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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部五章 海洋国アーウェン
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2/エン・ミウラ島 -10 無銘の双剣

「──弁解はあるか」


 北の入り江から大きく離れた森の中で、俺たちは正座したナナイロを囲んでいた。


「う。だ、だって、ジナ姉の武器が……」


「武器は、みんなを守るためにあるものでし。その武器を拾うために命を危険に晒すのは、本末転倒だと思いませんか?」


「……思います」


「お願いです、から」


 ヤーエルヘルがナナイロを抱き締める。


「……二度としないでくだし」


「──…………」


 ナナイロの表情に、後悔が滲み出る。


「ごめんなさい……」


「け、……怪我、なかった……?」


「おれは大丈夫だけど、カタナ兄が……」


「!」


 プルが、目をまるくする。


「か、かたな! 傷、どこ……!」


「ああ、背中だ。大丈夫、軽傷だから」


「す、すこしは痛がって!」


 プルが、俺の背中に触れる。

 かすかに痛みが走った。


「すぐに、な、治す……」


 柔らかな熱と共に、ピリピリとした痺れが走る。

 だが、それも数秒のことだ。


「は、はい。……おしまい」


「……ありがとうな」


 プルの治癒術を受けるたび、思う。

 彼女がいなければ、俺たちは、とっくの昔に全滅していただろう。

 そのくらい、奇跡級の治癒術の存在は破格だった。


「……ジナ姉、これ」


 ナナイロが立ち上がり、ヘレジナに双剣の片割れを差し出す。


「反省したな」


「うん」


「二度としないと約束できるな」


「約束、する」


「ならば──」


 ヘレジナが、ナナイロの頭を帽子の上から撫でた。


「ありがとう、ナナイロ。これは私の大切なものだ」


 受け取った双剣を、愛おしげに見つめる。


「無銘の双剣。手入れをせずとも常に切れ味を保つ、ただそれだけの魔術具だ。いちおう神代の品ではあるらしいが、効果が地味故、さしたる価値もない」


 ナナイロが頷く。


「そうだったんだ」


「だが、それ以上に、この剣は今や、私が師匠から受け継ぐことのできた唯一の品なのだ。銀琴は既に失ってしまったからな」


「──…………」


 ヤーエルヘルが半眼で呟く。


「取りに行ってよかった、なんて思ったらダメでしよ」


「う」


「もう一度やったら、パタネアさんのところへ強制連行しまし。魔獣除けは我慢してくだし」


「し、しないぞ! ほんとに!」


 苦笑する。


「わかった。信じるぞ、ナナイロ」


 口ではそう言ったが、注意は払っておかねばなるまい。

 どうにも危なっかしい子だ。


「──さて、これからどうすっか」


「皆、すまない。最善の選択をしたつもりだったが、最悪の結果になってしまった」


 ヘレジナが深々と頭を下げる。


「現状、あの数の魔獣と黒ずくめに対抗する手段はない。分断して引きつけようにも、彼奴らは追ってもこなかった。頭の切れる連中だ」


 実を言うと、俺とヘレジナの二人だけであれば対処はできる。

 ヘレジナがそれを口にしないのは、三人の気持ちを慮ってのことだろう。


「黒ずくめたちは、しばらく厳戒態勢に入る。ナナイロの言う通り、じっと待てばよかったのだ」


「いや、俺の考えも浅かった。と言うか、魔獣の数が思った以上だった。あれだけ派手に戦えば、黒ずくめが気付くのも当然だ」


 頭を下げる俺たちに、ヤーエルヘルが言う。


「それは結果論でしよ。謝るより、今は作戦を練り直しましょう」


「……そうだな」


 ヤーエルヘルの言う通りだった。


「一つ、わかったことがありまし」


「わ、わかった、……こと?」


「黒ずくめが現れたタイミングがよすぎまし。これは恐らく、カタナさんの言う通り、魔獣に動きがあったから様子を見に来たと考えるべきでし」


「で、……でも、入り江のどこかから出入りした様子、な、なかった、……よね?」


「ええ。少なくとも、砂浜から見える場所ではないはずです。私たちの目は、そこまで節穴ではない」


「それを踏まえて考えると、洞窟の入り口は、入り江に近く、しかし入り江からは見えない場所──となりまし」


「てことは、海側からしか入れない場所か。下手すりゃ海中って可能性すらあるな……」


「海中!?」


 ナナイロが目を剥く。


「そんなん、どーしようもないじゃん!」


「さ、さすがに、道があると思いたい、……ね」


「一度、パタネアに話を聞きに戻ろうぜ。今までの行動も無駄じゃあなかったはずだ。これだけ条件が絞れれば、島民ならピンと来るものもあるだろ」


「でしね」


「ああ」


「りょーかい!」


「──…………」


 神眼を発動する。

 周囲の気配を探るが、森の中では動くものがあまりに多すぎる。

 葉擦れの音と衣擦れの音が区別できるほどには、俺は索敵に長けてはいなかった。

 神眼を解き、皆の顔を見た。


「いちおう、大回りして帰ろう。尾行されてたら最悪だ」


「そうだな。わざわざ隠れ場所を教える愚は犯せまい」


 ナナイロが、自分の胸をどんと叩いてみせた。


「わかった! じゃあ、ぐるっと遠回りするぞ!」


「お願いしましね、ナナさん」


「うん!」


 俺たちは、ナナイロの先導で島を大回りしながら、村落を目指すこととなった。

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