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記憶領域・失われた国  作者: 柊夕
プロローグ
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3/4

ファルハイト

 頭の中に、直接声が響いた。


「亡国の君、敗軍の将。国民を葬り、友を葬り、愛する者をも葬り去ったな」


「黙れ……」


「今さら死んで、楽になろうというのか」


「黙れ――!」


 渾身の力で剣を振るったが、巨物に触れた瞬間、刃は木の枝のようにへし折れた。

 王の伝承の剣。国が敗れ滅びた今なお、いささかもその鋭さを失っていなかったはずの剣が、呆気なく折れたのだ。


「復讐は望まぬか?」


「お前――一体何者だ?」


「復讐を望まぬか?――ファルハイト」


「俺は――」


 ――轟ッ!


 巨物が一瞬にして青い炎の海へと爆ぜ、視界の届く限り、生物であろうとなかろうとすべてが瞬時に蒸発した。

 千年もの間、決して溶けることのなかった積雪さえも、ことごとく消え失せている。

 青い炎は何かに引き寄せられるように俺の身体へと突っ込み、魂を焼き焦がす地獄のような激痛が、一瞬にして全身を駆け巡った。


「あああ――ああ――!」


「お前の果てる刻はまだ先だ。ファルハイト、私と共に生きるがいい」


「あああああ――!」


 見えた。

 理解を遥かに超えた光景。

 惑星が轟音を立てて砕け散り、その中から「何か」が誕生する。

 見たこともない世界、見たこともない生命。

 無数の死、無数の慟哭。

 そして――

 一つの、霞む人影。


「あああああ――!」


 青い炎のすべてが身体へと溶け込んだ後、俺は地面に膝をついた状態で意識を取り戻した。

 視界の及ぶ周囲は、すでにすべてが灰へと化している。

 国民たちも、友たちも、そして彼女の遺体さえも、どこにもなかった。

 伝承の剣は元の姿を取り戻していたが、その刀身には青い紋様が浮かび上がっている。

 震える両手を持ち上げて見つめる。心臓の奥で、何かが脈打っていた。

 だが、同時に何かが流れ去り、消えていくのをはっきりと感じていた。

 記憶。

 過去。

 感情。

 彼女。

 俺は伝承の剣を拾い上げ、やってきた道とは反対の方向へと歩き出した。

 ここで起きたすべては、おそらくすぐにあの女王に察知されるだろう。この世界には、彼女の氷雪を溶かすことのできる存在など、未だかつてありはしなかったのだから。

 だから一刻も早くここを離れ、遠くへ身を隠さなければならない。まだ死ぬわけにはいかないのだ。

 俺には……まだ、果たすべき使命がある。

 いつか、必ず「彼ら」がここへ辿り着く。

 いつか「彼ら」が、この千年以上も続く大雪を終わらせにやってくる。

 その日が訪れるまでは――残された命を、俺が守り抜こう。

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