2/エン・ミウラ島 -10 無銘の双剣
「──弁解はあるか」
北の入り江から大きく離れた森の中で、俺たちは正座したナナイロを囲んでいた。
「う。だ、だって、ジナ姉の武器が……」
「武器は、みんなを守るためにあるものでし。その武器を拾うために命を危険に晒すのは、本末転倒だと思いませんか?」
「……思います」
「お願いです、から」
ヤーエルヘルがナナイロを抱き締める。
「……二度としないでくだし」
「──…………」
ナナイロの表情に、後悔が滲み出る。
「ごめんなさい……」
「け、……怪我、なかった……?」
「おれは大丈夫だけど、カタナ兄が……」
「!」
プルが、目をまるくする。
「か、かたな! 傷、どこ……!」
「ああ、背中だ。大丈夫、軽傷だから」
「す、すこしは痛がって!」
プルが、俺の背中に触れる。
かすかに痛みが走った。
「すぐに、な、治す……」
柔らかな熱と共に、ピリピリとした痺れが走る。
だが、それも数秒のことだ。
「は、はい。……おしまい」
「……ありがとうな」
プルの治癒術を受けるたび、思う。
彼女がいなければ、俺たちは、とっくの昔に全滅していただろう。
そのくらい、奇跡級の治癒術の存在は破格だった。
「……ジナ姉、これ」
ナナイロが立ち上がり、ヘレジナに双剣の片割れを差し出す。
「反省したな」
「うん」
「二度としないと約束できるな」
「約束、する」
「ならば──」
ヘレジナが、ナナイロの頭を帽子の上から撫でた。
「ありがとう、ナナイロ。これは私の大切なものだ」
受け取った双剣を、愛おしげに見つめる。
「無銘の双剣。手入れをせずとも常に切れ味を保つ、ただそれだけの魔術具だ。いちおう神代の品ではあるらしいが、効果が地味故、さしたる価値もない」
ナナイロが頷く。
「そうだったんだ」
「だが、それ以上に、この剣は今や、私が師匠から受け継ぐことのできた唯一の品なのだ。銀琴は既に失ってしまったからな」
「──…………」
ヤーエルヘルが半眼で呟く。
「取りに行ってよかった、なんて思ったらダメでしよ」
「う」
「もう一度やったら、パタネアさんのところへ強制連行しまし。魔獣除けは我慢してくだし」
「し、しないぞ! ほんとに!」
苦笑する。
「わかった。信じるぞ、ナナイロ」
口ではそう言ったが、注意は払っておかねばなるまい。
どうにも危なっかしい子だ。
「──さて、これからどうすっか」
「皆、すまない。最善の選択をしたつもりだったが、最悪の結果になってしまった」
ヘレジナが深々と頭を下げる。
「現状、あの数の魔獣と黒ずくめに対抗する手段はない。分断して引きつけようにも、彼奴らは追ってもこなかった。頭の切れる連中だ」
実を言うと、俺とヘレジナの二人だけであれば対処はできる。
ヘレジナがそれを口にしないのは、三人の気持ちを慮ってのことだろう。
「黒ずくめたちは、しばらく厳戒態勢に入る。ナナイロの言う通り、じっと待てばよかったのだ」
「いや、俺の考えも浅かった。と言うか、魔獣の数が思った以上だった。あれだけ派手に戦えば、黒ずくめが気付くのも当然だ」
頭を下げる俺たちに、ヤーエルヘルが言う。
「それは結果論でしよ。謝るより、今は作戦を練り直しましょう」
「……そうだな」
ヤーエルヘルの言う通りだった。
「一つ、わかったことがありまし」
「わ、わかった、……こと?」
「黒ずくめが現れたタイミングがよすぎまし。これは恐らく、カタナさんの言う通り、魔獣に動きがあったから様子を見に来たと考えるべきでし」
「で、……でも、入り江のどこかから出入りした様子、な、なかった、……よね?」
「ええ。少なくとも、砂浜から見える場所ではないはずです。私たちの目は、そこまで節穴ではない」
「それを踏まえて考えると、洞窟の入り口は、入り江に近く、しかし入り江からは見えない場所──となりまし」
「てことは、海側からしか入れない場所か。下手すりゃ海中って可能性すらあるな……」
「海中!?」
ナナイロが目を剥く。
「そんなん、どーしようもないじゃん!」
「さ、さすがに、道があると思いたい、……ね」
「一度、パタネアに話を聞きに戻ろうぜ。今までの行動も無駄じゃあなかったはずだ。これだけ条件が絞れれば、島民ならピンと来るものもあるだろ」
「でしね」
「ああ」
「りょーかい!」
「──…………」
神眼を発動する。
周囲の気配を探るが、森の中では動くものがあまりに多すぎる。
葉擦れの音と衣擦れの音が区別できるほどには、俺は索敵に長けてはいなかった。
神眼を解き、皆の顔を見た。
「いちおう、大回りして帰ろう。尾行されてたら最悪だ」
「そうだな。わざわざ隠れ場所を教える愚は犯せまい」
ナナイロが、自分の胸をどんと叩いてみせた。
「わかった! じゃあ、ぐるっと遠回りするぞ!」
「お願いしましね、ナナさん」
「うん!」
俺たちは、ナナイロの先導で島を大回りしながら、村落を目指すこととなった。




