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第19話――少しずつ縮まる距離

翌朝、一行は宿を出て、再び医療施設へ向かっていた。


道中、エリアスは前回の演奏について記録した手帳を開き、観察した事実と推測を、きちんと分けて整理していた。


「演奏の振り返りをしているんですか?」ライラが尋ねた。


「実際に確認できた事実と、そこから考えられることを分けているんです。最後まで聴いてくれた患者もいれば、こちらを振り向きもしなかった方もいました。反応がわずかだった方もいます。表情だけで、皆さんがどう感じたのかを判断することはできませんから」


ユリウスはしばらく黙って歩いていたが、やがて口を開いた。


「曲が終わったとき、僕も拍手を待っていたんです。でも、今になって考えると、拍手よりも、ある患者さんが短く伝えてくれた感謝の言葉のほうが、はっきりと心に残っています」


「その言葉は、その方が自分から私たちに伝えてくださったものですからね」ライラは答えた。「ほかの方々がどう感じたのかは、まだ分かりません」


レオンはエリアスの手元の手帳に目をやった。


「今はしまっておけ。着いてから、また記録することがあれば見ればいい」


エリアスは反論せず、手帳を閉じた。


リゼルは医療施設へ続く道を見つめた。


「今日は、まず管理者の方に、わたくしたちに手伝えることがあるか尋ねましょう」


到着すると、レオンが管理者のもとへ行き、その日に手伝える仕事があるか尋ねた。


「ちょうどよかった。今朝、寄付された品が届いたばかりで、まだ仕分けが終わっていないんです。よろしければ、種類ごとに分けるのを手伝っていただけませんか。ラベルがはっきりしない箱は、確認が済むまで別にしておいてください。勝手にどこかへ運ばないようにお願いします」


「喜んでお手伝いします」リゼルが答えた。「分からないことがあれば、先に確認しますね」


管理者から仕分けの手順を簡単に教わると、レオンは皆の担当を決めた。アレンとユリウスは重い箱を空きスペースへ運び、ライラは衣類を仕分けた。リゼルは清潔な布類を整え、エリアスは箱のラベルと明細を確認した。


作業を始めて間もなく、エリアスは、患者の休憩室用の布類と書かれた箱の中に、大きさの異なる衣類がいくつも混ざっているのを見つけた。彼は職員を呼んで確認してもらった。調べてみると、梱包する前に複数の種類の衣類がまとめて入れられていたことが分かった。職員は新しいラベルを持ってきて、残りの品をどう仕分ければよいかも説明した。


ユリウスは次の箱を持ち上げ、ラベルを読み、慎重に中身を確かめた。


「これは問題なしです。どうやら僕も、仕事ができるようになってきたみたいですね」


エリアスは箱に目をやった。


「まだ一箱確認しただけですよ」


「自分を少しくらい褒めたっていいじゃないですか」


「それなら、せめてあと十箱ほど確認してから、自分を褒めてください」

ユリウスは呆れたように彼を見たものの、やがて笑って作業に戻った。


その間、ライラは中年の女性が家族のために用意した衣類を、休憩スペースで使えるよう一緒に仕分けていた。リゼルは物を取りやすいように籠を近くへ動かし、アレンは職員の指示に従って、通路を塞いでいた箱を壁際へ寄せた。


エレナは時折、リゼルたちの様子に目を向けていたが、やがて自分の仕事へと戻った。


母親の隣に座っていた小さな女の子が、休憩場所のそばの壁に立てかけられた楽器ケースに気づいた。それはリゼルが置いておいたものだった。

女の子は何度も気になる様子でそちらを見ていたが、やがて勇気を出して近づき、尋ねた。


「お姉さん、それなあに?」


声に気づいて振り向いたリゼルは、微笑んで答えた。


「魔法のギターよ」


「魔法の楽器って、どんな音がするの?」


その質問に、リゼルは小さく笑った。


「聴いてみたい?」


女の子は何度も頷いた。しかし、荷物を運ぶ職員たちがまだ行き来しているのを見て、ふとためらった。


「今日はまだ、片づける物がたくさんあるの。まず管理者の方に聞いてみるね。ここの仕事の邪魔にならない時間があれば、お姉ちゃんが弾いてあげる」


「ほんと?」女の子は目を輝かせて聞き返した。


「本当よ。許可をいただけたらね」


女の子は、ひそひそ話のつもりなのか、周りにも聞こえる声で母親に知らせに戻った。ユリウスも何か言おうとしたが、レオンが箱を持ち上げて手を貸すよう促したため、急いで反対側を持ち上げた。


作業を終えたリゼルたちが帰り始める頃には、もう昼近くになっていた。女の子は、リゼルが振り返って手を振るまで、その後ろ姿をずっと目で追っていた。

◇


翌日、一行は再び医療施設を訪れた。今度は職員の一人が彼らを覚えていて、レオンが尋ねるよりも先に挨拶をしてくれた。


管理者からその日の作業内容を簡単に聞くと、皆はそれぞれ仕事に取りかかった。休憩時間になり、リゼルが脇の休憩スペースへ立ち寄ると、あの女の子がすぐに駆け寄ってきた。


女の子は、一行が到着したときからリゼルに気づいていた。母親のそばから何度もこちらを窺っていたが、リゼルが仕事をしている間は邪魔をしないようにしていた。片づけを終えたリゼルがふと振り向き、女の子に気づくと、女の子はすぐに近づいてきた。


「お姉さん、わたしのこと覚えてる?」


「もちろん、覚えているよ」


女の子はぱっと笑顔になり、リゼルの手にあるギターをわくわくした様子で指さした。


「お姉さん、今日はギダーを弾いてくれるの?」

リゼルは一瞬きょとんとしたあと、思わず小さく笑った。

「ギターよ。ギターって言うの」

「ギダ……」

女の子はもう一度言ってみたが、やはりうまく言えず、リゼルは笑いをこらえた。

「ギター!」

「上手ね」

リゼルは微笑みながら褒めた。女の子は満面の笑みを浮かべ、期待に満ちた目で再び尋ねた。

「じゃあ、今日は弾いてくれるの?」

「いいよ。でも、弾いていいかお姉さんが聞いてくるね」

リゼルはもう一度、管理者に短い曲を演奏できる休憩時間があるか尋ねに行った。音量は控えめにし、職員がその場所を使う必要が生じたり、演奏が誰かの邪魔になったりした場合は、すぐにやめると念を押した。管理者は少し考えたあと、患者たちが休んでいる時間なら、通路を塞がない休憩スペースの一角を使ってよいと許可した。


時間になると、リゼルはギターを取り出した。二、三人の子どもたちが近くへやってきた。彼女は短い旋律を優しく爪弾き、そばにいる人に届く程度の小さな声で歌を添えた。


曲が終わっても、女の子はリゼルの手にあるギターをじっと見つめていた。そして、すぐに声を上げた。


「お姉ちゃん、もう一回弾いて! もう一回!」


「僕も、もう一度聴きたい!」別の子もすぐに続いた。ほかの子どもたちも口々にせがみ、リゼルは思わず笑ってしまった。


子どもたちがそれほど夢中になっているのを見て、リゼルは優しく笑った。


「いいわ。もう一度弾いてあげるね」


リゼルが微笑んで再びギターを弾き始めると、子どもたちは幸せそうに耳を傾けた。


演奏の合間には、子どもたちの明るい笑い声が混じった。一人は膝を手で叩き、リズムを取っていたが、やがて顔を上げて、もう少し速く弾いてほしいと頼んだ。一方、別の子は同じ旋律をもう一度聴きたいと言った。


リゼルはそれぞれの希望に応え、同じ旋律を少しだけ弾むような調子に変えてみた。子どもたちは手拍子で合わせようとした。うまく合う子もいれば、途中でリズムがずれてしまう子もいて、互いに顔を見合わせて笑った。


子どもたちの笑い声に、近くで休んでいた患者たちも顔を向けた。

リゼルの音楽を楽しむ子どもたちを見て、穏やかな笑みを浮かべる人もいた。

それまでどこか寂しげだった辺りの空気が、少しずつ明るさを取り戻していった。


リゼルはしばらく演奏を続けたが、やがて職員がやってきて、その場所を使う必要があると告げた。彼女はすぐに演奏を止め、言われたとおりギターを片づけた。


「お姉ちゃん、明日も来る?」


「また来られたら、手伝いに来るわ。でも、毎日必ず来るとは約束できないの」


女の子は少し考えてから、分かったというように頷いた。


「お姉さんが来たら、今度はもっとたくさん曲を覚えます」


「じゃあ、少しずつ覚えていこうね」


エレナは、楽しそうに笑う子どもたちを眺めていた。気づかないうちに、ほんの少し笑みがこぼれたが、すぐにいつもの無表情へと戻した。


その後、日を重ねるにつれて、リゼルたちと医療施設の人々との間の空気は、初日とは少しずつ変わっていった。彼らの姿を見かけると、すぐに仕事を頼む職員もいれば、リゼルの名前を覚えて声をかける人も出てきた。以前に彼らを見かけた患者たちも、作業中に「今日はどこを手伝うの?」

「いつ帰るの?」と尋ねるようになった。


リゼルは、まず滞っている仕事を手伝うようにしていた。休憩に適した時間があれば、改めて管理者に許可を求め、認められたときだけ、子どもたちや患者たちに短い曲を聴かせた。


子どもたちが音楽を楽しんでいる間、ライラは中年の女性の作業を手伝っていた。二人は時折、楽しそうに音楽を聴く子どもたちへ目を向けた。


「娘さん、とても楽しそうですね」ライラが笑顔で言った。


女性は娘を見て、そっと笑った。


「そうなんです。最近はあまり元気がなかったのに、歌を聴いてからは、歌ってくれたお姉さんのことばかり話しているんですよ」


「よかったですね。子どもって、好きなものに出会うと、ずっと覚えているものですから」


「ええ」女性も微笑んだが、やがて表情を少し曇らせた。「あの子をどうしたら安心させてあげられるのか、分からなくなることがあるんです。いつ家に帰れるのかも、まだ分からなくて」


ライラはしばらく黙って耳を傾け、それから優しい声で答えた。


「きっと、お疲れでしょうね。でも、今日はとても楽しそうにしていますよ」


女性はかすかに笑い、ほかの子どもたちと笑い合っている娘へ目を向けた。


「でも、あの子がこうして友達と遊んでいるのを見ると、私までつられて笑ってしまいます。普段はおとなしくて、自分から誰かの輪に入っていくような子ではないんです」


◇


その日の夕方、エレナが屋敷に戻ると、客間からマルガレーテの声が聞こえてきた。


「いったい誰がチェスのルールなんて考えたんだよ! 馬がほかの駒を飛び越えて動けるなんて、どう考えてもおかしいだろ! それを当たり前だって言いやがる!」


グスタフは落ち着いた様子で駒を置いた。


「君から教えてほしいと言ったんじゃないか」


「クソ、こんなに腹が立つもんだとは思わなかったんだよ!」


「それなら、やめておくかい?」


「誰がやめるって言った! あんたに勝つまで、絶対にやめねえからな!」


エレナは扉の前で足を止めたが、やがて中へ入っていった。


「お母様、ただいま戻りました」


「おや、帰ってきたのかい。ほら、座りな!」マルガレーテは娘に顔を向けた。「それで、今日はどうだったんだい?」


エレナは父の隣に腰を下ろし、あの貴族たちがその後も何日か続けて手伝いに来ていること、ときには休憩時間に子どもたちへ歌を聴かせていることを話した。


「一度だけ顔を出して、そのまま帰ってしまったわけではないようですわね」エレナは最後にそう付け加えた。


マルガレーテはわずかに眉を上げ、再びチェス盤へ目を向けた。


「そうかい……まあ、エレナ、自分のやりたいことをやりな。ほかの人間のことばかり気にして、自分のことを忘れるんじゃないよ」

「はい、お母様」


グスタフは先ほどの駒を手に取った。


「君の番だよ」


「分かってる! せかすんじゃねえ!」


◇


翌日、医療施設での仕事は、その日に届く品に応じて変わっていった。


ある日、一行は患者のそばで寝泊まりしなければならない家族のために、休憩スペースを整えるのを手伝った。ライラは布を畳み、女性が荷物を使いやすいようにまとめるのを手伝った。その間、リゼルは休憩時間に、子どもたちへほんの短い時間だけ同じ旋律を聴かせていた。女の子は、まだところどころ音を取り違えながらも、曲のほとんどを口ずさめるようになっていた。


また別の日には、患者の部屋へ運ぶ備品がいくつも一度に届いた。レオンとアレンは、台車が通れるように廊下を片づけ、ユリウスは箱のラベルを確認した。エリアスは品数を記録し、職員の確認が必要な項目に印をつけた。リゼルは小さな物を指定された場所へ運ぶのを手伝った。


エレナも、いつものように施設に来ていた。彼女は物品の一覧を確認し、患者たちへ食事の盆を運んでいた。


一行がそれぞれ離れた場所で黙々と作業することもあれば、ユリウスが何かを言ってライラを笑わせることもあった。


◇


ある日の夕方、医療施設から戻ったエレナは、自分の部屋に座っていた。夕陽がカーテン越しに差し込み、窓際の小さな机を照らしている。


彼女は母の言葉を思い出した。――きれいな言葉をすぐに信じるんじゃないよ。相手が本当に何をするのか、ちゃんと見な。


初めのうち、彼女はリゼルたちをこれからも長く見張っていなければならないと思っていた。だが、ここ数日のことを振り返ってみると、初日と同じように彼らの落ち度を探そうと待ち構えているわけではなくなっていた。


別の部屋から、マルガレーテの怒鳴り声が響いた。


「庭木用の剪定ばさみを花瓶の隣に置いたのは誰! 花瓶を割りでもしたら、給料から差っ引くからね!」


◇


翌朝、一行は職員と一緒に、品物を奥の部屋へ運び入れる作業を手伝った。片づけが終わると、廊下の隅にある休憩スペースへ出て、ひと息ついた。その間、ライラはユリウスが危うく別の棚の品を手に取りかけたことをからかった。ユリウスは、ただラベルが見にくかっただけだと言い訳した。


「それなら、次からは手に取る前にラベルをよく確認したらどうですか?」


脇から声がした。


ユリウスはぴたりと動きを止め、顔を向けた。そこには、いつもの落ち着いた表情で彼を見ているエレナが立っていた。


「ちゃんと確認しましたよ。ラベルが似ていたから、そう見えただけです」


「似ていると思ったのなら、きちんと確かめてからにするべきですわ。誰かに指摘されてから説明するのではなくて」


「……はい。次から気をつけます」


リゼルは笑いをこらえながら、エレナに顔を向けた。


「今日もいつもどおり、お手伝いにいらしたんですね」


「ええ。わたくしは普段からこちらへ伺っておりますので」エレナは答え、皆の顔を一人ずつ見た。「そういえば、まだ皆さんに自己紹介をしていませんでしたね」


リゼルは少し目を瞬かせ、それから申し訳なさそうに微笑んだ。


「本当ですね。何度もお会いしているのに、お名前を伺っていませんでした。すみません」


「謝らなくても結構ですわ。わたくし、このことを何日もそのままにしてしまいましたから」エレナは小さく息をついた。「顔は覚えているのに、名前も知らずに呼び合うのは、少し妙ですものね」


彼女は背筋を伸ばし、丁寧な口調で名乗った。


「エレナと申しますわ。この近くに屋敷を構える貴族の娘ですの。普段からこちらの医療施設に通い、療養中の皆様のお世話をしておりますわ」


「わたくしはリゼルです。どうぞよろしくお願いします」


「ライラです」


「アレンです」


「エリアスです。よろしくお願いします」


「レオンです」


「ユリウスです……次からは、ラベルをもっとよく確認します」


エレナはすぐに彼へ視線を向けた。


「そうしてくださることを期待していますわ」


ユリウスは苦笑いを浮かべ、ライラは思わず小さく笑った。


全員の自己紹介が済むと、エレナは頷きながら、心の中でそれぞれの名前を静かに繰り返した。


「これで、次にお会いしたときは、皆さんを一人ひとりお名前でお呼びできますわね」


「わたくしたちも、お名前を覚えておきますね」リゼルが答えた。


「それならよろしいですわ。次は、わたくしに同じ自己紹介をさせないでくださいね」


そう言い残し、エレナは自分の仕事へ戻っていった。


医療施設の中では、台車の音や人々の話し声がいつもどおり続いていた。エレナもまた仕事へ戻ったが、次に彼らと会うときには、もう遠くから様子を窺うだけの見知らぬ人たちではないのだと、分かっていた。


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