番外編 親父と蛇と運命
「じゃあ、行こうぜ」
二人はそのまま町の酒場へ向かった。
店に入ると、二人は空いている席に座り、酒を注文した。
「久しぶりだな、こうやって飲むの」
「そうだな」
酒が運ばれてくると、二人はグラスを軽くぶつけた。
「乾杯」
「乾杯」
しばらく酒を飲みながら、昔のことや最近の出来事を適当に話していた。
やがてアレンはグラスを置き、ふと思い出したように口を開いた。
「そういや、お前の親父、最近元気か?」
Lordは肩をすくめた。
「まあ、年だからな。最近ちょっと体調崩してるんだよ」
「何があったんだ?」
「果物を取りに行ってな」
「何だよ。蛇にでも噛まれたのか?」
「いや。若い連中に集団でボコられた」
「何でだよ」
「人んちの畑に忍び込んで、果物を盗ってたからな」
「なんだよ、たった一本だろ」
「千本以上」
「じゃあ、お前の親父、もう完全に泥棒じゃねえか」
「百人以上が親父一人を囲んでさ。親父、気絶したんだよ。持ってた山歩き用のナイフを握ったままな」
「うわ……百人以上かよ」
Lordは何でもないことのように話を続けた。
「だって、俺の親父がどこに行ったのか、誰も知らなかったからな」
「死んだのか?」
「死ぬわけないだろ。たぶんそのうち目を覚ましたんじゃないか?」
「そうなのか?」
「で、親父が目を覚ましたら、今度は目の前にニシキヘビがいた」
「おい」
「もうどこにも行けなくなってさ。ニシキヘビが親父に巻きついたんだよ」
「うわっ」
「腕も動かせないくらいギチギチに締めつけられてな。でも親父も頑張って抵抗したんだよ」
「そうなのか?」
「そしたら蛇が頭を伸ばして、親父の腕にガブッと噛みついた」
「うわ……」
「腕の半分くらいまで噛まれてさ。親父もどうしていいか分からなくなって、ふと見たら、持ってきたナイフがあったんだよ」
「斬れ! 蛇を斬れ!」
「自分の腕を斬った」
「そっちかよ!」
「で、親父はそのまま蛇の体を掴んで、片手だけで振り回したんだよ。左腕はもうないからな」
「いやいやいや……」
「そしたら蛇が吹っ飛んで、木の上まで飛んでいった」
「で、蛇はそのまま逃げたのか?」
「いや。跳ね返ってきて、また親父に巻きついた」
「お前の親父、トラブル多すぎだろ……」
アレンは深いため息をついた。
「俺、ちょっと悩んでることがあるんだよ」
「俺のほうがもっと悩んでるわ。親父が今、死に物狂いで逃げ回ってんだぞ」
「もういいだろ。いつまで続くんだよ」
Lordは真顔のまま続けた。
「人間が蛇から逃げるなら、生き残るために走るしかないだろ」
「お前、まだ続ける気か?」
「もちろん!! 親父が蛇から逃げて走ったら、蛇も走って追いかけてきたんだよ」
「蛇も走るのかよ?」
「蛇から逃げるなら、百メートルや二百メートル走れば終わると思うだろ? でも何キロも何キロも走るんだよ。それで蛇の腹が擦れて傷だらけになったら、ようやく追いかけるのをやめるんだ」
アレンは両手を上げ、そのまま頭を抱えた。
Lord:「俺、何か間違ったこと言ってるか?」
アレン:「俺、なんでお前に会いに来たんだよ…」
「それで親父が蛇から逃げて、蛇も追ってこなくなったから、親父も喜んだんだよ」
Lordはそのまま話を続けた。
「で、その辺にあった木の棒を拾って、今度は蛇を殴りに戻った。そしたら蛇だって黙って殴られるわけないだろ」
「そりゃ戦うだろ」
「うわぁぁ!! また戦うのかよ!!! どうせまたしばらく戦うんだろ!?」
「まあ、戦うな」
「まだ終わってねえのかよ!」
「お前がちゃんと聞かせろって言ったんだろ」
「もういい! 終わり! もう十分だ!」
「はいはい、分かったよ」
「……ああ」
Lordはようやく話を切り上げると、何事もなかったように尋ねた。
「で、お前は何食う?」
「……食えねえよ」
「どうしたんだ?」
「俺、恋に破れたんだよ。ついさっきソフィアの結婚式に行ってきた」
Lordは少しも慌てることなく答えた。
「恋に破れることなんて、そんな珍しいことじゃないだろ。運命の相手なら、結局は一緒になるんだよ。どれだけ女神みたいに綺麗でも、どれだけ金持ちでも、運命の相手じゃなきゃ一緒にはなれない」
「……ああ」
「ほら、親父と蛇を見てみろよ」
「おい!!! 俺の話に戻したと思ったら、また親父と蛇の話に繋げるのかよ! 俺は恋に破れたんだぞ!!」
「なあ、お前、人間って全部で何百万人いると思う?」
「何百万人どころか、もっといるだろ」
「じゃあ、なんであの蛇は、わざわざ親父だけを狙って巻きついたんだよ!!!」
「……は?」
Lordは自信満々に言った。
「もしこれが男と女だったら、運命の二人ってことだろ。必ず出会う運命だったんだよ。俺、間違ってるか?」
「……ああ、そうだな。そう考えると……なんで俺、もっと早くソフィアに告白しなかったんだろうな。俺、何を待ってたんだ?」
「なあ、お前、因果応報って信じるか?」
「まあ……信じてるけど」
Lordは少し間を置いて、何気なく尋ねた。
「お前、蛇に何か業でもしたことあるか?」
「はぁぁぁ……!!」
二人はそれからもしばらく話を続け、くだらない話になると、顔を見合わせて笑った。
酒を飲みながら、二人は肩を並べて楽しそうに笑い続けた。
つづく
翌朝。
店長「なんで遅刻した?」
Lord「俺、店長に聞きたいんだけど、店長って寝坊したことある? 俺は昨日の夜、一睡もしてないから遅刻したんだよ。それで、店長は寝坊したことある?」
「別にいいだろ。俺は店長だからな」
「ほら、そういう考え方なんだよ。俺は部下なんだから、俺だって寝坊していいだろ? 俺と店長だって、同じ色の血が流れてるんだぞ。そうだろ? それに、俺のことを部下だと思うなよ。俺たちは対等なんだ。もし俺が店長のために働かなかったら、店長、どうやって食っていくんだ?」
「……ああ、俺が悪かった。ごめん」




