ファルハイト
頭の中に、直接声が響いた。
「亡国の君、敗軍の将。国民を葬り、友を葬り、愛する者をも葬り去ったな」
「黙れ……」
「今さら死んで、楽になろうというのか」
「黙れ――!」
渾身の力で剣を振るったが、巨物に触れた瞬間、刃は木の枝のようにへし折れた。
王の伝承の剣。国が敗れ滅びた今なお、いささかもその鋭さを失っていなかったはずの剣が、呆気なく折れたのだ。
「復讐は望まぬか?」
「お前――一体何者だ?」
「復讐を望まぬか?――ファルハイト」
「俺は――」
――轟ッ!
巨物が一瞬にして青い炎の海へと爆ぜ、視界の届く限り、生物であろうとなかろうとすべてが瞬時に蒸発した。
千年もの間、決して溶けることのなかった積雪さえも、ことごとく消え失せている。
青い炎は何かに引き寄せられるように俺の身体へと突っ込み、魂を焼き焦がす地獄のような激痛が、一瞬にして全身を駆け巡った。
「あああ――ああ――!」
「お前の果てる刻はまだ先だ。ファルハイト、私と共に生きるがいい」
「あああああ――!」
見えた。
理解を遥かに超えた光景。
惑星が轟音を立てて砕け散り、その中から「何か」が誕生する。
見たこともない世界、見たこともない生命。
無数の死、無数の慟哭。
そして――
一つの、霞む人影。
「あああああ――!」
青い炎のすべてが身体へと溶け込んだ後、俺は地面に膝をついた状態で意識を取り戻した。
視界の及ぶ周囲は、すでにすべてが灰へと化している。
国民たちも、友たちも、そして彼女の遺体さえも、どこにもなかった。
伝承の剣は元の姿を取り戻していたが、その刀身には青い紋様が浮かび上がっている。
震える両手を持ち上げて見つめる。心臓の奥で、何かが脈打っていた。
だが、同時に何かが流れ去り、消えていくのをはっきりと感じていた。
記憶。
過去。
感情。
彼女。
俺は伝承の剣を拾い上げ、やってきた道とは反対の方向へと歩き出した。
ここで起きたすべては、おそらくすぐにあの女王に察知されるだろう。この世界には、彼女の氷雪を溶かすことのできる存在など、未だかつてありはしなかったのだから。
だから一刻も早くここを離れ、遠くへ身を隠さなければならない。まだ死ぬわけにはいかないのだ。
俺には……まだ、果たすべき使命がある。
いつか、必ず「彼ら」がここへ辿り着く。
いつか「彼ら」が、この千年以上も続く大雪を終わらせにやってくる。
その日が訪れるまでは――残された命を、俺が守り抜こう。




