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異世界は選択の連続である[Re:]  作者: 八白
第一部二章 遺物三都
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4/最上拝謁の間 -1 美酒

 暗く、長い廊下を歩きながら、ネルに声を掛ける。


「ネル、俺から離れるなよ」


「うん。頼りにしてるよ、王子さま」


 苦笑する。


「……いや、王子さまはないだろ、王子さまは」


「そう? 似合ってると思うけど。カタナって、妙に自己評価が低いときあるよね」


「そうかあ?」


「そうだよ」


 ネルが、呆れたように言う。


「あなたは、ラーイウラ王国の御前試合で優勝したの。それも、偽りの奴隷たちの中、本物の奴隷として勝ち抜いた。これ、偉業だからね。言っとくけど」


「でも、それは──」


「神眼のおかげ、とか言うんでしょ」


 図星だった。

 まあ、わかるよな。


「同じ能力を与えられたとして、同じ偉業を達成できる人間なんて、何人もいない。能力が優勝したんじゃない。あなたが優勝したの。あなたがそう選択したから、あたしは救われた。あたしの頑張りによっては、すべての奴隷が解放されるかもしれない。あたしはカタナに感謝してる。神眼に、ではなくね」


「──…………」


 そうだな。

 素直に受け取るべきだろう。


「当たり前だよな。あのジグに勝ったんだ。すごくないわけないわな」


「そりゃもう。サンストプラすごいランキングを作ったら、上から数えてすぐよ、すぐ」


「ははっ! なんだそのランキング」


「ふふ、わかんない」


 互いに笑い合い、長い、長い廊下を行く。

 時間感覚が失われるほどに長大な廊下の果て、俺たちは、王の間へと辿り着いた。


「こちらです」


 側近が、思いのほか粗末な木戸を押し開く。

 そこにあったのは、客室より遥かに狭い素朴な一室だった。


「……ここが?」


 王の間と言うからには、この世の贅を極め尽くした悪趣味な部屋が出てくるものだとばかり思っていた。

 周囲を見渡すと、部屋の隅に天蓋付きのベッドが据え付けられていることに気付く。

 寝室すら分かれていないのだ。


「ラライエ四十二世は?」


「最上拝謁の間の前でお待ちです」


「最上拝謁の、間……?」


 ネルと顔を見合わせる。


「尊き王が、一日のほとんどを過ごされる場でございます」


「そこには、何があるの?」


「わたくしにも、わかりません。わたくしや側女は、こちらまでしか入ることを許されておりません」


「最上拝謁って、なんなんだ?」


 俺の質問に、側近が即答する。


「わかりません。知ることは許されておりません」


「──…………」


 ネルが、何事か思案し、側近に尋ねる。


「パパ──ルニード=ラライエは、最上拝謁の間にいるの?」


「申し訳ありません。存じ上げません」


「……そう。ひとまず、その最上拝謁の間へ行けばいいのかしら」


「その前に、まずこちらを」


 側近が、テーブルの上にあった緑色のガラス瓶を取り、グラスに中身を注ぐ。

 鮮やかな、赤い液体。


「最上拝謁の間へ入る前に、こちらをお飲みになっていただきます」


「これは?」


「美酒でございます。尊き王も、毎日こちらを」


「──…………」


 怪しい。

 しかし、飲まねば進まない。


「俺が毒味する」


「カタナ」


「王子さま、なんだろ」


 ネルが苦笑する。


「……それ、言われちゃったらね」


「全部飲めばいいのか?」


「いえ、ひとくちで構いません」


「……わかった」


 俺は、グラスを手に取ると、鮮紅の美酒を舐めるように啜った。


「──かッ! ごほ、ごほッ!」


 なんだ、これ。

 とんでもない味がするぞ。


「カタナ!」


 ネルが、心配そうに俺の背中を撫でる。


「……いや、大丈夫。ただ、すごい生臭くて」


 正直、何が美酒だよと思う。

 あの酸っぱいシリジンワインのほうが、何万倍も美味だ。

 しばし待ち、体に異常がないことを確かめる。


「──少なくとも、即効性の毒とかではないみたいだ」


「ごめんね、カタナ。ありがとう」


 ネルが、俺からグラスを受け取り、美酒に口をつける。


「……うえ」


 眉をしかめて、舌を出す。


「まっずい、何これ。生臭いというか、青臭いというか、舌が痺れて、とにかくえぐい……」


「地獄の交響曲って感じだよな」


「わかるー」


 ふと、ネルの表情が固まる。


「……え、国王って、毎日これ飲まないとダメなの?」


「少なくとも、現国王はお飲みになられております」


「前国王は?」


「わたくしは、現国王からの側近ですので」


「……ちょっと、やる気なくなってきたかも」


「はは……」


 気持ちがわかるだけに、突っ込むに突っ込めない。

 それほど、不味い。


「では、こちらへ。王がお待ちです」

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