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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
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2/魔術大学校 -27 二年白組の出し物は

「えー、であるからして、ウージスパイン魔術大学校全優科の生徒として恥じない──」


 全優科の全生徒が収容できる広大なホールで、魔術大学校の校長が長話を続けている。

 どこの世界の校長も、変わらず話は長いらしい。


「──……あふ」


 隣席のドズマがあくびを噛み殺す。


「朝っぱらからやる気削いでくんなよなァ。こっちゃ仕込みしたいんだっつーの……」


 腕組みをし、深々と頷く。


「わかる」


「まあまあ、儀式みたいなものですし……」


 イオタの言葉に、ドズマが眠そうに答えた。


「そこで思考停止してンなよー。改革を求めるぜ、オレは」


「ドズマが次代の校長を担うって?」


「あー、それも悪くないかもな。オレの成績なら、わりとどこでも行けるし」


 忘れがちだが、ドズマは高等部二年で五指に入る優等生である。


「ドズマさん、面倒見もいいですしね」


「リーダーシップも取れるし、どこも欲しがる人材だわな」


「お、なんだなんだ。褒めても何も出ねーぞ」


「褒めたら当代の校長の長話もなんとかなりません?」


「自分の無力さを呪うぜ、オレはよー」


 などとくだらない会話を交わすうちに、気付けば参観会開会式は終わりを迎えていた。

 ホールを出たあと、人の流れに沿って、高等部の母屋へと向かう。


「十二時の門が開放されるのは、十二時ぴったりか。合わせてんのかな」


 十二時の門とは、全優科の生徒専用の玄関口だ。

 一年に一度、参観会の日にのみ、ネウロパニエ市民に開放される。


「お客さんが入ってくると、他のクラスの見学どころではなくなりますからね。午前中のうちに、見たいところは見ておきましょう」


「あー、それなんだけどよ」


 ドズマが、こちらを振り返りながら後ろ向きに歩く。


「カタナ。イオタ。お前ら、今日の当番なしでいいぞ」


「えっ」


「考えてもみろ。カタナが当番になったって、なーんもできねーだろ。銀組焼きの発案者で、事前準備にずっと関わってきた。だから、当日くらいは遊ばせてやろうってな。お前らのいないところで決まったんだよ」


 イオタが自分を指差す。


「あれ、ぼくは……?」


「お前はついでだ」


「悲しい」


「冗談だ、冗談」


 からからと笑い、言葉を継ぐ。


「英気を養って、武術大会頑張れとさ」


「……!」


「さすがにオレまで離れらんねーんでな。会場で合流するわ。武術大会、二時だろ?」


「ああ。付き合ってくれてありがとうな」


「いいってことよ。カタナにゃあしらわれたが、これでも学生レベルではそこそこなんだぞ」


「そのうち、ドズマさんも越えないとな……」


「はッは、在学中に越してみろや!」


「やってみせますよ!」


 イオタとドズマが、拳をぶつけ合う。


「つーことで、教室でミーティングしたらお前らは自由行動だ。シオニアんとこでも、三人娘のクラスを冷やかすんでも、好きにしろ」


「わかった。クラスの皆にお礼言っとかないとな」


「ですね……」


 クラスメイトたちの気遣いが嬉しかった。


 銀組の教室で、最後のミーティングを行う。

 材料が切れた際、あらかじめ話を通してある近所の食料品店へ向かう旨など、トラブルへの対応を綿密に確認したのち、俺たちは廊下へ続く扉を開いた。


「──あ、もうやってるかな?」


 そこには、既に、数名の生徒たちが並んでいた。


「今、ちょうど開けるところです。お好きな席へどうぞ」


「ありがとう。食べ物を出すって聞いて、楽しみにしてたんだ」


 噂になっていたらしい。

 発信源はシオニアではなく、銀組焼きの揚がる良い匂いだろう。

 どうやら、その匂い自体が、絶妙な宣伝となっていたようだ。


「美味しいんで、期待しててくださいよ」


「舌火傷には気を付けてくれ、マジで」


 俺たちは、記念すべき最初の客にそう告げて、銀組の教室を後にした。

 生徒の行き交う廊下で、イオタに尋ねる。


「さッて、どこから行く?」


「近場から攻めましょうか」


「つーことは、二年白組だな」


 シオニアのクラスだ。

 思えば、こちらから白組へ向かったことは、二、三度しかなかった。

 男子も女子もご気軽な、仲良しクラスといった印象だ。


「なーにやってんのかな。正直、ぜんぜん想像つかねえ」


「何をやってるかはわからないけど、何をしてても驚かない自信はあります」


「イオタ君、それ言って驚かなかったことないからなー」


「ルインラインの件は仕方ないでしょ!」


「ははは」


 白組は近い。

 話している間に、すぐに着く。


「──あ、カタナさーん! イオタくーん!」


 白組の前で受付をしていたシオニアが、立ち上がって両手をぶんぶん振った。


「真っ先に来てくれたんだね!」


「近いからな!」


「普通に気にもなってましたし……」


「じゃ、二人が最初のお客さんだ。入ってく? 入ってく?」


「当然!」


「白組の出し物って、結局なんなんですか?」


「ま、ま、とにかく扉開けてみてよ」


「オーケー」


 白組の教室へと繋がる扉を、がらりと開く。

 そこにあったのは──


「……階段?」


 木造の、上り階段だった。


「え、どういうこと……?」


 理解が追いつかない。


「ふふーん。ヒント欲しい?」


「欲しい」


「ヒントは、これ!」


 シオニアが、教室の中から立て看板を取り出す。


「イオタ、なんて書いてあるんだ?」


「大迷宮──って、答えじゃないですか!」


「答えでした」


「と言うか、看板立てるの忘れてたんでしょ!」


「思い出したからいいの!」


 二人のやり取りを横目に、教室を覗き込む。


「これ、もしかして、上下二層になってる?」


「うん、なってる! 二年白組の出し物は、二層立体大迷宮なのだ!」


「すッげ……!」


 思わず感嘆の声が漏れた。

 天井が高いからこそできる荒技だ。


「もちろん耐久性は確認してるから、安心してね!」


「カタナさん、入りましょう! めちゃくちゃ楽しそう……」


「おう!」


「二名様、ごあんなーい!」


 イオタと共に、二層立体大迷宮へと足を踏み入れる。

 最初の階段を上がり、現れたるは丁字路だ。

 まっすぐ行けば上層を進み、右に曲がれば下層へ降りる。


「ここは降りてみましょう。ぼくが設計するなら、正規ルートは上下移動を多めにしますから」


「おお……」


 イオタが頼もしい。

 俺たちは、大迷宮を躊躇なく突き進んでいく。

 時に上がり、時に下り、時に曲がり、時に謎を解いてギミックを作動させていく。

 しかし、しばらくして行き詰まってしまった。


「……どっかでギミック見逃したか? どんでん返しとか」


「ノーヒントでそれされたら、ちょっと難易度高すぎますよ……」


「確かに」


 同じ道を行きつ戻りつ、数分した頃だった。


「あっ」


 俺は、見つけた。

 行き止まりだと思っていた通路の突き当たりに、細い通路が隠されていたのだ。

 多くの人は、〈どうせ行き止まりだから〉と、奥まで見ずに別の通路の探索を優先してしまう。

 人間心理を巧みに突いた仕掛けだった。


「はー……」


「やっと、出てこれましたね……」


 十五分かけてようやく外へ出ると、シオニアが出迎えてくれた。


「おかえり! 遅かったね、どうだった?」


「いやー、やられたやられた。最後のルート考えたやつ、頭いいな。性格は悪いけど」


「心理的盲点って、あのことを言うんですね」


「でしょでしょ! すごいよね! 本人に伝えておきまーす!」


「……性格悪い、の部分は伝えなくていいからな?」


「ありのままのカタナさん、ぶつけていきなよ!」


「意味はわからないのに、何故か心が揺らぐ……」


「シオニアマジックですね」


 姿勢を戻すように伸びをして、告げる。


「とにかく、すげえ楽しかったわ。銀組焼きも負けてないと思うけど、ちょっと度肝抜かれたな」


「えへへー」


「じゃ、俺たちは行こうかな」


「えー!」


 シオニアが口を尖らせる。


「プルちゃんたちんとこ行くんでしょ! アタシも行きたい! お願い権発動!」


「シフトは?」


「十時くらいまで、かな」


 腕時計を確認する。


「あと三十分少々か。イオタ、どうする?」


「なら、高等部の他のクラスを冷やかしてきましょうか。ライバルの視察です」


「だな」


「やったー! 二人とも、愛してるう! ちゅ!」


 シオニアが投げキッスを飛ばす。


「はいはい」


「はいはい」


「どうして流すのさ!」


「んじゃ、三十分くらいで戻ってくるわ」


「はーい!」

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