2/皇都コルハイン -3 大門
秋の前節二十四日の午前中、俺たちは、皇都コルハインへと辿り着いた。
道行きの途中で三国街道に合流できたため、予定より半日ほど早い到着となった。
皇都コルハインは、クロケーでも登るのに苦労しそうなほどの高さの城壁でぐるりと囲われており、非常に堅固な城郭都市であることが一目でわかる。
仮にコルハインに攻め入る国があるとすれば、苦戦は必至に違いない。
コルハインに入るためには、国境と同様に検問を抜けなければならないらしく、大門の前には馬車や騎竜車がズラリと列を成している。
比較的スムーズに入京しているのは、許可証を持った輸送者だろう。
軍属の車両は他の大門を通るのか、三国街道から接続している北東の大門の周辺には見当たらない。
俺たちは、大門からすこし離れたところに騎竜車を停め、作戦会議を行うことにした。
「……このままスッと入れると思うか?」
「どうだべな。聖地ハラドナへの巡礼者ってのは、それなりにいるんだよ。だが、今は不安定な政情だし、何より──」
アーラーヤがクロケーを見る。
正確には、クロケーの獣耳を、だ。
ハーフゆえに小さめではあるが、少なくとも純人間には見えない。
「亜人が入れるトハ思えない、か」
「そうなるな」
「ナラ、オレだけ夜に侵入するコトにするか?」
御者台から城壁を見上げる。
「……高いぞ、かなり」
「アレくらいなら、なんとでもなる。ハシュラムの大時計台ダッテ、外カラ登れって言われても苦労はしなかったと思う」
「身体能力のバケモンだな」
「カタナサンにバケモン言われたくない……」
クロケーの中で、俺は、バケモンという分類らしい。
「見た感じ、検問に時間はかかってても、追い返されてるやつは少ない。カタナ、身分証はあるだろ?」
「ああ。遺物三都で作ったパーティ登録証がある。アーラーヤは?」
「おいおい、今や俺はラーイウラの国家剣術士サマだぜ。王家の紋章が押印されたエグいのがあるっつの」
「国家剣術士になったのか……」
初耳だ。
「二人はスグに入れそうだな。ヤッパ、無理そうなのはオレだけか」
「そうだな……」
懐中時計で時刻を確認する。
「もうすぐ正午、日食の時間だ。クロケーなら、その隙を突いて行けないか?」
「十秒アリャ行ける」
「はッや」
やはりバケモンである。
サンストプラでは月が大きいから、日食の時間もそのぶん長く、また夜よりも暗い。
今日は秋の前節二十四日だ。
半月よりもすこし膨らんだ月の後ろに太陽が隠れることになるだろう。
「……ん?」
違和感があった。
「待て、おかしいぞ」
「何がだ?」
「考えてみりゃ、新月の日以外に日食が起こるわけないじゃん……」
クロケーが小首をかしげる。
「……ナンデ?」
「月の満ち欠けって言うのは、月に対して太陽がどの方向にあるかで決まるだろ。その太陽が月の後ろに隠れるんだから、どう考えたって新月の日以外に日食が起こるのはおかしい」
どうだ、とばかりに二人を見ると、思いのほかリアクションが薄かった。
「その説は初めて聞いたな。サンストプラじゃ、そもそも、月の満ち欠けと太陽との関係性ってのが乏しい」
「マア、ソレは地球での話だろ。月では違うんジャないか?」
「そうかも……」
サンストプラにおける太陽って、陪神イルザンハィネスそのものだって話もあるしな。
今ここで見上げている太陽と、地球で見上げていた太陽が、同じものであるとは限らない。
根本的な常識から異なっていて戸惑うという異世界転移あるあるを、半年経ってまだやる羽目になるとは思わなかった。
クロケーが、獣耳隠しの帽子をかぶりながら言う。
「ンジャ、オレは先にコルハインに入ってる。コノ騎竜車は二階建てで目立つから、スグわかるだろ」
「わかった。気を付けろよ」
「だいぶかかるかもしれねえから、気長に待ってろ。なんか食っててもいいぜ」
そう言って、アーラーヤが財布をクロケーに放る。
「ワカッタ」
クロケーが客車を降り、そのまま騎竜車から離れていく。
登りやすい場所を探すのだろう。
クロケーの背中を見送ったあと、俺は呟いた。
「……ウージスパインからハウルマンバレーに入るときは、七時間かかったんだよな」
「うへえ」
アーラーヤが肩をすくめる。
「せめて二、三時間で勘弁してほしいわ。あいつを待たせるのも悪い」
「前のほうで大立ち回りとかマジでやめてくれよ……」
御者台の椅子に腰を下ろし、騎竜に歩けと指示を出す。
さて、何時間かかるやら。




