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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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4/ジランブ・モア -3 マウダンテトを救う方法

 バルマが、慰めるように口を開いた。


「なに、神とは人の都合では動かんものだ。だが、その神を信仰する自由は自らにある。幼い頃から深く深く刷り込まれてきた信仰であろうし、衝撃を受けるのは無理もないがな」


 ヘレジナが小さく頷いた。


「そうだな。信仰とは、自分を律するためのものでもある。信仰心を失うわけではないが、これまでとは捉え方が変わるであろうな……」


 銀輪教は、一神教だ。

 信徒たちは、エル=タナエルという女神を規範とし、強い信仰心を持って日々を生きている。

 プルも、ヘレジナも、足元が揺らぐような気持ちを抱いているのかもしれなかった。


「……その」


 ヤーエルヘルが、俺の袖を引いた。


「ヤガタニは、どんな子でしたか……?」


 そうだよな。

 自分の中に別人格がいる──なんて言われて、気にならないわけがない。

 俺は、ヤーエルヘルの頭に手を乗せた。


「いい子だったよ。ヘレジナが傷つき、プルが連れて行かれ、ヤーエルヘルも眠りについて気落ちしてる俺を、よく慰めてくれた。プルとヘレジナは一度会ってるよな」


 二人が頷く。


「う、うん! ネルを助けてくれた子、……だ、だよね?」


「ああ。ヤガタニが諦めなかったゆえ、ネルは生き返ることができた。まともに会話をしたわけではないが、恩人には変わるまい」


「そう、でしか……」


 ヤーエルヘルが、心なしか安心したように胸元を撫でる。


「一度、アルクハルヴァ神殿へ行かないとな。あそこでないと伝えられないこともあるし」


「ヤーエルヘルの秘密、だっけ」


 マナナの言葉に、頷いてみせる。


「ああ。エル=タナエルが知ることを禁じた、秘密だ」


「──…………」


 ヤーエルヘルが、小動物のように身を縮める。

 そして、不安げに俺を見上げた。


「……怖い、でし。あちし、知るのが怖い……」


 だが、心配は必要ない。

 俺は、ヤーエルヘルに明るく微笑みを返した。


「大丈夫だ。俺は、お前の真実を知ってる。でも、ヤーエルヘルのことは変わらず大好きだ。びっくりはするかもしれないけど、その程度のことだよ」


「……えへへ」


 ヤーエルヘルが、気丈に微笑む。

 大丈夫だよ。

 たかだか陪神だったくらいで、俺たちはヤーエルヘルを離してはやらない。

 俺たちの関係が変わることは、ない。


「──一つ、懸念がある」


「なんだ?」


「トレロ・マ・レボロとパレ・ハラドナの関係悪化。そして、魔竜ルインラインによる首都マウダンテトの陥落。これは変えられないのではないか?」


 整然としたバルマの疑問に、俺は頷いた。


「……そうだな」


 関係悪化は免れない。

 と、言うより、現時点で既に悪化しているのは間違いない。

 二国間が緊張状態に陥ることも、一介の旅人である俺たちには防ぎようがないだろう。

 だが──


「マウダンテトの陥落だけは、俺たちの動き方で防げる可能性はあると思ってる」


「ふむ。具体的にはどうするのだ?」


 ヘレジナへと向き直り、答える。


「単純だ。俺たちがマウダンテトに行かなければいい」


 マナナが目をまるくした。


「……そんなことでいいのかい?」


「ハルユラは、エル=サンストプラが下賜する神託によって動いてる。神託で俺たちの未来を識り、必ず先回りをしてくるはずだ。会敵を避ける方法はない。でも、だからこそ、どこで会うかはこちらで決められる」


「あ! マウダンテトに行かなければ、マウダンテトで戦うこともないんでしね!」


「その通り。でも、マウダンテトを陥落させてから俺たちを追う可能性もある。だから、前回あいつらと会敵した秋の前節十日前後、なるべくマウダンテトから離れておくべきだな。周囲に街がなければ最高だ」


「ふむ。例の神殿にて待つ、というのも手かもしれんな。既に住民はいないのであろう?」


「ああ、それいいかもな。ついでに鍛錬もできるし」


「カタナだけでなく、アーラーヤ、そして亜人の身体能力に体操術を掛け合わせることができるクロケーという少年。修練の相手としてこれ以上の者はおるまい」


 マナナがパチンを指を鳴らす。


「乗った! うちも治癒術の級位上げたいんだ。プルと、あと、アーラーヤってやつが奇跡級なのに、うちだけ徒弟級第一位だよ。今のままじゃ、いてもいなくても大差ないって」


 そんなことはないのだが、自分だけ力不足を感じる気持ちはわかる。


「な、なら、わたし教える!」


「毎日怪我人大量に出るから、治癒術の練習相手には事欠かないぞ」


「ありがたいんだか、なんなんだか……」


 俺の言葉にマナナが苦笑を返した。


「──あ、あと、そうだ。ハレって子!」


 プルに頷く。


「どこにいるか、だよな」


「う、うん……」


 現状打てる最善手は、アーラーヤとクロケーを仲間にし、ハレを加入させたあと、最速でアルクハルヴァ神殿へと向かうことだ。

 時間があれば修練の期間を延ばせるし、神殿を決戦の場にすることで、被害を最小限に抑えることができるはずだ。

 だが、肝心のハレの所在がわからない。


「……失敗した。デムリカとエル=タナエルに聞いとけばよかったな」


「でも、発明家なんだろ? ただの一般人を探すより、多少はましってもんさ」


「そうだな、前向きに行こう。腕はかなりよさそうだし、有名人でもおかしくない」


 魔術の効果を離れた位置に発現させる道具、なんてものを作る技術力を持っているのだ。

 少なくとも、まったくの無名ではないだろう。

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