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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -10 長い長い物語

 クロケーが、人数分の紅茶と焼き菓子をテーブルに置く。


「すまんの、クロケー」


「ベツに、イイ。ソレより──」


 ベアハウルを横目に、クロケーが俺に鋭い視線を投げ掛けた。


「カタナサン。アンタの話が聞きたい」


 どうやら、俺がクロケーの名前を知っていたことで、彼の興味を引いたらしい。


「──まず、最初に俺の目的を言う。アーラーヤ。クロケー。お前たちを仲間に引き入れたい」


 俺の言葉に、二人が豆鉄砲を食ったような顔をする。


「エッ?」


「……俺だけじゃなくて、コイツもか?」


「ああ。いろいろ悩んだけど、全部ぶちまけることにした。判断は二人に任せる」


 そうして、俺は、話し始めた。

 本当に最初から。

 流転の森から皇都コルハインまで、北方大陸の北西部をぐるりと巡る大冒険を。

 魔竜ルインラインと相討ちになり、中天に浮かぶ地球《タナエル》にてエル=タナエルと邂逅したことを。

 第一章から第五章までを再演し、そして、記憶を取り戻したことを。

 気が付けば日は沈み、窓の外では夜が帳を下ろしていた。


「──そして、俺たちは、ここまで戻ってきた。アーラーヤ。そして、クロケー。お前たちの力を、借りるために」


「──…………」


「──……」


「──………………」


 アーラーヤ、クロケー、そしてベアハウルの三人は、深く静かに思案している。

 俺の話をどう咀嚼すればいいのか、わからないのかもしれない。


「……カタナサン。証拠は、ナイのか?」


「証拠はない。見せられるとすれば、天眼一閃くらい──」


 そこまで言って、ふと思い出した。


「クロケーの小さい頃の話を、一度だけ聞いたな。証拠になるかわからないけど」


「聞カせてくれ」


「ああ」


 前の周での、クロケーとの会話を思い出す。


「トレロ・マ・レボロの、ここからいちばん近い街のレストランで、小さい頃にサルナバーレとトゥイレを食べたって。新年、家族三人で」


「!」


 ベアハウルが、自分の腹を撫でながら、懐かしげに目を細める。


「ああ、そんなこともあったの。美味しい、美味しいと、クロケーがはしゃいでおったのをよく覚えとる」


「懐かシイ、な……」


 思い出を見つめる二人の目は、優しかった。

 アーラーヤが、言う。


「俺は信じるぜ。作り話にしちゃあ、出てくる俺が俺過ぎる。こんな〈俺ならこうする〉の詰め合わせみてえの出されちまったらな。それに、トレロ・マ・レボロとパレ・ハラドナの戦争に茶々入れられるのも気に入った。防げるかは知らねえが、少なくとも邪魔はできる。戦争は嫌いでね」


「ヴワルツワルダ出身、だもんな」


 アーラーヤが一瞬驚き、すぐに納得した顔になった。


「前の俺が話してたか。そうだよ。ガッツリ巻き込まれちまってな」


「……──俺は」


 思い返す。

 惨劇を。

 そして、怒りを。


「俺は、マウダンテト陥落によるトレロ・マ・レボロの無条件降伏だけは阻止したい。パレ・ハラドナ軍は、ハシュラムにおいて、二千人の亜人の命を奪った。あれだけは絶対に止めたいんだよ。だから」


 こぶしを握り締め、宣言する。


「──魔竜ルインラインを、討つ」


 アーラーヤが、俺にこぶしを差し出した。


「やってやろうぜ」


「……ああ!」


 こつん。

 軽くこぶしをぶつけ合い、互いに不敵な笑みを浮かべる。

 よかった。

 アーラーヤなら、と思ってはいたが、やはり不安は拭えなかった。

 俺の経験は、あまりに現実離れしている。

 荒唐無稽な作り話と言われてもおかしくはないし、むしろそれが自然な反応だろう。


「……オレは、一晩待ってクレないか。トーちゃんと、あと、カーちゃんにも相談したい」


「そうさの。クロケーの親は、ワシだけではない。ちと今から会いに行ってくるでの。家政婦に頼んでおくから、好きに泊まってくれて構わんよ。部屋は空いているでの」


「ありがとう、ベアハウルさん」


「なに。君の話が事実であれば、ワシらも他人事ではないからの。トレロ・マ・レボロの無条件降伏を止めると言うのであれば、ワシらと利害が一致しておる。だが、ちいと話が大きすぎて、判断に困るというのが実情での……」


 マナナが困ったように言う。


「エル=タナエル本人まで出張ってきちまってるからねえ」


「バレボロの住人、特に亜人には、敬虔な銀輪教の信者もおる。彼らにはとても話せんの……」


 両腕を頭の後ろで組みながら、アーラーヤが口を開いた。


「俺は、カタナと一緒にラライエの妄執を断っている。そういう経験がなけりゃ、壮大な作り話って捉えてもしゃーないさ。むしろ、よく全部話そうと思ったな。適当に言いくるめれば、俺もクロケーもホイホイついてったろうに」


 俺は、ヤーエルヘルへと視線を向けた。

 ヤーエルヘルが、微笑む。


「魔竜ルインラインなんつー超人すら超越したバケモンに挑むのに、それを隠して仲間にすんのは、それ仲間って言わないだろ。ただの道具だ。だから、来るなら納得してほしかった。それがせめてもの誠意だと思ったんだよ」


「ははっ、不器用なやつ」


「うるせー」


「ほっほ」


 ベアハウルが笑い、ソファから立ち上がった。


「では、クロケー。ママのところへ行くとするかの」


「アア!」


「馬車を借りるし、そう遠くもない。明日の昼には戻ってくるからの」


「マタ明日、な!」


 クロケーとベアハウルが屋敷を後にし、俺たちは家政婦による歓待を受けた。

 バレボロの州知事であるクロケーの母親は、いったいどんな判断を下すだろう。

 なんだっていい。

 それが、俺の選んだ答えだ。

 俺たちの道と、クロケーの道が、重なり合うことを祈るだけだった。

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