断章/イオタ=シャン -2 揚げタコ焼き
参観会の出し物を決めるため、ぼくとカタナさん、ドズマさんの三人は、高等部の母屋を後にした。
すると、母屋の前で待っていた三人が、こちらに気が付いて嬉しそうな顔をした。
「──あ、か、かたな!」
プルさんが、ぱあっと効果音がつきそうな笑顔をカタナさんに向ける。
相変わらず好き好きオーラが出まくっていた。
「悪い、待たせちまったな。クラス会議があってさ」
ヘレジナさんが、納得したように頷く。
「ああ、参観会とやらの出し物か」
「そうそう」
「二年銀組は何をするんでしか?」
うッ。
ヤーエルヘルさんの純真無垢な瞳に、つい余計なことまで告白してしまいたくなる。
ぼくは、断腸の思いで首を横に振った。
「それは、さすがに、ヤーエルヘルさんにも言えないかな」
「そうでしかー……」
ヤーエルヘルさんが、残念そうに目を伏せる。
あ、睫毛長い。
「ま、それに関しちゃ当日のお楽しみってこった。わりーがカタナは借りてくぜ。こいつがいないと始まんねーんだ、これが」
ドズマさんの言葉に、プルさんが小首をかしげた。
「か、……かたながいないと、始まらないもの?」
「二年銀組の出し物がどうなるか、こいつにかかってるからな」
「ほう、それは楽しみであるな」
カタナさんが、三人に深々と頭を下げる。
「つーわけだから、悪い! 今日はもう寮に帰るわ。この埋め合わせはどっかでするから」
「……う、ううん。し、仕方ない、……もんね。か、かたなたちも、がんばってね。わたしたちも、がんばるから……」
「お前たちの度肝を抜いてやろう」
ぼくは、敢えて挑戦的に笑ってみせた。
「そんなこと言っていいんですか? 期待しちゃいますよ、ぼくたち」
それは、ほんの一週間前には絶対に取れなかった態度だ。
ぼくは、きちんと成長できている。
それが嬉しかった。
「その期待を超えてこその剣術士である」
「いや、剣術関係ねーだろ」
「心構えのことを言っておる!」
「じゃあ、あちしたちも寮に帰りましね。また明日、でし!」
「ああ、また明日」
三人に別れを告げ、ぼくたちは寮への帰途についた。
ドズマさんが口を開く。
「思ったんだけどよ」
「はい?」
「イオタって、随分年下が好みなのな」
「──ぶッ!」
思いきり吹き出してしまう。
「カタナさん……?」
さては言ったな、この野郎。
「言ってない、言ってない。お前がわかりやすいだけ」
そっか。
カタナさんがそう言うのなら、本当に言っていないのだろう。
「……そんなにわかりやすいですか?」
まさか、顔に好きだと書いているわけでもないだろうが、ドズマさんが確信するくらいには見てわかるものなのかもしれない。
「気付いてないの、シオニアくらいじゃね」
「いやー……、どうだろ。女の子って鋭いぜ。普通に気付いてると見るべきだな。だから、本当に何も知らないのは本人ばかり」
「本人にまで気付かれてたら、恥ずか死ぬ……!」
ぼくは、熱くなる顔を両手で覆った。
「で、どこが好きなのよ。ん?」
「俺も気になるな、それ。ヤーエルヘルの父兄的存在として」
意外だった。
そんなの、見ればわかると思うけどな。
「え、普通に可愛くないですか?」
「まあ、可愛いわな。でも、プルとヘレジナだって、とんでもねー美形だろ。三人並んだときにヤーエルヘルだけ突出してるかっつーと、どうかな」
それはそうだ。
好みの問題、というものはある。
「……最初に会ったとき、シィのこと、可愛いって言ってくれたんです。あのときのぼくの拠り所はシィだけで、シィを褒められると、まるで自分自身を褒められているような気がした。それで──」
初めて会った夜のことを想起する。
昨夜のことのように、鮮明に思い出すことができる。
「それで?」
「そのときの笑顔が、超可愛かったんですよ!」
一目惚れだった。
エル=タナエルの寵愛を受けているとしか思えない可憐さだ。
ドズマさんが、半眼でこちらを見やる。
「途中までいい話かと思ったら、最終的には見てくれが好みだと」
「そういうものでしょ!」
「そういうものかもな……」
カタナさんは納得してくれているようだ。
ぼくは、逆に尋ねた。
「──ドズマさんはどうなんですか!」
「オレ? オレは胸のでかい女が好き」
清々しいほど見た目だった。
「じゃあ、四人の中から一人選ぶとしたら?」
「……え、シオニアも入れんの?」
「いちおう」
何がとは言わないが、あの三人よりシオニアさんのほうが大きい。
しかし、特別大きいわけでもないので、あの三人が揃って小さいだけだ。
口にしたら怒られそうだけれど。
「あー……」
ドズマさんが、しばらく悩んだうちに答えた。
「消去法でヘレジナかな」
「消去法なのか」
「まず、シオニアは除外だ」
「せっかく入れたのに……」
「ヤーエルヘルも、ガキっぽ過ぎて除外」
「そこがいいんでしょう!」
「イオタ……」
カタナさんが、複雑そうな表情でこちらを見る。
事実なのだから仕方がない。
「プルも悪くねーけど、こう、恋愛っつーより庇護欲のが強くなっちまうんだよな。兄貴的な視点に立っちまうっつーか」
「ああ、それはわかるな……」
「つーことで、消去法でヘレジナ。年下より年上のが好みだし」
「年上には見えませんけどね……」
「それ、イオタが言えたことじゃないからな。俺、お前と初めて会ったとき、ヤーエルヘルと同い年くらいだと思ってたんだから」
「え、ひどい! ぼくをなんだと思ってるんですか!」
三人で盛り上がりながら帰途につく。
皆が皆、歩く速度を緩めていたことに、恐らく全員が気が付いていた。
それくらい楽しかったのだ。
カタナさんやヤーエルヘルさん、プルさんにヘレジナさんたちは、すぐにこの魔術大学校を離れてしまうだろう。
けれど、それでも残るものは絶対にある。
ぼくにできるのは、精一杯この時を楽しむことだけだ。




