↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部七章 パレ・ハラドナ
270/332

1/ハシュラム -8 ハシュラム大時計台

 ハシュラム大時計台は、城のような、あるいはホテルのような外観の円弧を描く建造物で、敷地内には見たこともないほどに大きな、花いっぱいの日時計がある。

 平和な時に、皆で見に来たかった。

 心の底からそう思う。

 見上げれば、十数階建ての建造物から、さらに同じくらいの高さの時計塔が突き出ている。

 豪奢なホテルの屋上にビッグベンを置いたとしたら、このような外観となるだろう。


「このまま突っ込むぞ。ルブロイの居場所は適当に吐かせる!」


「オウ!」


 ハシュラム大時計台の玄関へと疾駆する。

 及び腰の見張り二名を通り掛かりに撫で斬ると、内側は吹き抜けのエントランスになっていた。


「ホテルっぽいな」


「てコトは、パレ・ハラドナ軍のヤツらは、ココを根城にシテそうだ」


「敵の本拠地ってことか。油断はするなよ」


「ワカッテる!」


 吹き抜けの中央に設置された赤絨毯の階段を上がる。

 すると、二階の廊下から四名の兵士が姿を現した。

 うち一名は、明らかに、一般兵とは異なる服装をしている。

 鎧は急所に絞り、身の丈ほどもある槍を右手に持っていた。

 歩き方にも無駄がなく、日々の鍛錬が体に染み付いていることが窺える。

 兵士の一人が、クロケーを見て叫んだ。


「──あ、亜人……ッ!」


 槍を持った男が恫喝する。


「……なんだと? 処理班はどうした。捕まえろ!」


 クロケーに目配せをし、頷く。

 瞬間、魔力銃《マナガン》が四度きらめいた。

 うち三名の眉間を見事に貫き、脳を致命的なまでに破壊する。


「一人避ケタ!」


 確信する。

 奇跡級の槍術士だ。


「──貴様あッ!」


 槍術士が、クロケーに向けて渾身の一撃を放とうと、いったん槍を引き絞る。

 ああ、下位だな。

 頭に血が上っているのか、こちらの動きに気を払ってもいない。

 そんなことを考えながら、俺は、槍術士の首を三分の二ほど寸断した。


「ンが、……はッ!?」


 鮮血を撒き散らしながら階段を転がり落ちていく槍術士を一瞥し、呟く。


「いきなり出てくると殺しちまうなあ……」


「ドコかの部屋でもノックしてミルか?」


「あ、それいいじゃん」


 ひとまず三階へと通ずる階段を無視し、左の廊下を進む。

 経験上、低層階のほうがグレードの低い部屋だろう。

 客室と思しき扉が並ぶ廊下で、適当な部屋を選んでノックをする。

 十秒ほどして扉が開いた。


「──なんだ、交代かァ?」


 薄刃の長剣を、出てきた男の首筋に添える。


「ヒッ!?」


 そして、怯んだ男を部屋の中へと蹴り飛ばした。


「が、……ッ!」


 いきなり転倒した男を心配してか、数名の兵士が奥から姿を現す。

 二人用の客室の中に十名ほどの兵士たちが詰め込まれており、深刻な部屋不足が窺えた。


「な、なな、なんだお前ら!?」


 最初に蹴り転がした男を跳び越え、奥にいた兵士たちを手早く斬殺する。

 息をするように燕双閃・自在の型を使用しているため、俺の一閃を回避することは基本的に不可能だ。

 これがゲームなら、クソバランスなんだろうな。

 燕双閃・自在の型は、ノーコストで放つことのできる不可避の必殺技だ。

 それを通常攻撃のように繰り出せるのだから、敵からすればたまらないだろう。

 俺は、全員に致命傷を与えたことを目視で確認すると、尻餅をついたままの男に尋ねた。


「ルブロイ司令官はどこだ?」


「えっ? ……え……?」


 まだ状況を理解できていないらしい。

 俺は、血塗れの長剣の切っ先を男の鼻先に突き出した。

 鼻の頭が僅かに斬れる。


「づあッ! あ、ああッ! 言います! い、言いますから、殺さないで……!」


「どこだ」


「と、時計塔の最上階に、い、い、いるハズですうッ!」


「亜人はこのホテルにいるか?」


「ち、地下に三百名ほど……」


「わかった」


 薄刃の長剣の刃を立て、男の首筋に真正面から突き刺す。

 長剣の先端が首を貫通するのが、つぷりとした感覚でわかった。


「ぐ、べ……!」


 血しぶきが舞うのを嫌って、敢えて頸動脈は傷つけなかった。

 そのうち呼吸困難で死ぬだろう。

 俺は、苦しみ悶える男を跨ぎ越えると、こちらの様子を窺っていたクロケーと合流する。


「上だ」


「手分ケして、亜人を解放スルか?」


「奇跡級はまだ一人しか始末できてないしな。処刑自体は廃棄場でしてるんだから、一分一秒を争う状況じゃねえよ。ルブロイを優先しよう」


「ナルほど……」


 クロケーが、納得したように頷く。

 スポンジのような吸収力だ。

 俺たちは、一般客室を後にすると、吹き抜けに向けてきびすを返した。

 行く手から、悲鳴と怒号、仲間を呼ぶ声などが響く。

 先程の死体が見つかったらしい。


「多ソウだな……」


「遠めの敵は頼んだ。俺は近距離のに対処する」


「アア!」


 クロケーが威勢良く返事をする。

 吹き抜けのあるホールへ飛び込むと、集まっていた数十名の兵士たちが一斉にこちらを見た。

 クロケーが亜人と見るや否や、即座に戦闘態勢へと入る。

 我先にとこちらへ向かってきた隙だらけの五人を、燕双閃・自在の型を使うまでもなく斬り伏せていく。


「お前ら、よくもお……ッ!」


 憎々しげに声を上げたのは、動きやすそうな鎧を身に纏った剣術士の女性だった。

 特徴的な恰好と立ち位置から考えて、階級が高いか実力が高いかのどちらかだろう。

 重量が自らの体重の三分の一ほどもありそうな大剣を肩に担ぎ、三階の踊り場からこちらへと飛び掛かる。

 そのまま俺の脳天に大剣を叩きつける気だったのだろう。

 一歩、横に避ける。

 大剣が、大理石でできた床にヒビを入れた。

 それだけだ。

 俺は、両手が痺れている様子の女剣術士の頸椎を薄刃の長剣で叩き斬った。


「づ、ゥあ……!」


 首を半ばほど落とされかけて、女剣術士が倒れ伏す。


「……級位、わからなかったな」


 恐らく師範級程度だとは思うのだが、軽率な奇跡級下位であった可能性も否めない。

 距離を詰めかねていた兵士を十名ほど仕留めたクロケーが、半ば呆れながら言う。


「……数える必要、ナクないか? 徒弟級も、師範級も、たいていの奇跡級も、カタナサンには一緒だろ」


「まあ、いちおうな」


 俺は問題なくとも、クロケーにはまだ早い相手もいる。

 治癒術士でもあるアーラーヤを連れて来ていない以上、可能な限り負傷は避けるべきだ。

 次々と現れる兵士たちを適当に処理しながら、そのまま階段を駆け上がり続ける。

 外から見た時計塔は、ホテル部分のちょうど中央にそびえ立っていた。

 それを示すように、十三階以降の階段は、時計塔の内周に張り巡らされた螺旋階段へと置き変わり、兵士の姿がほとんど見られなくなった。

 平時であれば、この時計台も、一般客に開放された観光名所だったのだろう。

 壁に〈あと八階〉や〈あと七階〉といった看板が設置されているのが過去を偲ばせる。

 そのまま最上階まで踏破しきると、大扉の前に二名の兵士が立っていた。


「きさ──」


 二の句も継がせないまま、流れるように兵士を斬殺する。


「門番がいるってことは、当たりだな」


「アア。首デモ刈り取って持ち歩ケバ、全員言うコト聞くだろ」


「……それが手っ取り早いか」


 多少の抵抗はあるが、既に百名以上の兵士を殺害している以上、ここで仁義や人道を問うべきではない。

 非道に対し、真摯な言葉で対抗できるのであれば、それが理想には違いない。

 だが、不可能だった。

 暴力には暴力で対処しなければならない場合もある。

 それが、今なのだ。


 傷つけたくなかった。

 殺したくはなかった。

 だからと言って、無視することはできなかった。


 これは、俺が俺の生き方を決めるために必要な寄り道だったのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。