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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -9 一芸

 バレボロ最後の集落に入り、アーラーヤがクロケーに稽古をつけていた広場へと向かう。

 円形の広場には、百人近い人々の姿があった。


「おー、やってるやってる」


「あ、あ、アーラーヤさん、……だあ!」


「懐かしいな。ラーイウラ王城では、別れ際、散々転がしてやったものだ」


 手綱を握ったヘレジナが、得意げにうんうんと頷く。


「神殿での修練のあとは、ヘレジナでも勝てないくらい強くなってたけどな」


「む、やるな。しかし、同じく鍛錬を重ねれば、やつに追いつかれることはあるまい?」


「──…………」


 一瞬、思案する。


「だったらいいな」


「……?」


 俺には神眼及び天眼、そして白き神剣がある。

 アーラーヤには、範囲を拡大した二刀がある。

 クロケーには、亜人の身体能力と掛け合わせた体操術、そして魔力銃《マナガン》がある。

 ヘレジナが奇跡級特位──超人の領域へと辿り着くためには、こういった一芸が必要ではないかと思うのだ。


「今のは、どういう意味だ?」


「まあ、そのだな」


「カタナ!」


 手綱を操って騎竜の歩みを止め、ヘレジナが俺へと向き直る。

 その目は真剣だった。


「わかった」


 誤魔化さずに答える。


「このまま行けば、ヘレジナはアーラーヤに追い抜かされる。俺の見立てが正しければ、だけどな」


「何故だ」


「ヘレジナには、アーラーヤにはある伸びしろがない。アーラーヤは、四刀流のうち操術で操る二刀の範囲を広げ、さらに自在に操ることで、上下左右前後からの三次元的な攻撃を実現していた。ヘレジナはどうだ?」


「私、は……」


「ヘレジナは、強い。極めた体操術と、理で以て振るう二刀。この二つだけで、奇跡級上位の、さらに上澄みまで辿り着いた。あのアイヴィルですら一撃だったよ。だけど、この先はどこへ行くつもりだ?」


「──…………」


「一芸が、必要だ。俺の神眼と天眼のように。アーラーヤの四刀流のように。ジグの灰燼拳のように。アイヴィルの遠当てのように。一足飛びに強くなれる、何かが」


 ヘレジナが俺を睨みつける。


「……簡単に見つかれば、苦労はしないのだ。私とて何も考えていないわけではない。だが、私は魔術には長けていない。体操術にこそ優れてはいるが、同時に別の魔術を操ることは、いくら努力してもできなかった。どうすればいいと言うのだ」


「そうだな……」


 しばし思案し、答える。


「今日から、みんなでアイディア出し合おうか」


 ヘレジナが肩を落とす。


「それでどうにかなるものか……?」


 マナナが、背後からヘレジナの両肩に手を置いた。


「うちらは戦闘の素人さ。でも、ヘレジナの素人じゃあ、ない」


「私の素人……?」


 プルが、ヘレジナの顔を覗き込む。


「う、うん! わたしたち、ヘ、ヘレジナのこと、すーごく知ってるもん! ヘレジナの得意なこと、戦い方に混ぜられる、……かも」


「プルさま……」


「ヘレジナさんが奇跡級特位になれる方法、探しましょう! きっと、いい方法がありましよ」


 三人の言葉に、俺は頷いた。


「言ったろ。一芸が必要だ。逆に言えば、その一芸さえ見つけることができれば、ヘレジナは今日からでも奇跡級特位なんだ。間違いなくな」


「……ありがとう、皆」


 ヘレジナが、俺たちに右手の甲を向け、深々とお辞儀する。


「気にすんな。アーラーヤに挨拶しに行こうぜ。そろそろ稽古も終わるとこだろ」


「そうであるな」


 騎竜の周囲に停留用の杭を打ち、アーラーヤとクロケーの元へと向かう。

 大の字に寝転がるクロケーの脇腹を、アーラーヤがつんつんと爪先でつついていた。


「あんまいじめてやるなよ、アーラーヤ」


「おん?」


 アーラーヤがこちらを振り返り、破顔する。


「カタナじゃねえか! ヘレジナの嬢ちゃんたちも!」


「よっ」


「久し振りであるな。元気そうで何よりだ」


「お、お久し振りー……」


「お久し振り、でし!」


 そして、マナナが一歩前に出る。


「あんたが話に聞くアーラーヤ、だね。奇跡級上位の剣術士で、四刀流の使い手だ」


「──…………」


 アーラーヤが、俺の背中をバン!と強めに叩く。


「でえッ!」


「お前ッ! まーたハーレム要員増やしやがったな! しかも、今度は美人のねーちゃんかよ! ネルに告げ口すんぞ!」


「違う違う、違うから」


「あははっ! ま、そういうことにしといてよ。うちは、マナナ=ゼンネンブルク。徒弟級第一位の治癒術士で、他に芸っていう芸はないよ」


「ああ。カタナからある程度は聞いてんだろうが、俺はアーラーヤ=ハルクマータ。今はラーイウラの国家剣術士やってる。よろしくな、マナナ」


「よろしくね。深い付き合いになるだろうし」


 アーラーヤが、不思議そうな表情を浮かべる。


「……俺、口説かれてんのか?」


「ふはっ!」


 思わず吹き出す。

 マナナが、パタパタと腕を振って否定した。


「そういう意味じゃないって。ま、すぐにわかるさ」


「いろいろと事情があるんだよ。あとで話す。今は──」


 俺は、軽く上体を起こしてこちらを見上げていたクロケーに、右手を差し出した。


「初めまして、クロケー。俺は、カタナ=ウドウ。剣術士だ」


「エ──」


 クロケーが、目をまるくする。


「ナンで、オレの名前……」


「たぶん、ベアハウルにも聞かせたほうがいい。客間、貸してくれないか?」


「ア、アア……」


「……カタナよう。お前、また、えらいことに巻き込まれてるんじゃねえだろうな」


「巻き込まれてる。んで、お前も巻き込むつもりだよ。アーラーヤ」


 アーラーヤが、困ったように後頭部を掻く。


「悪いが、こっちにも事情ってモンがある。巻き込まれてやれるとは限らねえぜ?」


「それでいいさ。判断は俺の、なが──……い話を聞いてから、だ」


 クロケーが立ち上がり、俺たちを先導する。


「コッチだ。アレが、オレんち」


 俺たちは、クロケーの父親であり集落の長でもあるベアハウルの屋敷へと案内された。

 さあ、ここからが正念場だ。

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