2/皇都コルハイン -5 円形闘技場
乗り合い騎竜車に一時間ほど揺られたあと、俺たちは、城郭の中でも南西の郊外にある円形闘技場を訪れていた。
「デッ、……けえー……」
「ああ……」
「ラーイウラ王城の闘技場なんて目じゃねえぞ。コイツに比べりゃ、あそこはミニチュアだ……」
まったくの同感だった。
ローマにあるコロッセウムを実際に見たことがあるわけではないが、恐らく、それよりも遥かに巨大な施設だろう。
円形と呼ばれているものの、実際には楕円形をしており、スタジアムと呼んでもさほどの違和感はない。
十五万人と言われる皇都コルハインの住民を、余裕を持って全員収容できるのではないだろうか。
「入れんのかな、これ」
「行くだけ行ってみようぜ。駄目なら駄目だったとき考えりゃいい」
アーラーヤの言葉に頷き、円形闘技場の周囲を歩く。
闘技場の周囲には何もなく、芝生が敷かれているのみだ。
「オ、誰かイル」
クロケーの視線の先には、屋台の準備をしている中年の男性の姿があった。
アーラーヤが声を掛ける。
「よう、今日はやってねえのかい?」
「ああ。悪いが今日は、アンゲ飴ひとつ売ってないわい。トレロ・マ・レボロのおかげでこっちは商売上がったりでね。普段は巡礼者が観光に来るんだが、ここ最近はめっきり減っちまってな」
「そいつは大変だな。でも、数日後には催し物があるんだろ?」
「ああ、ニセ皇巫女の処刑のことか。久々の書き入れ時で、腕が鳴るわい」
「人は入りそうかい?」
「そりゃあ、入ってもらわないと困るわい。いたいけな少女が首を落とされるなんざ、滅多に見られるモンじゃない。三十日は忙しいぞう」
「──…………」
正直に言って、不愉快だった。
だが、無関係で無責任な第三者など、こんなものだろう。
「ところで、闘技場の観光はできんのかい? 俺たちも処刑は観に来るつもりだが、ちょいと下見がしたくてね」
「はっは、兄さんたちもいい趣味してんねえ。いい席で観たいってか。準備してっからアリーナには入れないが、観客席なら問題ないだろ」
「そうかそうか。なら、勝手に入らせてもらいますかね」
「三十日はなんか買ってってくれよ!」
「気が向いたらな」
屋台の男性に背を向け、歩き出す。
「……ドノ穴から入ればイイんだ?」
「どれでもいいんじゃね」
「ナラ──」
円形闘技場の側面に開いた無数の穴の一つに入る。
無骨な石材で形作られた円形闘技場の外周廊下には、アリーナを中心として時計回りの渦を描くような形で階段が幾つも設置されている。
階段は観客席へと通じており、二階席から四階席までが存在しているようだった。
二階席からアリーナを見下ろす。
楕円形のアリーナでは、数十名の人々が何かの作業を行っていた。
「……処刑台、か」
屋台の男性は、首を落とすと言っていた。
ギロチンのような執行具があるのか、それとも処刑人によって首を落とされるのかはわからないが、見世物として映えるように高い足場を作っていることは窺えた。
アーラーヤが、二階席からアリーナを覗き込む。
「……ここからでも、けっこう高いな。飛び降りると痛いぜ」
「体操術でもか?」
「おいおい、カタナ。体操術をなんだと思ってやがる。あれは、肉体の操作の補助を魔術でするもんだ。肉体を保護してくれるわけじゃねえ」
「そうなのか……」
そこらへん曖昧なんだよな。
「なら、クロケーはどうなんだ? ほら、亜人の身体能力」
「オレならこのくらいは平気だ。デモ、オレだけ降りても仕方ナイ気がする……」
「円形闘技場で救出する場合、観客席から飛び降りるのはナシだな。つーか、そもそも立地が最悪だ。ここでプルを助け出したとして、そのあとどうすりゃいいんだか」
アーラーヤが、必死に案を絞り出す。
「馬車を買うか借り上げて、俺が外で待機しておく──とか」
「……絶対混んでると思う」
クロケーに同意する。
「違いないな……」
兵士や騎士であればともかく、一般人を巻き込むことだけはしたくない。
通行の邪魔だと無辜の人々を白き神剣でずんばらり──なんて、俺には無理だ。
不殺は捨てた。
だが、誰も彼もを見境なく殺す殺人鬼になったつもりはない。
「下見に来てよかった。ここで助けるのは悪手だ」
「同感だな。あと、最低でも、救出後にコルハインから抜け出す手段も用意しねえと」
「ああ。次は宮殿行ってみるか」
「オウ!」
俺たちは、円形闘技場を後にした。
どうやってプルを助けるのか。
その方法を相談しながら。




