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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部六章 亜人国家トレロ・マ・レボロ
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3/トレロ・マ・レボロ -7 自動車

 幾本かの道路と合流すると、すれ違う車両も多くなる。

 そこで、十台に一台の頻度で見られるのが、騎竜も馬も引いていない客車のみで走る車両──自動車だった。

 屋根だけがついた吹きさらしの小さな自動車が、時折すれ違い、あるいは騎竜車を追い抜いていく。


「や、ヤーエルヘル! あれはなんだ! 何故走っている!」


 興奮気味のヘレジナに、ヤーエルヘルが答える。


「わ、わかりません! あちしも初めて見ました……」


「あれは自動車だな。燃料でエンジンを回して動く、機械仕掛けの車だ」


「燃料、か。火の力で動かしているのだろうか」


「さすがに、原理を説明できるほど詳しくはないなあ……」


 トレロ・マ・レボロの技術水準は、恐らく、現代世界における十九世紀と同等だ。

 対して純人間が興した文明は、魔力《マナ》と魔術装置のおかげで十九世紀と同等の水準、またはトレロ・マ・レボロより優れた技術を誇る分野がある一方で、明確に苦手な部分が存在し、それがボトルネックとなっている。

 魔術文明と技術文明の違いが、なんとなく理解できてきた。


「──魔力《マナ》は便利だ。持ち運びする必要もなく出せて、休めばすぐに回復する。だから、サンストプラに普及してる魔術装置の多くは、半輝石《セル》に魔力《マナ》を溜めて動かす蓄魔型か、半輝石《セル》に魔力《マナ》を流し続ける直魔型、そのどちらかの形式を取る。だけど、魔力《マナ》にも、燃料にも、どうしたって一長一短はある」


「ふむ……」


 唐突な俺の講釈に、ヘレジナが無言のうちに先を促した。


「魔力《マナ》の利点は、さっきも言った通り、特別に何かを用意する必要がないこと。そして、休憩によって回復できることだ。欠点は、回復できる代わりに潜在魔力(マナ)量がある程度で頭打ちになること、だな。ヤーエルヘルみたいな潜在魔力(マナ)量を持つ人間はまずいないし、純輝石《アンセル》やドデカイ半輝石《セル》は単純に高価だ」


「た、たしかにそう、……かも」


「燃料の利点は、魔力《マナ》とちょうど逆だな。大量の燃料を用意し、それを扱える機械を作り出せば、魔力《マナ》ではまず不可能な大規模な作業が行える。欠点もそのまま、わざわざ燃料を用意する必要があることと、使えばなくなることだ」


「では、魔力《マナ》が主流の純人間の文明は、多くの魔力《マナ》が必要となる大規模な魔術装置を運用することが難しい以上、ここから先は成長しにくいんでしかね……」


「そうだな。でも、神代に魔術文明が存在したのは周知の事実だ。ブレイクスルーは可能なんだろうけど、トレロ・マ・レボロを見るに、技術による文明の成長のほうが早そうだな」


 このまま百年か二百年も放っておけば、スマホの一つも作り上げているかもしれない。

 レアメタルやレアアースなどの資源に恵まれていれば、だが。

 ヘレジナが、眉根をひそめて言った。


「しかし、本当に驚いた。魔術の進歩に比べて、技術の進歩は早すぎる。つい百年前まで、トレロ・マ・レボロでは火をつけるのも一苦労だと習ったぞ……」


「……実は、あちしもでし。あちしは、あちし自身がトレロ・マ・レボロにいた頃の記憶が曖昧なので、情報源はすべてナナさんなんでし。ナナさんは、あちしがまだトレロ・マ・レボロを出奔する前に訪れているはず。でしので、二、三十年前までは、本当に火をつけることすら困難だったのかもしれません」


 トレロ・マ・レボロで何らかの技術革命が起きたのは間違いないだろう。


「ヤーエルヘルには、外に出た記憶もないのか?」


「はい。だからと言って、おうちだったかどうかもよくわからなくて。壁の真っ白な屋内公園に一本だけ樹が生えていて、そこにブランコがありました。そこは、いつも手がかじかむくらい寒くて。それで、スグリ酒を飲んで体を温めていたのでし。その部屋からは出ることもできたのでしが、なんだか怖くて、すぐに戻った記憶がありまし」


「──…………」


 断片的な情報を組み合わせれば、何かが見えてくるかもしれない。

 そう考えていたのだが、謎は深まるばかりだった。

 だが、ある意味では当然なのだ。

 記憶の持ち主であるヤーエルヘル自身が頭脳明晰なのだから、俺たちが半端に情報を集めたところで答えを導き出せるわけがない。

 雑談を交わしながら道路を進んでいくと、やがて、屋根の色も家の壁もカラフルで映えるメルヘンチックな街並みが見えてきた。


「──お、着いたか?」


 客車内でクロケーに過酷な筋トレを課していたアーラーヤが、客車内から御者台を覗き込んだ。

 振り返ると、当のクロケーは、客車の床に突っ伏して死んでいる。

 イオタもあんな感じだったっけ。


「す、……すごい、ね! かわいい街……」


「トレロ・マ・レボロでは、冬場に雪が積もりましからね。雪はすべてを白く染めてしまうので、カラフルにしておかないと、自分の家すらわからなくなるときがあるそうでし」


「なるほど、なるほど。好みで色を塗っているのではなく、実用的な意味があるのだな。機能美というものであろう」


 俺は、アーラーヤを振り返った。


「アーラーヤは、一回このへん来てるんだよな」


「ああ。ここと、東にある街まで行って諦めた。どいつもこいつもろくに会話してくれねえんだもん」


「噂に違わぬ純人間嫌い、であるな。追い出されなかっただけましとしておけ」


「いきなり魔力銃《マナガン》で撃たれたバレボロよりゃ、そらマシだけどよ」


「そ、そこと、比較したらだめ……」


 それはそうだ。


「杭打てそうな場所もないし、預かり所探すか」


「預かってくれましかね……」


「わからん。わからんから、ヤーエルヘルとクロケーに交渉頼む」


「わかりました!」


「ウン……?」


 名前を呼ばれたクロケーが、うろんげに上体を起こす。


「預かり所の従業員と交渉してくれとよ」


「アア」


 クロケーが、納得したように頷く。


「オレたちと懇意の預かり所、案内スルか?」


「へえー、そんなとこあるのか」


「バレボロは、トレロ・マ・レボロと交易シテる。コノ騎竜車にはバレボロのマークが描いてアルし、純人間がいても問題ナク預けられるはずだ」


「よかったでし! クロケーさん、ありがとうございまし!」


 ヤーエルヘルのまっすぐな礼の言葉に、クロケーが照れたように目を逸らす。


「オ、オウ……」


 ヤーエルヘルって、実はモテるのだろうか。

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