
荒唐無稽な作り話と言われてもおかしくはないし、むしろそれが自然な反応だろう。
「……オレは、一晩待ってクレないか。トーちゃんと、あと、カーちゃんにも相談したい」
「そうさの。クロケーの親は、ワシだけではない。ちと今から会いに行ってくるでの。家政婦に頼んでおくから、好きに泊まってくれて構わんよ。部屋は空いているでの」
「ありがとう、ベアハウルさん」
「なに。君の話が事実であれば、ワシらも他人事ではないからの。トレロ・マ・レボロの無条件降伏を止めると言うのであれば、ワシらと利害が一致しておる。だが、ちいと話が大きすぎて、判断に困るというのが実情での……」
マナナが困ったように言う。
「エル=タナエル本人まで出張ってきちまってるからねえ」
「バレボロの住人、特に亜人には、敬虔な銀輪教の信者もおる。彼らにはとても話せんの……」
両腕を頭の後ろで組みながら、アーラーヤが口を開いた。
「俺は、カタナと一緒にラライエの妄執を断っている。そういう経験がなけりゃ、壮大な作り話って捉えてもしゃーないさ。むしろ、よく全部話そうと思ったな。適当に言いくるめれば、俺もクロケーもホイホイついてったろうに」
俺は、ヤーエルヘルへと視線を向けた。
ヤーエルヘルが、微笑む。
「魔竜ルインラインなんつー超人すら超越したバケモンに挑むのに、それを隠して仲間にすんのは、それ仲間って言わないだろ。ただの道具だ。だから、来るなら納得してほしかった。それがせめてもの誠意だと思ったんだよ」
「ははっ、不器用なやつ」
「うるせー」
「ほっほ」
ベアハウルが笑い、ソファから立ち上がった。
「では、クロケー。ママのところへ行くとするかの」
「アア!」
「馬車を借りるし、そう遠くもない。明日の昼には戻ってくるからの」
「マタ明日、な!」
クロケーとベアハウルが屋敷を後にし、俺たちは家政婦による歓待を受けた。
バレボロの州知事であるクロケーの母親は、いったいどんな判断を下すだろう。
なんだっていい。
それが、俺の選んだ答えだ。
俺たちの道と、クロケーの道が、重なり合うことを祈るだけだった。




