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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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4/最上拝謁の間 -6 千年の妄執

「──だ、だいじょうぶ。ただ寝てるだけ、……みたい」


 ヤーエルヘルの具合を診ていたプルが、そう言って微笑んだ。

 ヘレジナが、首をかしげる。


「しかし、様子がおかしかったな。口調も変わり、でしでし言わなかったように思う」


「そうなの?」


 ネルに頷く。


「ああ。実のところ、ネルが生きてるのはヤーエルヘルのおかげなんだよ。ヤーエルヘルが、諦めなかった。だから奇跡が起きた」


「……そっか」


 ネルが、ヤーエルヘルの頭をそっと撫でる。


「ありがとう、ヤーエルヘル。もちろん、みんなも。あたしは人に恵まれてるな」


「ね、ネル、体調どう? い、痛みとか、悪心は、……ない?」


 プルが、ネルの額に手を当てる。


「い、一度死んじゃったんだから、む、無理は絶対しないで。おかしなところがあったら、すぐに言って、……ね?」


「はーい。でも、今のところは本当にないかな。むしろ、死ぬ前より絶好調なくらい」


「それはそれで怖いが……」


 ヘレジナの言葉に、胸中で同意する。

 心配だが、今すぐにできることはなさそうだ。


「しッかし、サザスラーヤねえ。陪神なんざ迷信かと思ってたが、いるもんだ。生きてんだか死んでんだか、わけわからん状態だったけどよ」


「仮に生きてたとしても、さっき息の根止められたけどね」


「違いねえ」


 アーラーヤと軽口を言い合っていたヴェゼルが、不意に真面目な顔をする。


「……でも、これ、なるべく人に話さないほうがいいと思う。ラーイウラの王様は陪神を食べて千年を生き長らえた化け物でした──なんて、言ったところで誰も信じないし、相手も自分も不愉快になるだけだ」


「うん」


 ネルが頷く。


「ヴェゼルの言う通り、このことは秘密にしましょう。ナイショよナイショ」


 ネルは気丈に振る舞っている。

 でも、心はきっと、ずたぼろだ。


「──あ、そうだ。そう言えばみんな、どうして最上拝謁の間にいたの?」


「それ聞いてなかったな」


「ああ」


 アーラーヤが答える。


「まず、うちの小娘様が世継ぎの儀式を覗きたいって言い出してな」


「新王を心配したとおっしゃい」


「へいへい。で、そっちの三人に持ち掛けたらノリノリだったわけだ」


「ふ、ふへへ……」


「わ、私は止めたのだぞ! いちおう……」


 ヘレジナのことだから、最終的には好奇心に負けたんだろうな。


「でも、さすがにレイバルさんとかにバレるんじゃ──」


 そう口にしたところで、



 ──コン、コン。



 王の間の扉がノックされた。


「はーい?」


 ネルが応答すると、


「──サンストプラにおいて最も偉大なる新王、ラライエ四十三世。卑賤の身でありながらこの扉を開く不遜を、どうかお許しいただけないでしょうか」


 それは、レイバルの声だった。


「あー……」


 ネルが、プルに尋ねる。


「……こういうとき、なんて許したらいいの?」


「ええとね」



 ──バン!



 扉が、乱暴に開かれる。


「煩雑に過ぎる。こんなもの、勝手に開ければいいんだ」


「ジグ!」


 ネルの頬に喜色が浮かぶ。

 ジグの視線がネルに向けられ、


「……おい。ドレスが赤く染まってるのは、どういうわけだ」


「あー……」


 ネルが苦笑する。


「多少、危ない目に遭ったり遭わなかったりで……」


 ジグが俺を睨む。


「……ああ、俺のせいだ」


「後で詳しく聞かせてもらう」


「ちょ、ケンカはしないでよね! あんなん、どーしよーもないって!」


 わたわたと仲裁に入ろうとするネルを見て、レイバルが安堵の吐息を漏らす。


「……しかし、よかった。新王が御無事で」


「ネルでいいってば。言ったでしょ、片田舎の領主なんてこんなもんなんだから」


「ですが」


「──レイバル=エル=ラライエ」


「はい」


「今この場に限り、ラライエ四十三世をネルと呼び、一人の貴族として接しなさい。よろしい?」


「は、はい……」


 戸惑いを隠せないレイバルに、ネルが尋ねる。


「もしかして、あたしを心配してくれたの?」


「はい。御前試合の前にネル様からお話を聞かせていただき、きな臭さを感じたものですから」


 レイバルが、自分の胸に手を当てる。


「それまで、わたくしは、先王に対し何ら思うところはございませんでした。そういうものなのだ、と。しかし、ルニード=ラライエ様が消えたことは、明らかに不自然です。カタナ=ウドウ様がどうなるのか、快活なネル様が先王と同じようになられるのかと考えると、ふと不安に襲われたのです。そこで、皆様に、様子を見に行ってもらえるようにと」


「……そっか」


 ネルが、慈しむような微笑みをレイバルへと向ける。


「ありがとう、レイバルさん。あなたのおかげで、あたしは生きてる」


「……もったいない御言葉です」


 深々と礼をしたあと、レイバルが王の間を見渡す。


「して、先王は如何なさったのでしょうか」


「──…………」


 ネルが口を閉ざす。

 何と言えばいいのかわからない様子だったので、助け船を出すことにした。


「世継ぎの儀式で亡くなられたよ。儀式って、そういうものだったみたいだ」


「そう、ですか……」


 レイバルが目を伏せる。

 彼女にとっては、ずっと仕えてきた主なのだ。

 心中複雑だろう。


「そうだ、レイバルさん。元の客室でいいんだけど、空いてるかな。ここじゃ落ち着かないし、あたしもしばらくそっちで過ごそうと思うんだ。ヤーエルヘルも運びたいし」


「はい。下女が部屋を整えた頃合かと」


「じゃ、そっちに移動──」



 ──ガタッ。



 最上拝謁の間の方向から、物音がした。


「──…………」


 皆を守るように、前に出る。

 アーラーヤとヘレジナも、自分の武器に手を伸ばしていた。



 ずり、ずり、と。

 何かを引きずるような足音が、する。

 王の間に緊張が走る。

 やがて、現れたのは──



 あの、側近の女性だった。


 ただし、頭が二つある。


 女性の首筋から、もう一つ、両目を潰されたラライエの首が生えていた。




「──■■■■■■■■、■■■■」




 ラライエが、声にならぬ声を上げる。


「な、ア──」


 レイバルが腰を抜かし、這って逃げようと背を向ける。

 そのくらい、おぞましい光景だった。


 一歩、

 一歩、

 ラライエが近付いてくる。


「カタナ。あれが、ネルを危険な目に遭わせたのか」


「ああ」


 ジグが、まだ完治していない右手を掲げる。


「──これで火葬してやれ」


 その右手が、白く輝いた。


「わかった」


 差し出した神剣を、ジグが握る。

 白い炎が刀身を成す。


「ラライエ。千年の妄執は、ここで断つ」


 神眼を発動する。

 半呼吸で踏み込み、白き神剣でラライエを縦に寸断する。



「■■」



 二分割。

 四分割。

 六分割。

 ほんの半秒で細切れにし、火勢を最大に上げる。

 白い炎がすべてを掻き消し──




 ラライエは、この世から完全に消え去った。

 細胞の一欠片すら、残すことなく。




「──い、今のは……」


 眼鏡をずり落としながら、レイバルが呆然と呟く。

 アーラーヤが、苦笑しながら言った。


「見なかったことにしとけ。それがいちばんだ」


「は、はい……」


「れ、レイバルさん、だいじょうぶ……?」


 プルがレイバルに手を差し出す。


「ありがとう、ございます……」


「ここ落ち着かないの、わかったでしょ。もう大丈夫だけど……」


 ネルの言葉にレイバルが頷く。


「……はい、一刻も早くここを出たい気分です」


「そーしよ」


 頷いて、ネルが苦笑した。

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