断章/イオタ=シャン -3 目指せ、最優等クラス!
参観会。
中等部の出し物であるガラス玉迷路に、ぼくとシオニアさんは大敗を喫した。
しかし、手で持つことのできるテスト用のガラス玉迷路を、カタナさんがあっと言う間に攻略してみせた。
すごい。
やはり、ぼくの師匠だ。
「ふふん、どうよ」
シオニアさんが、ぱちぱちと拍手を送る。
「カタナさん、すっごい!」
「すごいです! この能力は借り物だとかなんとか悩んでた人の行動とは思えませんね!」
「ははは、この弟子言いおるわ」
カタナさんの様子に、ぼくは思わず安堵した。
乗り越えたんだ。
それが、わかったから。
カタナさんが、中等部の生徒から粗品を受け取る。
それは、握りこぶしほどの大きさの、綺麗なガラス玉だった。
ほとんど真球に近いもので、粗品とは言え高価そうに見える。
「あー……」
カタナさんが、困ったような表情を浮かべる。
「あれ、カタナさん嬉しくないの? きれいだよ!」
「綺麗は綺麗なんだが、荷物になるかと思ってな。ガラス玉だし、割れたらもったいないだろ」
確かにその通りだ。
カタナさんたちは、旅人なのだ。
自分の家があれば飾ってもいいのだろうが、旅路では邪魔になるだろう。
ふと、いいことを思いついた。
「なら、シオニアさんにあげたらどうです?」
「ああ、なるほど」
ぼくの意図を理解しないまま、カタナさんがシオニアさんにガラス玉を差し出す。
「シオニア、もらってくれるか?」
「え、いいの……?」
「ああ、もちろん。部屋のどっかにでも適当に飾ってやってくれ」
シオニアさんが、ガラス玉を抱き締めた。
「……大切にするね」
それは、普段のシオニアさんからは想像もできないような、女の子の顔だった。
「えー……、と?」
その表情を見て、さすがのカタナさんも察したようだ。
「シオニア、ちょいここにいてくれ」
「……? うん」
「イオタはこっち」
「はいはい」
何を話したいのかは、もうわかっている。
カタナさんは、ぼくを廊下の端へ連れて行くと、小声で尋ねた。
「……勘違いだと恥ずかしいんだが、もしかしてフラグ立ってない?」
「え、気付いてなかったんですか?」
知ってたけど。
「そしてお前、背中押してない?」
「押してますよ」
「なんでや……」
「気持ち、わかるからですよ」
シオニアさんは、ぼくと同じだから。
「別れが間近に迫ってる。だからって、自分を押し込めて、好きじゃないふりをして、なかったことにするのはあまりに悲しいじゃないですか。それだけです」
別れが待っているからと言って、出会いを否定するのは悲劇だ。
ぼくは伝えたい。
ぼくの想いを、ヤーエルヘルさんに。
そして、それは、シオニアさんもきっと同じなのだ。
他人事だと放っておくことはできなかった。
カタナさんが、しみじみと言う。
「……強くなったなあ」
ぼくは、下手なウインクを返した。
「でしょう?」
「ナイショ話、長いよ!」
シオニアさんが、ぴょこんと下から現れる。
「ほら、黒組戻ろ! プルちゃんたち、そろそろ交代してると思うよ」
「そうだな」
「ええ」
そうして、ぼくたちは歩き出す。
残された時間は短い。
せめて、後悔だけはしないように。




