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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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断章/プルクト=エル=ハラドナ -終 無限の選択肢の、その先へ

 ──とさ。


 音で気付く。

 かたなが、仰向けに倒れていた。


「──かたなッ!」


 わたしは、慌ててかたなの元へと駆け寄った。

 ヘレジナの治癒は、もうほとんど終わっている。

 優先すべきは、明らかな致命傷を幾つも負っているかたなのほうだ。


「かたな! かたな……ッ!」


 いちばん深い傷は、内臓まで炭化している脇腹だ。

 腹部を中心に治癒術をかけていく。


 しかし、

 かたなの体温は、

 徐々に失われていった。


 やめて。

 死なないで。

 わたしを置いて行かないで。

 お願いです。

 わたしの隣を歩いてください。

 ずっと、ずっと、傍にいてください。


「かたな、……かたな……!」


 ひたすらに名前を呼ぶ。

 届いて。


「かたな、い、言った、……よね……!」


 届いて。


「生きたい、んだって、言って、……くれって!」


 届いて。


「そしたら、きっと、お前を助けてみせるから、……って……!」


 わたしを助けて自分は死ぬなんて、そんなのだめだよ。

 ずるいよ。

 わたしは、かたなにもらった言葉を返す。


「生きたいんだ、……って、言って! そしたら、わたしは、……あなたを助けてみせるから……ッ!」


 ──ぴく。


 かたなの目蓋が、わずかに動いた。


「!」


 遮二無二、治癒術をかけ続ける。

 すると、かたなが、うっすらと目を開いた。


「……生、……きたい、な……」


 生きている。

 体温も、徐々に戻り始めていた。


「──っ! わかった! 絶対に助けるから!」


 あとは、もう、必死だった。

 魔力《マナ》が空っぽになるくらい、否《いや》、空っぽになったとしても、かたなが全快するまでは意地でも治癒術をかけ続けるつもりだった。

 やがて、かたなが、わたしの頬に手を伸ばした。

 大きな親指で、わたしの涙を拭う。


「……ぐしゃぐしゃだぞ、顔……」


 心の底から安堵する。

 よかった。

 生きていて、くれた。

 かたなが、不用意に上体を起こす。


「かたな!」


「いでででで……」


「わ、わ、まだ起きたらだめ……!」


 かたなを押し倒すような形で、慌てて赤絨毯の上に寝かせる。


「き、傷は塞いだ、けど、一ヶ月は安静! 陪神級の治癒術士ならともかく、わ、わたしの腕だと、内臓機能までは回復できなくて。あ、あとは、自然治癒にまかせるしか……」


「……あの状況から生きてるだけで十分だわな」


 ほんとだよ。


「そう言えば──」


 かたなが、周囲を見渡した。

 そうだ。

 ヘレジナはどうしただろう。


「──…………」


 彼女は、いつの間にか目を覚まし、ルインラインの遺体の手をそっと握っていた。

 そうだよね。

 ヘレジナは、ルインラインの唯一の弟子だったんだから。

 しばらくして、ヘレジナがこちらを向いた。


「カタナ、よく生きていた」


 ヘレジナは憔悴していた。

 ひどい怪我から生還したばかりだから、ではない。

 大切な師匠を、亡くしたばかりだからだ。


「なんとか、な。ヘレジナも無事でよかった」


「ああ」


 ヘレジナが、わたしにウインクをする。


「ほら、プルさま。カタナに褒美をあげねばなりますまい」


「ほうび……」


「褒美と言ったら膝枕に決まっているではないですか」


「!」


 そうだ。

 かたなは照れていたけど、なんだかわたしの膝枕を気に入ってくれている様子だった。

 まだ動けないのだし、しばらく膝枕をしていてあげよう!

 そう思い、かたなの頭を持ち上げる。


「ま、待て待て待て! 今の自分の恰好を思い出せ!」


「あ」


 そうだった。

 わたし、はだかの上にかたなのスーツを羽織ってるだけだった。

 ほとんどはだかなのに、膝枕なんかしたら──

 ぼッ、と、一瞬で顔が熱くなる。


「き、き、着てきまっす……!」


「そうしてくれ……」


 我ながら不自然な歩き方で、その場を後にする。

 ヘレジナがすぐに追いついてきた。


「ふふ」


 気丈に微笑み、ヘレジナが言う。


「あの男、気骨がありますね。まさか師匠に勝ってしまうとは。影の魔獣のときから、やる男だとは思っていましたが……」


「……う、うん」


 ほっぺたが熱を持ちすぎて、返答どころじゃなかった。

 ヘレジナが、からかうように言う。


「惚れましたか?」


 それは、まるで、ルインラインの真似をしているかのようだった。

 足を止め、ヘレジナを見る。


「ヘレジナ。む、無理はしないで。ね?」


「……お見通しでしたか」


「うん」


 わかるよ。


「だって、ヘレジナは、わ、わたしのお姉ちゃんだから……」


「──…………」


 ヘレジナが、遠慮がちに尋ねる。


「申し訳ありません。すこし、抱き締めてよいでしょうか」


「……うん」


 わたしは、ヘレジナに向かって両腕を広げた。

 スーツの下がはだかなのも、今だけは恥ずかしくなかった。

 ヘレジナが、わたしを抱き締める。

 わたしが、ヘレジナを抱き締める。


「──……う、あ。師匠、……師匠……」


 ヘレジナが、小さくルインラインを呼びながら、静かに涙する。

 ルインライン。

 ばか。

 自殺なんて、する必要なかったのに。

 あなたが罪人だと言うのなら、わたしだって同罪だよ。

 あなたとわたしは協力者だったんだから。

 わたしの涙腺からも、はらりと涙がこぼれ落ちた。

 ルインライン。

 エル=タナエルの御許へ、ちゃんと迷わず行けたかな。

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