4/ジランブ・モア -2 同行者
「──そして、俺は記憶を取り戻した。エル=タナエルの言葉通りにな」
二時間ほどかけて、すべてを話し終えた。
最初は半信半疑どころか俺の頭を心配していた面々も、ハルユラやルブロイといった俺の知り得ない固有名詞が出るにつれ、信じざるを得なくなっていった。
これほどディテールの細かい嘘をつく理由も能力も、俺にはない。
「……魔竜、ルインライン」
ヘレジナがぽつりと呟いた。
「師匠は、生きているのか……」
「ああ。保存してあった遺体に銀琴を使ったんだろう。常時神眼状態だから俺以外とは会話できないけど、記憶も自我もある。今はエル=サンストプラに洗脳されてるみたいだけどな」
「……喜んでいいのか、悲しむべきなのか、わからん」
「だろうな……」
しかも、ヘレジナは、そのルインラインに致命傷を負わされているのだ。
複雑な感情を抱くのは当然だった。
プルが、真剣な眼差しでこちらを見る。
「……ユラが、く、来るんだ、ね」
「ああ。ルインラインを従えて、な」
「──…………」
切なげに目を伏せるプルの気持ちが、俺にはわかった。
双子の姉に恨まれていると知っただけでもつらいだろうに、まして自分を処刑するために追ってくると言うのだ。
心穏やかでいられるわけがない。
「──…………」
ヤーエルヘルは、ずっと、自分の胸元に手を当てている。
ヤガタニという人格が存在することまでは、伝えた。
だが、ヤーエルヘルが陪神であることは、どう工夫しても口に出すことができなかった。
あのときヤガタニが言っていたように、エル=タナエルが定めた世界法則によって、情報認識及び情報伝達にロックが掛かっているのだ。
この事実を皆に伝えるためには、再びアルクハルヴァ神殿を訪れる以外にないだろう。
バルマが呟く。
「私かマナナのどちらかが旅に同行する──か」
マナナが腕を組み、答えた。
「そら、もちろん構わないけどさ。どっちが行く?」
「ははっ」
その言葉を聞き、バルマが愉快そうに笑い声を漏らした。
「な、なにさ、いきなり……」
「マナナ。お前の顔に、行きたいと書いてあるぞ」
「ぐ」
「私には、光矢術の師範という役割がある。そして、治癒術を使うこともできる。マナナ。お前は島のことが好きだろう?」
「そりゃあ、……好きさ。だから迷ってる」
「いいのだ」
バルマが、マナナの肩に手を置いた。
「好きだとしても、囚われる必要はない。帰りたいときに帰ってくればいい。故郷とは、そういうものだ」
「──…………」
「行ってこい。お前は、もう、ワンダラスト・テイルの一員だ」
「……はは」
マナナが、照れたように、首の後ろを撫でる。
「いい、かな。うちなんかが、仲間で」
俺は、大きく、深々と頷いてみせた。
「いいに決まってんだろ。何を遠慮してんだか」
「ま、マナナと旅、だあー……!」
「……えへへ。まだ混乱してましけど、マナナさんが仲間になってくれるの、嬉しいでし!」
「ああ。私たちは、皆、お前が好きだ。喜んで歓迎するぞ」
マナナが、満面の笑みを浮かべた。
「しゃーない。カタナのハーレムに参加したろうか!」
「人聞きの悪い……」
「でも、五人目がナナイロで、六人目がヤガタニってヤーエルヘルの別人格。んで、七人目がうちだろ? 見事に女の子ばっかじゃん」
「──…………」
言われてみれば、そうだ。
「い、いや、アーラーヤとクロケーも加入すっから!」
ヘレジナが、思い出し思い出しといった様子で口を開く。
「しかし、アーラーヤは今、ラーイウラの国家剣術士なのだろう? そして、クロケーという少年はアーラーヤの弟子だ。正式なメンバーと言うより、一時加入という認識なのだが……」
「──…………」
反論の余地がない。
「し、しかも、ハレって発明家の子も、女の子……」
ヘレジナが半眼で俺を睨む。
「好色め」
「ハレって子に関しては俺のせいじゃねえ! デムリカに言え、デムリカに!」
「こう、友達の友達感覚で陪神の名前が出てくると、不思議な感じがすんねえ……」
マナナの言葉に、胸中で苦笑する。
友達の友達どころか、そこにいるヤーエルヘル自身が陪神なのだ。
「ね、……ね、かたな。エル=タナエルって、ど、どんなひとだった……?」
即答する。
「変な子」
「へんなこ……」
「俺とプルの子供に転生しようとしてるって話はしたろ」
「う、う、……うん……」
プルが、てれてれと両頬に手を添える。
こっちまで恥ずかしくなってきそうなので、敢えてプルから視線を外した。
「神サマだけにいろんな権能は持ってたけど、俺の印象としては単なるわがまま娘だな。パパンだのママンだの認知しろだの好き勝手言ってたよ。あと──」
一瞬だけ逡巡し、言葉を継ぐ。
言うべきだろう。
「……月に転生したら、エル=サンストプラにまた戦争仕掛けるとさ」
俺の言葉を聞いた瞬間、全員が、はっと口を閉ざした。
冗談めかした言い方だったが、エル=タナエルは本気だろう。
俺は、プルが好きだ。
だが、プルと結ばれ、子供を儲けるためには、創世の女神をどうにかしなければならない。
なんでやねん。
「良い意味でも、悪い意味でも、人間とはスケールが違ったよ。外見はプルと大差ない年齢の女の子って感じだったけど、たぶん自在に変えられるんだろうな。今はその姿ってだけだ」
ヘレジナが複雑そうに言った。
「印象が、どんどん変わっていくのだが」
「月がエル=サンストプラの世界って時点で、ぜんぜん信徒のこと見守れてないしな。俺を通して介入するのが精一杯みたいだし」
マナナが、心配そうにプルとヘレジナを見た。
「うちなんかは信心深くないから笑い話だけど、パレ・ハラドナ出身の二人はショック大きいんじゃない?」
「う、うん。……ちょっと、か、かなり、ショックではあるかな。うん……」
当たり前だ。
信仰していた女神が純人間を根絶しようとした張本人で、しかも、自分の子供に転生して第二次神人大戦を引き起こそうとしているのだ。
敬虔であればあるほど、傷つくのは間違いない。




