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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
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3/或る時、或る部屋で -1 創世の女神











「──…………」


 目蓋を開く。

 視界がぼやけていた。

 幾度かまばたきをすると焦点が合い、視界の中で何が動いていたのかが理解できた。

 シーリングファンだ。

 大きな羽根が、ゆっくりと回転している。


「……ん……?」


 のそり、と、上体を起こす。

 どうやら、コタツで横になっていたようだ。

 通電していないのか、コタツの中はさして暖かくない。

 頭がぼんやりしている。


「どこだ、ここ……」


 俺の呟きに、応える声があった。


「──あ、起きた」


 それは、パソコンデスクに向かっていた女子高生くらいの小柄な少女だ。

 サメデザインのパーカーの帽子を脱ぎ、高級そうなヘッドホンを外す。


「気分はどすか?」


「気分……」


 気分って、どんな意味だったっけ。

 右手で顔を押さえる。

 ああ、そうか。


「頭が、すげえ、重い。……インフルにかかったときみたいだ」


「ふうん。なら、もすこし休んだほういいよ。リセットしたとは言え、あそこで七十三万年も彫像やってたんだから。一回精神崩壊してるのよ」


「七十、……三万年……?」


 大きすぎてピンと来ない数字だ。


「感覚的にはね。いくら神眼の重ね掛けだからって、天眼は、ほんとに時を止められるわけじゃない。でも、人間の感覚に限界はないから」


「──…………」


 少女の話は荒唐無稽で、理解の及ばないものだった。

 だが、それが自分の話だということは、わかる。

 もやの向こうのおぼろげな記憶が、そう叫んでいた。


「──デムリカー!」


 少女が、誰かの名を呼ぶ。

 すると、数秒もせずに、部屋の扉が開いた。


「ご用命ですか?」


 現れたのは、金髪碧眼の容姿端麗な青年だった。


「形無が起きたから、生姜湯でも作ってあげてよ。はちみつたっぷり入れたやつ」


「はちみつは、あなたの好みでしょう」


 青年──デムリカは、すこし呆れたようにそう言ったあと、俺の前で腰を屈め、視線の高さを合わせた。


「形無。君は、甘いものは大丈夫ですか?」


「……あ、おう。好きなほう」


「では、彼女と同じものを作って参りましょう」


 そう告げて、デムリカが部屋を出て行く。

 デムリカ。

 どこかで聞いたことのある名前だった。


「驚いた?」


「……?」


 少女の言葉に首をかしげる。


「イルザンハィネスは月《サンストプラ》の太陽やってるし、サザスラーヤはあの通り。ヤーエルヘルとはずっと一緒にいたけど、デムリカだけ情報なかったでしょ」


「あ──」


 思い出していく。

 冒険の日々を。

 俺の脳が、急速に回転を始めた。


「──ここは!」


「あ、おめめぱっちりした」


「ここはどこだ。お前は、……誰だ?」


「あー」


 少女が、うんうんと頷く。


「そっか、そっか。気付いてなかったか。こりゃうっかり」


「──…………」


 少女を、真剣な目で見つめる。


「自己紹介なんて初めてかも。えーと、なんて言えばいい? 名前? それともスリーサイズ?」


「……名前から頼む」


「おうけい」


 少女が、自分の胸に手を当てる。


「神《わたし》は、エル=タナエル。この地球《タナエル》そのものであり、その意志である。これでよろし?」


「──…………」


 デムリカの名が意味するものを理解してから、あるいはと思っていた。


「……聞きたいことが、たくさんある。あり過ぎて渋滞してる」


「だろね。まあ、生姜湯飲みながら落ち着いて話そ。時間はあるし」


「ああ……」


 エル=タナエル。

 創世の女神。

 外見は好きに変えられるのだろうが、まさか、日本人の少女にしか見えない姿を取っているとは思わなかった。

 エル=タナエルがヘッドホンを着け直し、右手をマウスに、左手をキーボードに乗せる。

 何か、ゲームをしているらしかった。

 体を傾け、ディスプレイを覗き込む。

 FPSだ。

 俺も、名前だけは聞いたことがあるような作品だった。

 女神だけに無敵を誇るのかと思いきや、ぼこぼこ撃たれて死にまくっている。


「──うがーッ!」


 エル=タナエルが、マウスを放り投げた。


「おっ、と」


 床に叩きつけられそうになったマウスを、ギリギリで受け止める。


「マウスが悪いよマウスがー!」


「腕だろ絶対……」


「マウスが悪いの!」


 エル=タナエルがヘッドホンを外し、どかどかと足を踏み鳴らしながらコタツに入る。


「形無、電源入れて」


「あれ、電源こっちか」


「そっち」


 コタツ布団をめくると、確かにコードがこちら側から伸びており、その途中に電源スイッチが繋がれていた。

 スイッチをスライドさせると、コタツの内側が、ぽ、と明るくなる。


「……あー、あったけえ」


「いいでしょ、お気に入り。春先だけど、今日は冷えるし」


「実家の正月を思い出すわー……」


「宮城で米農家だっけ」


「ああ。五年帰ってないけど……」


「いいこと教えてあげよか」


「……なんだよ」


 怖いな。


「形無の妹さん、けっこうなハイスペ男子と交際中。上手くすれば、あと一、二年でゴールインする、……かもね!」


「……マジか」


 なんかショック。


「──って、お前。そんなことまでわかるのか」


「お前て。こちとら創世の女神ぞ」


「いや、どうしても見た目がな。敢えてそうしてるんだろうけど……」


「ボンキュッボンがよろしいか? メルダヌアみたいの」


「……それはそれで落ち着かないから、今のままでいいです」


「よき」


 そんな会話をしていると、再び扉が開いた。


「お待たせ致しました」


 デムリカの手にしたお盆には、三つの湯飲みが載せられている。


「こちら、生姜湯です。シナモンも散らしてみました」


「てんきゅー」


「ああ、ありがとう」


 湯飲みを俺たちの前に置いたあと、デムリカもコタツに入る。

 シナモンを散らした生姜湯を、息で軽く吹き冷ましてからそっと啜った。

 生姜湯は、思いのほか熱すぎず、とろりと喉を流れていった。

 甘い。

 そして、美味い。


「エル=タナエル。形無にお話は?」


「ちっとだけ。落ち着いてからのがいいでしょ」


「確かに」


「概要、デムリカが説明してよ。神《わたし》より智慧の陪神のが頭いいんだから」


「構いませんよ。では──」


 デムリカが、こほんと咳払いをする。

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