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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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断章/ナナイロ=ゼンネンブルク -終 明日、晴れたら

 目の前で、未来のおれが、すこしずつ黒い粘液へと変わっていく。

 未来のおれは、もうすぐ死ぬのだろう。


 でも、どうして──

 どうして、微笑んでいるのだろう。

 どうして、こんなにも満足そうなのだろう。

 苦しいはずなのに、どうして。

 おれは、つい尋ねていた。


「──なあ、おれ」


「ん……」


「おれの人生は、どうだった?」


 未来のおれが、穏やかに答えた。

 すぐに訪れる死に、すこしも怯えていなかった。


「……見れば、わかるだろ」


 未来のおれが、みんなを見渡す。

 カタナ兄を。

 ヤー姉を。

 プル姉を。

 ジナ姉を。

 マナナを。

 十七番目──バルマを。


「──最高だったぜ」


 ああ。

 その顔が、あまりに幸せそうで。

 その声が、あまりに澄んでいて。

 おれは、素直に憧れた。

 目の前にいる、未来のナナイロ=ゼンネンブルクに。


「そっか……」


 未来のおれが、苦しげに目を閉じる。


「……ご、めん。そろそろ、お別れ、みたい、……だ」


 気が付けば、首元までもが粘液へと変わっていた。

 もう、終わる。

 もうすぐ終わってしまう。

 ぱたり、と、絵本の裏表紙を閉じるときのように。


「おやす、……み。みんな」


「……ああ」


「……おや、すみ。……パタ姉……」


「……うん」


 パタ姉が、涙を流しながら、ゆっくりと頷いた。


「おやすみ、ナナイロ」


 島での、別れのあいさつだ。


「──また、明日」


 あなたに、明日も会いたい。

 ただ、それだけの言葉。


「また、……あした……」


 未来のおれが、最期に、満面の笑みを浮かべた。

 たとえ明日が来なくても、会いたい気持ちは本当だから。


「……嗚呼。……あし、た、……晴れた、ら──」




 ──ぱしゃっ。




 未来のおれのすべてが、黒い粘液へと化した。

 服だけを残し、ナナイロ=ゼンネンブルクは死んだ。

 満面の笑みを浮かべて。


 未来のおれは世界を救った。

 役割を果たして、ようやく、魔獣ではないただの人間になれた。

 いいんだ。

 おれは、幸せになったって、いいんだ。

 浮かんだ涙を、親指でピッと拭う。

 おれを待ち受けるのは、六十年の過酷かもしれない。

 だとしても、最後には報われる。

 最高の人生だったと、胸を張って言うのだ。


「ナナさんッ! ……ナナさん……ッ!」


 ヤー姉の泣き声で、おれは我に返った。


「ナナ、……さん……」


 泣き虫だな、ヤー姉は。

 おれの死は、悲劇なんかじゃない。

 救いだ。

 おれは、ヤー姉の肩に手を乗せた。


「おれ、決めたよ」


 決意を口にする。

 それは、あるいは呪いかもしれない。

 でも、


「おれは、この〈ナナイロ〉になる」


 こう思うことが、こう告げることが、こう信じることが、未来のおれ自身に対する最高の賛辞なのだ。




 みんながおれを待っている。

 今から行くよ。

 六十年の時を踏み締めながら、一歩ずつ、一歩ずつ。


 最高の人生を、歩いていく。

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