4/ジランブ・モア -7 バレボロ再訪
第七州、東バルパルディ。
山地の非常に多いこの州では、山道を避け、裾野同士を繋ぐような経路を辿る必要がある。
今日は、夏の後節十八日。
このまま進めば予定通りに第八州バレボロへと入州できるだろう。
「いっ、……急がなくて、だいじょうぶだった、の?」
御者台の隣に腰掛けたプルが、不思議そうに、そう尋ねた。
「が、がんばれば、一日くらい縮められそうな気、し、したけど……」
「そうだな」
前の周のことを思い出す。
「一日、縮めることはできたと思う。でも、展開を変えることによるリスクがな……」
「リスク」
「わかりやすく例を言えば、マレウス──バレボロの門番のことがある」
「バレボロの、あ、亜人のひと、……だよね?」
「ああ。気難しい性格なんだが、認めた相手には親切にしてくれる。前回は、俺たちが亜人であるヤーエルヘルと旅をしてるのを見て、バレボロの理念と同じだって通してくれたんだ。そして、他の集落で襲われないように、騎竜車にバレボロのマークまで付けてくれた」
「や、……優しい!」
「認めた相手には、な」
そうでない相手は町民たちに身ぐるみ剥がさせるわけだが。
「でも、マレウスだって、常に門に詰めてるわけじゃないだろ。ちゃんとシフトがあるはずだ。マレウス以外の門番は、バレボロのマークまでサービスしてくれるとは限らない」
「たしか、にー……」
「アーラーヤとクロケーを仲間にするまでは、なるべく俺の知ってる未来をなぞったほうがいいと思ったんだよ」
「そ、……その先、は?」
「その先は──」
俺は、敢えてキリッと眉根を寄せた。
「わからん!」
「わからんかー……」
「そもそも俺は、ハレって子に会ったことがない。トレロ・マ・レボロに住む亜人であること、発明家であること、そしてハレ=フラスネイオンって名前だけだ。エル=タナエル曰く、[羅針盤]での繰り返しの中で高確率で仲間になってたそうだから、縁はあるんだと思う」
だが、今回の俺たちと縁があるかはわからない。
神に祈るしかないが、神とはつまりエル=タナエルである。
月の神であるエル=サンストプラに願ったほうが、幾分か御利益はありそうだ。
「ど、どんな子だろう、……ね?」
「ノーヒントだし、想像もつかない。ただ、そうだな。俺たちは、ハレにとって、すごく興味深い存在だ──みたいなことをエル=タナエルが言ってた」
「興味深い、存在……」
「亜人の発明家にとって興味深いものって、なんなんだろうな」
「……うー、ん?」
プルと二人で、うんうん唸る。
しかし、州境へと辿り着く前に答えが出ることはなかった。
客車内に声を掛ける。
「──ヘレジナ、手綱頼むわ」
「相分かった」
ヘレジナと御者を交代し、荒れ果てた地面に降り立つ。
「おーい、開けてくれ! バレボロを抜けてトレロ・マ・レボロへ行きたいんだ!」
しばしして大岩の陰から現れたのは、俺の知る未来の通り、マレウスだった。
「ヤアヤア、旅人諸君。この第八州を、ただの通り道か何かと勘違いしてはいないかナ」
前回と同じ台詞を言えればいちばんいいのだが、さすがに一言一句記憶してはいない。
「バレボロは第八州。他の州と同列だろ。他の州は普通に通らせてくれるぜ」
「ふうん……」
マレウスが、有刺鉄線越しに、俺のことをじろじろと見つめる。
「マア、言いたいことはわかるぜ。ソノ騎竜車には何人乗ってる?」
「俺を含めて五人だ」
「全員降ろせ。隠すとためにならないぜ。なにせ、この耳があるからナ」
そう言って、自分の耳を指差してみせた。
「わかった。後ろ暗いところはねえし、素直に従うよ」
俺は、騎竜車に声を駆けた。
「四人とも、降りてきてくれ」
「は、はい……!」
「あいよ、すぐに降りる」
「わかりました……」
ヘレジナが御者台から飛び降り、俺の隣に並ぶ。
三人も同様だ。
「男一人に女が一人、ガキが三人か。若すぎるから、ワケアリ夫婦か?」
「ガキではないわ!」
マナナが苦笑する。
「夫婦でもないねえ……」
マレウスが二人を無視し、ヤーエルヘルへと向き直る。
「そこのガキ。帽子、脱いでみナ」
「は、はい!」
概ね、記憶にある通りだ。
ヤーエルヘルが帽子を取ると、可愛らしい獣耳がぴょこんと覗く。
「なるほど、ナ。やっぱ亜人だったか」
「亜人でし……」
マレウスが、スッと手を上げる。
すると、下っ端らしき男性と女性が現れ、道を開き始めた。
「通ってヨシ。ただし、そろそろ交代の時間でナ。道案内シテやるから、オレ様も乗せてけ。そいつが条件だ」
「ああ、わかった。そんくらい喜んで」




