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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部六章 亜人国家トレロ・マ・レボロ
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2/第八州バレボロ -7 クロケー

 俺たちの目的は、ハルヴァへと赴き、ヤーエルヘルのルーツを探ることだ。

 だが、パレ・ハラドナはプルとヘレジナの祖国でもある。

 それに、影の魔獣のことを考えるのであれば、もしものときに味方が多いことは明らかなメリットと言える。

 俺は、プルたちへと向き直った。

 彼女たちの意見も聞きたかった。


「どう思う?」


 ヘレジナが即答する。


「賛成だ。アーラーヤほどの使い手は、そうそうおらん。今の私たちの状況を鑑みるに、双方に利益のある提案であろう」


「う、……うん。わ、わたしも、そう思う……」


「……こんながき……」


 あ、ヤーエルヘルがまだ回復してない。

 アーラーヤが、呆れたように言った。


「なんだ、お前ら。まーたなんか巻き込まれてやがんのか」


「巻き込まれたっつーか、巻き込まれてたことにようやく気付いたっつーか……」


「手が欲しいってんなら、四本までなら貸してやるぜ。その代わり、こっちの仕事も手伝ってもらうけどな」


 もはや考えるまでもないだろう。


「……まさか、あんたと旅をすることになるなんてな」


「同じ言葉を返してやるよ。御前試合で殺し合ったときにゃ、とても想像つかなかったぜ」


 アーラーヤに右手を差し出す。

 俺の手を、アーラーヤが取ろうとして、


 ──バシッ!


 その手をクロケーが叩き落とした。


「いでッ!」


 大して痛くもなかろうに、アーラーヤが大袈裟に痛がってみせる。


「なーにしやがる、クロケーくんよ」


「……ソイツらのが、オレよりイイってのかよ!」


「そら、自分のケツ自分で拭けるって意味じゃあな」


 ヘレジナが、からかうように笑ってみせる。


「随分と惚れ込まれたものではないか」


「ッたく。弟子なんて取るつもりねーっての」


 アーラーヤが、困ったように肩をすくめた。


「──……オマエ」


 クロケーが、俺を指差す。


「俺?」


「オマエ、オレと戦え! オレが勝ったら、……オレの勝ちだ!」


「なに言ってんだお前」


 アーラーヤの冷静なツッコミに軽く赤面しつつ、クロケーが言い直す。


「オレが勝ったら、オレもついてく!」


「ええ……」


 思わずベアハウルへと視線を向ける。


「……一度決めたら譲らないんだの。うちの子は」


「悪い、カタナ。付き合ってやってくれや」


「まあ、いいけど」


 溜め息一つ、立ち上がる。


「場所は、さっきの広場でいいか。勝敗の条件はどうする?」


「そうだな」


 軽く思案し、アーラーヤが提案する。


「カタナにかすり傷一つでも負わせたら、クロケーの勝ち。その前にクロケーの体力が尽きたら、クロケーの負けだ。それでいいか?」


 クロケーが、目を丸くする。


「そ、ソンナんでイイのか……?」


 クロケーが、俺を見る。


「まあ、いいんじゃね。知らんけど」


「ヨォ──しッ!」


 クロケーが、意気軒昂と屋敷を出て行く。

 ヘレジナが半眼でアーラーヤに言った。


「……意地が悪いな、アーラーヤ。勝ちの目があるようにしてやってもよかろうに」


「連れて行く気ゼロなのよ、こっち」


 ベアハウルが尋ねる。


「カタナくんは、そんなに強いのかの?」


「ああ。条件次第じゃ俺より強い」


「奇跡級上位、か。そんなにホイホイ集まるものだとは思っていなかったのう……」


「奇跡級上位が三人も集まってんのは、北方大陸広しと言えど、ここだけだと思うぜ」


「三人、とな?」


 ベアハウルの疑問に、ヘレジナが答える。


「ふふん。私も奇跡級上位の剣術士なのだ。しかも、この二人より強い!」


「なんと!」


「これがマジだから困るんだよなあ……」


 アーラーヤが、後頭部を掻きながら苦笑する。


「武器は、……いいか。べつに」


「俺の短剣でも使うか?」


「いや。クロケーには悪いけど、実力差を見せたほうがいいだろ。アーラーヤの事情だけならともかく、俺たちの事情には巻き込めない」


「そ、……うだね。危ない、かも……」


「その話、あとでじっくり聞かせてもらうぜ。なにせ、俺もこれから当事者だ」


「はい、もちろんでし。あちしたちが何を恐れてるのかも、ぜんぶ」


 軽くストレッチをしながら、ベアハウルに告げる。


「アーラーヤも、プルも、奇跡級の治癒術士です。元より大怪我を負わせるつもりはないですけど、かすり傷くらいは見逃してもらえたら」


「なあに、怪我は男の勲章だの」


「あざっす」


 俺たちは、アーラーヤとベアハウルを伴い、屋敷の扉を抜けた。

 眼前の広場の中央で、木剣を手にしたクロケーがこちらを睨みつける。


「コイよ。カタナ。かすり傷じゃ済まなくシテやる」


「お手柔らかに頼むわ」


「サ、腰の剣抜けよ」


「ああ。今回はいいよ」


「……ドウいう意味だ」


 俺は、敢えて偽悪的に振る舞うことに決めた。

 いっそ、しばらく立ち直れないほどベッコリ凹んだほうが、クロケーの身の安全は保障されるだろう。


「お前程度の実力なら、武器を抜くのも面倒くさいってことだよ」


「──…………」


 クロケーが一瞬フリーズし、すぐに牙を剥き出しにして怒りの表情を浮かべた。


「……後悔スンなよ」


 クロケーが、構える。

 木剣を右手だけで握る、特徴的な構えだ。

 さて、どう来るか。

 クロケーが、その構えから一歩だけ後じさる。

 わかりやすい予備動作だ。


 来る。


 予測通り、クロケーが、圧倒的な速度でこちらへと跳躍する。

 ほとんど地面すれすれを、放物線の軌道を意識させることなく跳んだのだ。

 当然、その速度は、人間の限界を遥かに超越したものとなる。

 もしかすると、クロケーは、自分が思いきり投げたボールに後から追いつけるのかもしれなかった。

 速度だけで言うならば、アーラーヤを超えている。


 さて、どうするか。

 明らかな予備動作があったため、俺は、クロケーがこちらへ跳躍するより前に避けていた。

 いったんは様子見だ。

 クロケーが俺の真横を通り過ぎるのを確認したあと、俺は振り返った。

 地面に二本の線が長々と引かれ、クロケーがようやく止まる。


「避けるな!」


「じゃ、次は避けない」


「……言ッテろ!」


 今の一撃で確信する。

 クロケーは、やはり、自分の肉体の動きを理解できていない。

 そして、その問題点に対し、なんの対応策も取れていない。


 たとえば、俺には神眼がある。

 神眼によって動体視力を向上させることで、自分の動作を完全に律することができている。


 アーラーヤには型がある。

 動体視力に劣る彼は、自らの欠点を克服するのではなく、完全に切り捨て、体に叩き込んだ型を目にも留まらぬ速度で放つ道を選んだ。


 ヘレジナには、理がある。

 かつては自分の動きに意識が追いついていなかった彼女だが、動体視力を向上させるのではなく、二手、三手と相手の行動を高精度で予測し、理で以て刃を振るうという戦い方をジグに叩き込まれた。


 とは言え、これは奇跡級上位の話だ。

 直線的な速度だけであればアーラーヤを超えるクロケーだが、それではイノシシと変わらない。

 強さだけで言えば師範級下位相当だが、それは亜人の身体能力と体操術の掛け合わせありきだ。

 さすがに教室を開く実力はないだろう。


 クロケーが、再び右手を振りかぶりながら、こちらへと直進する。

 この一撃もまた、予備動作の時点で回避している。

 俺は、神速ですれ違うクロケーの爪先に、綺麗に足を引っ掛けた。


「だ」


 クロケーが、空中に放り出される。


「ワああああああ──ッ!?」


 ごろんごろんと縦に十数回も転がったあと、近所の家の玄関扉を足でノックしてようやく止まる。


「な、なな、なんだ!?」


 出てきた家主に慌てて謝る。


「──すんませーん! なんでもないんで!」


「──…………」


 軽く目を回していたらしいクロケーが、家主に一礼し、再びこちらへ振り返った。

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