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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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3/或る時、或る部屋で -2 知恵比べ

「まず、ここは地球《タナエル》です。時系列としては、形無が増水した川で少女を助ける数時間前ですね」


「月《サンストプラ》に行く、……前?」


「ええ。鍛え上げた肉体が元に戻っているでしょう?」


「──…………」


 スーツの袖をまくり、自分の腕を見る。

 嗚呼。

 俺の腕は、こんなにも細かったのか。


「なら、俺の旅路は……ッ!」


「なかったことになった──わけでは、ありません。元より繰り返していることは、アルクハルヴァ神殿でヤガタニから聞いたはずです」


「あ、ああ……」


「エル=タナエル。ノートを」


「ほいほい」


 エル=タナエルがコタツを出て、ベッドの枕元に置いてあったノートパソコンを抱える。

 ノートパソコンを開くと、ゲームのタイトル画面が映し出されていた。

 美しく風に揺られるサンストプラを背景に、タイトルロゴが表示されている。




 異世界は選択の連続である[Re:]




 そして、幾度か見た記憶のある選択肢が、画面下部に表示されていた。




【青】再び始める


【黒】終わる




 俺の背筋を、嫌な悪寒が走った。


「今までのは──」


「ゲームじゃないよ」


 エル=タナエルが、俺の言葉を遮った。


「実際に起こったことだから、安心おし」


「……違う、のか」


 デムリカが半眼でエル=タナエルを見る。


「エル=タナエル。あなたがタイトル画面に妙に凝るからですよ」


「いいじゃん」


 エル=タナエルが、俺の顔を覗き込んだ。


「これは、単なるUI《ユーザーインターフェイス》。神《わたし》が自分の権能を使うためのね」


 UI《ユーザーインターフェイス》とは、人間《ユーザー》とシステムを繋ぐ架け橋のようなものである。

 この場合、エル=タナエルがその権能を効率的に使用するために作り出したツール、くらいの意味合いになるのだろう。


「──…………」


 無言で続きを促す。


「まず、エル=タナエルの目的をお話ししましょう。彼女は、月《サンストプラ》に再誕するつもりでした。ただの人として。もっとも、権能を捨てる気はなかったでしょうけれど」


「ないよ」


「この通りです」


「……再誕?」


「ええ。言葉の通りです。エル=タナエルは、月《サンストプラ》を愛していますから」


「え、……っと。地球って、エル=タナエルそのものなんだろ。お前が月《サンストプラ》に生まれたら、地球はどうなるんだ?」


「特に変わりはないよ。地球《タナエル》は、もともと神《わたし》だもの。月《サンストプラ》も手に入れたいだけ」


「魔王か何か?」


「近いです」


「コラ」


「五祖のうち、カガヨウだけが地球《タナエル》の者であったことを覚えていますか?」


「ああ、覚えてる」


「ちなみに、かぐや姫のモデルとなった説は、マジです」


「……おおう」


 シオニア、正解だったのか。


「カガヨウの系譜は、エル=タナエルが仕込んだ布石でした。いつの日か、地球《タナエル》から月《サンストプラ》へ人を送り、カガヨウの末裔とつがわせる。そうすれば、エル=サンストプラよりエル=タナエルの要素の大きい純人間が月《サンストプラ》に生まれることになります」


 月で生まれたエル=サンストプラ管理下の月人間、地球で生まれたエル=タナエル管理下の地球人間がいるとして、カガヨウという地球人間を月に送り込み、のちのちその子孫と地球人間とのあいだに子供を作らせることで、地球人間を月で誕生させる。

 エル=タナエルは、その地球人間に転生し、サンストプラを内側から手中に収めようとした。


「……月《サンストプラ》へ送り込んだ地球《タナエル》の者。それが、俺なのか」


「そゆこと」


「そして、俺のお相手が──」


「プルクトちゃん」


「──…………」


 つまり、エル=タナエルは、こう言っているのだ。

 俺とプルに子供を作らせ、その子供に転生して月《サンストプラ》に生まれるつもりだった──と。

 この、ただの少女にしか見えない女神が、急に恐ろしく感じられた。


「そんなわけで、形無とプルクトちゃんには、神《わたし》のパパンとママンになってもらう予定だったのよ」


「……直接、月《サンストプラ》へ行くことはできないのか? もしくは、地球《タナエル》の者をもっと送り込めばいい。地球《タナエル》の者同士で子供を作ればいいんだろ」


 エル=タナエルが、口を尖らせる。


「できたらしてるんすわ……」


「ええ。月《サンストプラ》は、エル=サンストプラの世界です。彼はまだ生きている。地球《タナエル》からの介入手段は限られます。事実、人間はアポロ計画で月面着陸を果たしましたが、位相のずれたサンストプラに入ることはできていないでしょう?」


「神《わたし》の権能でできたのは、地球《タナエル》の者を一人送り込むことと、そやつに加護を与えること。ルインラインが[羅針盤]って名付けたアレのことね」


「なるほど……」


「そして、[羅針盤]を扱いやすくするためにエル=タナエルが開発したUI《ユーザーインターフェイス》が、こちらになります」


「……ゲームにしか見えないんだが」


「実際、ノベルゲームみたいなもんだからね。仕組みはかんたん。神《わたし》の権能で作ったこの無限スペックパソコンは、形無と同期してる。そんで、形無が死ぬなりすれば、そこに選択肢を残して適当な時点へと巻き戻る。以前の周と異なる行動を取れば、そこにも選択肢を設置する。それを繰り返すだけ」


「マクロ、か」


「そんなかんじ。詰まったときなんかは神《わたし》自身が選択肢を書き込んだりもしたけど、ほとんど自動」


 マクロ──繰り返し作業を自動で行ってくれるプログラムのことだ。

 なるほど。

 作業が膨大になればなるほど、繰り返しの回数が多くなればなるほど、マクロは本領を発揮する。

 第三者の観点に立てば、最初にマクロを組んだのは賢明だったと言えるだろう。

 当人からすれば、なんとも言えない心持ちだが。


「エル=タナエルから月《サンストプラ》への直接介入ですから、エル=サンストプラも当然気が付きます。そこで、彼が妨害策として打ち出したのが、ハルユラです」


 気付く。


「──あ、エル=サンストプラの神託!」


「その通りです。エル=サンストプラは過去へと遡り、双子の片割れ──ハルユラに神託を与えました。そして、いつかプルクトを始末するよう洗脳したのです」


「洗脳……?」


 これまでの話を聞いていれば、明らかにエル=タナエル(こいつ)が悪者だ。

 だが、エル=サンストプラも無欠の善とはとても言えない。

 神々とは、善悪では測れないものなのだろうか。


「なにせ、月《サンストプラ》はエル=サンストプラの世界ですからね。好き放題できるかと」


「──…………」


「エル=タナエルがカガヨウの末裔に神託を下していたのは、カガヨウの末裔を絶やさないためです。未来を識る力が重用されないはずもなく、皇巫女の血筋は、エル=タナエルの目論見通り、千年以上も保たれました。プルクトとハルユラに神託を与えなかったのは、あなたを──形無を月《サンストプラ》へ送り込む予定があったからです。血を絶やさないという目的は、既に果たしていましたからね」


 スケールが違う。

 そう思った。

 地球《タナエル》と月《サンストプラ》の知恵比べ。

 目的は単なるわがままのくせに、世界を操り、人を操り、時を操り、やりたい放題だ。

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