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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
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2/魔術大学校 -26 参観会前日

「──だあッ!」


 イオタが木剣を右袈裟に振り下ろす。

 型とは本来、何年もかけて身につけるものだ。

 僅かな期間で急激に上達することはない。

 故に、イオタの剣捌きは、修練を始めた頃と大差なかった。

 だが、自分の攻撃に対し相手が反射的にどう動くか、その予測精度は確実に上がっていた。


 現在、イオタが組み上げられるのは、三手まで。

 一度目の予測が外れれば、その後の攻撃は隙だらけとなる。

 故に、一撃目は〈誘い〉の要素が強かった。

 わかりやすい一撃を放ち、わかりやすく対応させる。

 本命は、二撃目、三撃目だ。


 大きく背後に跳び退った俺を追うように、イオタが追撃の左薙ぎを放つ。

 さらに、一歩距離を取る。

 重心がぶれ、体勢が崩れる。

 それがイオタの狙いだった。


「はッ!」


 自らの矮躯を活かした低い一撃が、俺の向こうずねへと襲い掛かる。

 そうだな。

 せっかくの良い一撃だ、もらっておこう。

 俺は、そのまま回避行動を取らずに、イオタの木剣をすねで受け止めた。

 激痛が走る。

 イオタの顔が、驚きに歪んだ。


「──えっ」


「よくできました」


「カタナさん、え、どうして……?」


 イオタが木剣を取り落とす。


「良い一撃だったからな。食らっといた」


「い、痛くないんですか!」


「痛いぞ。すげー痛い。脛に木剣で一撃食らって痛くないわけないだろ」


「──…………」


 イオタの表情に、怒りが混じっていく。


「なんで、避けなかったんですか。カタナさんなら避けられたでしょう!」


「俺の動きは徒弟級上位を想定してる。徒弟級上位であれば、今の攻撃を避けることはできなかった」


「そういうことじゃなくて……!」


 イオタが、右手で髪の毛を掻きむしる。


「……どうして、そこまでするんですか。してくれるんですか」


「ははっ」


 懐かしいな。


「それ、俺も聞いた。俺の師匠せんせいに聞いたよ。あの人、俺に右腕まで斬り飛ばされたんだぜ。それに比べたら平気平気」


「それは、比較対象がおかしいのであって……」


「──…………」


 俺は、イオタの目を見つめた。


「簡単なことだ、イオタ。俺は、俺がしてもらったことを、しているだけだ」


「してもらった、こと……」


「俺が、師匠せんせいにしてもらったこと。将来、お前に弟子ができたとしたら、きっと同じことをする。そのとき、ようやくわかるんだろうな。今の俺の気持ちがさ」


 イオタが、やるせないような、複雑な表情を浮かべる。


「……治癒術、使います。言っておきますけど、まだ徒弟級第四位ですから。時間かかりますからね」


「ああ、頼むわ。ちょっと脂汗出てきた」


「ほんと、無茶する……」


 イオタが俺の前に膝をつき、両手を向こうずねにかざす。

 かすかな光が、患部を温かく包み込んだ。


「イオタ。今のお前は、徒弟級下位と中位の境目にいる。元は徒弟級未満。体操術を禁じた状態で、徒弟級下位だった」


「……強く、なってますか?」


「ああ、なってる。派手な成長じゃない。だが、速度としては申し分ない。よって、体操術の使用を限定的に認めよう」


 イオタが目を見開く。


「使っていいんですか?」


「限定的に、だ。今のお前は、三手までの決め打ちしかできない。一撃目の予測が外れれば、二撃目は隙になる。二撃目の予測が外れれば、三撃目は隙になる。だが、予測を外したとしても、直後の攻撃は止められない」


「はい」


「体操術の使用条件は、必ず決められると確信した連撃の、三手目。それのみだ」


「三手目……」


「何故体操術を禁じたか、覚えてるか?」


「テオ剛剣流の型と、体操術。同時に操ることが、ぼくにはできないから──ですよね」


「ああ。イオタの技術レベルだと、連撃になれば、もう型は関係ない。そもそも、テオ剛剣流自体に連撃の概念が薄いからな。どう足掻いたところで、二撃目、三撃目は、力任せに木剣を振り回すだけになる。なら、体操術を使ってもデメリットは薄いはずだ」


「なるほど……」


 俺は、右足を軽く動かした。


「──よし、もう痛くない」


「よかった」


「次は、三手目を体操術を使って放つ練習だ。明日までに仕上げるぞ」


「はい!」


 参観会は、明日に迫っていた。

 俺たちが全優科を離れる日だ。

 明日の午後、武術大会が開催される。

 イオタの自信に繋がる結果を、なんとしてでも引き寄せよう。


 それが、残された時間で唯一、俺がイオタのために残せるものだと思うからだ。

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