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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部四章 ウージスパイン魔術大学校
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2/魔術大学校 -25 銀組焼き

 二年銀組の教室が飾り付けられていく。

 厨房は、大工術によって仕切りが設えられており、客席からは見えない。

 各人の机には手作りのランチョンマットが敷かれ、それが存外味になっていた。


 最終的に残った銀組焼きのフレーバーは、三種。

 ソース&マヨネーズの、オリジナル。

 胡椒を混ぜたサワークリームにディップする、サワーテイスト。

 はちみつを練り込んだ生地にお好みのジャムをかける、スイート。

 ただの揚げタコ焼きが、随分とおしゃれになったものだ。


 銀組のクラスメイトは、ほぼ全員が銀組焼きの調理法をマスターしている。

 作れないのは、魔術の使えない俺と、あれから姿を見せないエイザンだけだった。


「よーし、なんとか明後日にゃ間に合いそうだな」

 指揮を執っていたドズマが、ほっと息をついて椅子に腰掛けた。

 銀組のクラスメイトたちからも安堵の声が漏れる。


「フレーバーの選定に思ったより時間が掛かりましたからね。装飾も、納得の行くものにできそうで、よかった」


 イオタの言葉に苦笑する。


「一昨日なんて、試食のし過ぎで昼食も夕食も入らなかったからな。一気に食うと、どれが美味いんだか不味いんだか」


「正直、最初の一個目がいちばんうめーんだよな。腹がくちくなってくると、オリジナルでもきついわ」


「なんとか三種に絞れてよかったです、ほんと……」


 選定する前は、なんと十一種類もあったのだ。

 一種一つずつだとしても、最低十一個は食べなければ評価ができない。

 途中からは、正直苦行だった。


「私、ちょっと太ったかも……」


「一日二日食べ過ぎたくらいで変わんないって」


 クラスメイトたちが、わいわいと盛り上がる。


「でも、おかげでクオリティは確保できただろ。俺の地元で店開いても生き残れるぜ、これは」


「はーい、サワークリームはあたしの発案でーす!」


「ナイスアイディーア!」


「いえー!」


 クラスメイトとハイタッチを交わす。

 楽しい。


「……最優等クラスに、なれますかね」


 ドズマが、太い腕をイオタの肩に回す。


「そんなもん、やってみなけりゃわかんねー。わかんねーから、精一杯頑張るんだろ」


「ドズマの言う通りだ。他のクラスだって、俺たちと同じくらい頑張ってる。だからこそ競い合うのが楽しいんだろ。いいなあ、この感じ。青春ってやつじゃね?」


「あはは! おっさんくさいですよ、カタナさん」


「お前、師匠に向かってなー」


 言いつつ、からからと笑う。


「しかし──」


 俺は、廊下へ続く扉へと視線を向けた。


「今日も、スパイがいるな」


「──…………」


 ドズマが扉を開け放つ。


「──わっ!」


 隠れて扉に耳を当てていたシオニアが、バランスを崩して尻餅をついた。


「ドズマ、ひどーい! ひドズマ!」


「自業自得だろーが」


 イオタが、シオニアに手を差し伸べる。


「シオニアさん、スパイ活動はよくないですよ。禁止はされてないですけど」


「スパイじゃないもん!」


 手を引いて起こしてもらいながら、シオニアが口を尖らせた。


「んじゃ、何してたんだよ」


「気になったの!」


「スパイじゃねーか」


「情報流してないもん!」


「そりゃま、偉いけど……」


「だって、いい匂いがしたんだもん! 食べ物出すんでしょ? すっごい斬新!」


 少々くすぐったい。

 うちの高校の学園祭では、模擬店はさほど珍しくもなかったし。


「ねーねー何出すの? 何出すの? 食べさせて!」


「駄目です。当日お越しください」


「イオタ君冷たい! あんなに優しかった君はどこへ行ったの?」


「勝負は非情なんです」


「ね、ね、カタナさん! お願い権発動!」


「……あー」


 困った。


「俺個人のことならたいていは聞いてやるけど、今回はクラス全体のことだからな」


 そう言って、周囲を見渡す。


「いいんじゃない? お客さんの反応、見てみたかったし」


「シオニア、絶対言うなよ! 絶対!」


「言ったら、ウドウさんのお願い権全部剥奪するぞー」


 クラスメイトたちは、案外鷹揚だった。

 誰かに食べさせて、感想を聞いてみたかったのかもしれない。


「うん、言わない!」


 シオニアのこの言葉は、今となっては信頼が置ける。


「よかったな、シオニア。今のはお願い権の消費ナシでいいぞ」


「わーい!」


「厨房! 三種二個ずつ用意頼む!」


「はいよー!」


 たまたま厨房にいた生徒が、手際よく銀組焼きを作り上げていく。

 油の揚がる心地良い音と共に、芳しい香りが漂い始めた。


「わ、既においしそう!」


「期待してていいぜ」


「期待しちゃうー!」


 しばしして、三種二個の銀組焼きがシオニアの前に並べられる。


「えー、何これ何これ! まるい! 初めて見る!」


「俺の地元の料理をアレンジしたんだよ」


 皿を、一つずつ紹介していく。


「左端が、オリジナル。まんま再現したものだな。真ん中はサワークリーム。好きなだけつけて食べてくれ。右は、スイート。生地を甘めにしてあるから、好みのジャムをかけてどうぞ。中身、すげー熱いから、舌火傷に気を付けてくれよ。イオタなんて最初、吹き出しそうになってたんだから」


「あ、言わないでくださいよ!」


「治癒術得意なやつ、交代で常駐させようかと思ってんだよ。それくらい熱い」


「き、気を付けますー……」


 シオニアが、操術で、銀組焼きのオリジナルを口へと運ぶ。

 そっと歯を入れると、


 サクッ。


「!」


 歯触りの良い音が、小さく響いた。


「──おいしい! なんだこれー!」


 シオニアの反応に、クラスメイトたちの緊張が解ける。


「すっごい! これ、カタナさんの地元の味なんだ! すごい!」


「お気に召しましたか、お嬢さま」


「召しました!」


 はぐはぐとオリジナルを食べ進めていく。


「ふいー……。じゃ、サワークリームもいただくね」


 銀組焼きが操術によってクリームを纏い、シオニアの口元へと向かう。

 ひとくち囓り、うんうんと頷いた。


「定番って感じの味だね。ほっとする! オリジナルが初めての味だから、これがあると比較できて嬉しいかも」


「でしょー。シオニア、わかってるう!」


 サワークリームを提案した女子が、嬉しそうに笑う。


「最後、スイート! リロットバターにしよっと」


 はちみつを練り込んだ銀組焼きに、たっぷりとリロットバターが乗せられる。

 生地の表面に触れたリロットバターが、じゅくじゅくと美味しそうに溶けていくのが見えた。


 サクッ。


「……~~!」


 シオニアが、足をばたばたさせる。


「おいッ、しー……い! これ、おいしい! 絶対女の子詰め掛けるよ!」


 ドズマが、はにかみながら言う。


「やー……、こんだけ喜んでくれると、さすがに嬉しいわ。うん」


「ですね! シオニアさん素直だし、本当に美味しいんだってわかります」


「ふふー、食べさせてよかった? よかった?」


 シオニアが、何故か俺に尋ねる。


「まあ、そうと表現することも不可能ではないとの意見も多々ある」


「お願い権くれる?」


「食っといてお前」


 いいけどさ。


「おい、シオニア。白組は何やんだよ。食わせたんだから、そんくらいは教えてけ」


「ぶぶー!」


 シオニアが胸の前でバツを作る。


「それは秘密です!」


「え、ずるくないですか?」


「考えてもみたまい。アタシがここで情報を漏らすような子なら、帰って白組に銀組焼きのことを言っちゃうかもしれないでしょ。アタシは口がかるーいけど、秘密のことは絶対言わないのだ」


「ははっ!」


 思わず笑みがこぼれる。


「こりゃ一本取られたな。シオニアの口が固いのは、こちとらよーく知ってるよ」


 そう言って、シオニアの頭をぽんと撫でる。


「白組が何をすんのかは、当日のお楽しみにしておくわ」


「えへへー」


 くすぐったそうに撫でられたあと、シオニアが立ち上がった。


「では、銀組の諸君! 最優等クラスの栄誉は我々二年白組のものだ! 頑張ってくれたまーい!」


 堂々と退室するシオニアの背中を見て、ドズマが呟いた。


「相変わらず、嵐のようなやつだ……」


「でも、美味しいって言ってもらえましたね。元より自信はあったけど、あそこまで良い反応をもらえると安心して当日に臨めます」


「なんだかんだ食わせてよかった気になるのが、あのアホのすげーとこだな。人懐こいっつーか、なんつーか」


「あれはもう、シオニアの才能だな」


 人に好かれる才能だ。


「──じゃ、もうひと頑張りすっか! 本番は明後日、優勝すっぞ!」


 ドズマの発破に、クラスメイトたちが大声で応じた。

 クラスが一丸となっている。

 ただ、懸念もあった。

 エイザンはどうしているのだろうか。

 その動向を知る者は、誰一人としていなかった。

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