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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -8 目的を取るか、誠意を取るか

 それから先も、記憶の通りに進んだ。

 魔力銃《マナガン》を持つ町民に取り囲まれ、マレウスに長に引き合わせてもらい、騎竜車にバレボロのマークを描いてもらった。

 マレウスのバレボロに対する想いも、また聞かせてもらった。


 夕刻には出立し、寝ずの番のための仮眠を取る。

 寝ずの番では、まず、ヤーエルヘルが話し相手になってくれることになった。

 前回、このタイミングで誰と話したかは覚えていない。

 周辺の治安や野生動物の気配など、危険を僅かでも感じ取ればすぐに寝ずの番を立てるため、機会があまりに頻繁だからだ。

 会話の内容は覚えていても、いつ話したことなのか、いまいち思い出せないことも多い。


「明日、アーラーヤさんと会えるんでしよね?」


「ああ、そのはずだ」


「お久し振りでし! 会えるの、楽しみでしね」


「──…………」


 ふと、思う。

 ずっと心に引っ掛かっていたことだ。


「ヤーエルヘル」


「はい?」


「……なんつーのかな。こう、不愉快じゃないかな」


 ヤーエルヘルが小首をかしげる。


「不愉快、……でしか?」


「ああ」


「何がでしょう……」


「人生のネタバレ、されてるみたいでさ」


「──…………」


 隣に座るヤーエルヘルが、俺の手をそっと取り、繋ぐ。

 パチパチと燃える焚き火が、ヤーエルヘルの顔を橙色に照らし出していた。


「……ネタバレ。してるみたいで、気に病んでいたのでしね」


 言われて気付く。

 裏を返せば、その通りだった。


「あちしは、ぜんぜん、気になりません。みんなもそうだと思いまし。むしろ、あちしは逆でした」


「逆?」


「はい。カタナさんのおかげで、あちしたちは、つらい未来を避けられる。でも、それって、カタナさんだけがつらい記憶を持ってるってことでし。だから申し訳なくて……」


「あ、いや。そんなことは」


「ありましよ。カタナさんの心配と、表裏一体でしから」


「──…………」


「だから、あちしたちは決めたんでし。絶対、絶対、悲しい未来にはさせない。あちしも、プルさんも、ヘレジナさんも、マナナさんも、カタナさんの前からいなくならない。カタナさんを悲しませない──って」


「……もしかして、四人でそんな話してた?」


「はい。アーウェンを出たころから」


「──……あー」


 思わずヤーエルヘルから目を逸らす。

 嬉しさと恥ずかしさのミルフィーユだった。

 知らないところで、そんな相談が行われていたのか。


「せっかくの機会でしし、聞いてもいいでしか?」


「うん? ああ、なんでも……」


「前の周と比べて、さみしいことはないでしか? つらいことは、ないでしか? あったら言ってくだし!」


「……ははっ」


 俺は、本当に恵まれている。

 こんなに優しい子たちが、すぐ傍にいるのだから。


「そうだな。マナナがいるぶん、ベッドに入ってくる回数が減ったかな」


「なるほど、なるほど。明日は一緒に寝ましょう!」


「頼むわ。ヤーエルヘルを抱っこしてると、なんだかいい夢が見られるんだ。これから寒くなってくるし、湯たんぽ代わりにもお役立ちだな」


「えへへ、嬉しいでしー……」


「……あとは、大丈夫かな。あるにはあるけど、ヤーエルヘルに甘えすぎるのもよくない」


「甘えてくだし……」


「ありがとう。でも、けっこう難しい問題だぞ」


「言ってみてほしいでし。意見くらいは出せるかもしれません」


「わかった」


 すう、と息を吸い、口を開く。


「──明日、アーラーヤと再会するだろ?」


「はい」


「どうやって仲間になってもらうか、悩んでたんだ」


「?」


 ヤーエルヘルが、きょとんとした。


「仲間になってほしいって言えば、それでいいんじゃないでしか……?」


「前回、俺たちとアーラーヤは、利害が一致したから行動を共にした。ヘレジナが致命傷を負い、プルが連れて行かれてからは、義憤に駆られて俺に手を貸してくれた。でも、今回はどうだ?」


「アーラーヤさんの目的は、トレロ・マ・レボロとパレ・ハラドナの情報──でしよね」


「ああ。その情報は、既に俺が持ってる」


「その情報と引き換えなら……」


「同行してくれるとは思う。でも、なんかこう、さ。上手く言えないんだけど、情報で釣って言うこと聞かせてるみたいで、なんだか誠意がない気がしちまって」


「考えすぎだと思いましけど……」


「アーラーヤ単独なら、そうだな。でも、クロケーが絡むと、俺がどうして悩んでるかわかると思う。クロケーは頼りになる。俺にとっては戦友だ。だから、連れて行きたい。でも、クロケーはあくまでアーラーヤの弟子だ。クロケーを弟子に取ってくれって、俺たちが頼むのは違うだろ」


「それは、……そう、でしね。あちしたちの一件が終わっても、師弟関係は続く。アーラーヤさんは、クロケーさんの師匠であり続けなければならないでしから」


「俺は、アーラーヤがどうしてクロケーを弟子に取ったのかを知ってる。言わなければ、きっと、同じ流れで同じようにクロケーは弟子になるだろう。でも、俺たちの行く先には、必ずハルユラがいる。魔竜ルインラインが、いる。その事実を知っていて、言わずに仲間に迎えるのは、あまりに卑劣だ。クロケーだけじゃなくて、アーラーヤに対する不義理でもあると思う」


「──…………」


「知っていること。それは、俺の武器だ。未来を掴み取るための手段には違いない。でも、知っているから悩むことも、ある。それが、すこし重苦しく感じるかな」


「カタナさん」


 ヤーエルヘルが、俺を見上げる。


「ぜんぶ、話しましょう。アーラーヤさんにも、クロケーさんにも」


「全部……」


 それも、もちろん考えた。

 共にラライエを誅伐したアーラーヤは、恐らく信じてくれると思う。

 だが、クロケーはどうだろうか。

 初対面の俺が、唐突に、覚えのない未来の話を始めるのだ。

 俺がクロケーの立場なら、イカれてるとしか思わない。


「何も言わないことが不義理なら、すべて話して相手にまかせるべきだと思いまし。信じるのも、信じないのも、相手の自由。来るのも来ないのも自由。カタナさんが誠意を取るのであれば、そうするしかありません」


「──!」


 誠意を取る。

 その言葉に、ハッとさせられる。

 俺は、アーラーヤとクロケーに誠意を示しながら、同時に、確実に二人を引き入れる方法を探していた。

 だが、この二つは相反するものだ。

 誠意を見せれば、仲間になるかどうかは相手任せだ。

 無理にでも仲間にするのであれば、意図的に情報を隠す、あるいは騙す必要が出てくる。

 もちろん、中間の答えは存在する。

 だが、それは、どっちつかずのものに過ぎない。

 目的を取るか、誠意を取るか。

 これは、そういう問題だったのだ。


「──ありがとう、ヤーエルヘル。なんか知恵の輪が解けた気分だ」


「お役に立てましたか?」


「すごく」


「えへへー……」


「俺は、誠意を取るよ。アーラーヤは、それでも仲間になってくれると思う。クロケーは、正直わからない。でも、精一杯伝えてみる」


「はい。あちし、応援してまし!」


「よし、こないだ買っておいたスグリ酒でも開けようか。もちろん、飲み過ぎないようにな」


「わあ!」


 俺とヤーエルヘルは、それから三時間ほど、スグリ酒をちびちび飲みながら楽しい時間を過ごした。

 ヤーエルヘルと交代したプルが、スグリ酒の匂いを敏感に嗅ぎ取り、言った。


「ず、ず、ずるい! わ、……わたしも、かたなと、晩酌する!」


 そう宣言して持ってきたのは、騎竜車のどこかに隠し持っていたらしい秘蔵のワインだった。

 ああ、そうだ。

 前の周でも、同じように、プルがワインを分けてくれたっけ。


 夜空の下、焼きたての腸詰めと共に飲むワインは格別で、ぺらぺらと余計なことまで話してしまった気がする。

 何を話したか覚えていないが、プルが終始楽しそうだったので、ひとまずよしとしよう。

 空が白むまで、俺たちは、細い地球《タナエル》を見上げながら話し続けた──

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