4/ジランブ・モア -9 一芸
バレボロ最後の集落に入り、アーラーヤがクロケーに稽古をつけていた広場へと向かう。
円形の広場には、百人近い人々の姿があった。
「おー、やってるやってる」
「あ、あ、アーラーヤさん、……だあ!」
「懐かしいな。ラーイウラ王城では、別れ際、散々転がしてやったものだ」
手綱を握ったヘレジナが、得意げにうんうんと頷く。
「神殿での修練のあとは、ヘレジナでも勝てないくらい強くなってたけどな」
「む、やるな。しかし、同じく鍛錬を重ねれば、やつに追いつかれることはあるまい?」
「──…………」
一瞬、思案する。
「だったらいいな」
「……?」
俺には神眼及び天眼、そして白き神剣がある。
アーラーヤには、範囲を拡大した二刀がある。
クロケーには、亜人の身体能力と掛け合わせた体操術、そして魔力銃がある。
ヘレジナが奇跡級特位──超人の領域へと辿り着くためには、こういった一芸が必要ではないかと思うのだ。
「今のは、どういう意味だ?」
「まあ、そのだな」
「カタナ!」
手綱を操って騎竜の歩みを止め、ヘレジナが俺へと向き直る。
その目は真剣だった。
「わかった」
誤魔化さずに答える。
「このまま行けば、ヘレジナはアーラーヤに追い抜かされる。俺の見立てが正しければ、だけどな」
「何故だ」
「ヘレジナには、アーラーヤにはある伸びしろがない。アーラーヤは、四刀流のうち操術で操る二刀の範囲を広げ、さらに自在に操ることで、上下左右前後からの三次元的な攻撃を実現していた。ヘレジナはどうだ?」
「私、は……」
「ヘレジナは、強い。極めた体操術と、理で以て振るう二刀。この二つだけで、奇跡級上位の、さらに上澄みまで辿り着いた。あのアイヴィルですら一撃だったよ。だけど、この先はどこへ行くつもりだ?」
「──…………」
「一芸が、必要だ。俺の神眼と天眼のように。アーラーヤの四刀流のように。ジグの灰燼拳のように。アイヴィルの遠当てのように。一足飛びに強くなれる、何かが」
ヘレジナが俺を睨みつける。
「……簡単に見つかれば、苦労はしないのだ。私とて何も考えていないわけではない。だが、私は魔術には長けていない。体操術にこそ優れてはいるが、同時に別の魔術を操ることは、いくら努力してもできなかった。どうすればいいと言うのだ」
「そうだな……」
しばし思案し、答える。
「今日から、みんなでアイディア出し合おうか」
ヘレジナが肩を落とす。
「それでどうにかなるものか……?」
マナナが、背後からヘレジナの両肩に手を置いた。
「うちらは戦闘の素人さ。でも、ヘレジナの素人じゃあ、ない」
「私の素人……?」
プルが、ヘレジナの顔を覗き込む。
「う、うん! わたしたち、ヘ、ヘレジナのこと、すーごく知ってるもん! ヘレジナの得意なこと、戦い方に混ぜられる、……かも」
「プルさま……」
「ヘレジナさんが奇跡級特位になれる方法、探しましょう! きっと、いい方法がありましよ」
三人の言葉に、俺は頷いた。
「言ったろ。一芸が必要だ。逆に言えば、その一芸さえ見つけることができれば、ヘレジナは今日からでも奇跡級特位なんだ。間違いなくな」
「……ありがとう、皆」
ヘレジナが、俺たちに右手の甲を向け、深々とお辞儀する。
「気にすんな。アーラーヤに挨拶しに行こうぜ。そろそろ稽古も終わるとこだろ」
「そうであるな」
騎竜の周囲に停留用の杭を打ち、アーラーヤとクロケーの元へと向かう。
大の字に寝転がるクロケーの脇腹を、アーラーヤがつんつんと爪先でつついていた。
「あんまいじめてやるなよ、アーラーヤ」
「おん?」
アーラーヤがこちらを振り返り、破顔する。
「カタナじゃねえか! ヘレジナの嬢ちゃんたちも!」
「よっ」
「久し振りであるな。元気そうで何よりだ」
「お、お久し振りー……」
「お久し振り、でし!」
そして、マナナが一歩前に出る。
「あんたが話に聞くアーラーヤ、だね。奇跡級上位の剣術士で、四刀流の使い手だ」
「──…………」
アーラーヤが、俺の背中をバン!と強めに叩く。
「でえッ!」
「お前ッ! まーたハーレム要員増やしやがったな! しかも、今度は美人のねーちゃんかよ! ネルに告げ口すんぞ!」
「違う違う、違うから」
「あははっ! ま、そういうことにしといてよ。うちは、マナナ=ゼンネンブルク。徒弟級第一位の治癒術士で、他に芸っていう芸はないよ」
「ああ。カタナからある程度は聞いてんだろうが、俺はアーラーヤ=ハルクマータ。今はラーイウラの国家剣術士やってる。よろしくな、マナナ」
「よろしくね。深い付き合いになるだろうし」
アーラーヤが、不思議そうな表情を浮かべる。
「……俺、口説かれてんのか?」
「ふはっ!」
思わず吹き出す。
マナナが、パタパタと腕を振って否定した。
「そういう意味じゃないって。ま、すぐにわかるさ」
「いろいろと事情があるんだよ。あとで話す。今は──」
俺は、軽く上体を起こしてこちらを見上げていたクロケーに、右手を差し出した。
「初めまして、クロケー。俺は、カタナ=ウドウ。剣術士だ」
「エ──」
クロケーが、目をまるくする。
「ナンで、オレの名前……」
「たぶん、ベアハウルにも聞かせたほうがいい。客間、貸してくれないか?」
「ア、アア……」
「……カタナよう。お前、また、えらいことに巻き込まれてるんじゃねえだろうな」
「巻き込まれてる。んで、お前も巻き込むつもりだよ。アーラーヤ」
アーラーヤが、困ったように後頭部を掻く。
「悪いが、こっちにも事情ってモンがある。巻き込まれてやれるとは限らねえぜ?」
「それでいいさ。判断は俺の、なが──……い話を聞いてから、だ」
クロケーが立ち上がり、俺たちを先導する。
「コッチだ。アレが、オレんち」
俺たちは、クロケーの父親であり集落の長でもあるベアハウルの屋敷へと案内された。
さあ、ここからが正念場だ。




