永夜
雪はまだ降り続いている。
「みんな救われたよ。心配しないで、みんな、ちゃんと救われたんだ」
──彼は腕の中の彼女を呼び覚まそうと、何度もそう呟き続けた。
呼吸はとうに乱れ、血が胸に、喉に詰まっている。
自分だって、おそらくもうすぐ死ぬというのに。
それでも彼は折れた脚を引きずり、一歩、また一歩と、雪のない場所へ辿り着こうとしていた。
「あれ……? 私……まだ……生きてる……?」
「あ……! よかった……! よかった……!」
涙がひとしずく、またひとしずくと、腕の中の少女の顔にこぼれ落ちる。
「みん……な……どう……なったの……?」
「みんな救われたよ! 俺たち、みんな救われたんだ! だから、君もちゃんと生きなきゃ駄目だ。君が死んじゃったら、みんな凄く怒るからな!」
彼女は残された力を振り絞り、彼の涙をほんの少しだけ拭った。
「泣かないで……そんな風に涙を流されたら、あなたの……顔が……よく見えない、よ……」
「うん……泣かない……俺……泣かないから」
「ごめん……ね。私……ちょっと……疲れちゃった、みたい……」
「嫌だ……!」
彼女の手が、力なく地面へと落ちた。
「嫌だ……嫌だ! 目を開けてくれ、頼むから。君だけは、君だけは俺を置いていかないでくれ!」
この冷たい雪の夜、彼は彼女を抱きしめ、野獣のような咆哮をあげて泣き叫んだ。
周囲は、すべて死体だった。
血に染まった雪が、まるで一株一株のケシの花のように地表に咲き乱れていく。
雪は、まだ降り続いている。
ついに、彼一人だけになってしまった。
先ほどの咆哮のような泣き声も、すでに静まり返っていた。
彼はもう雪のない場所へ行こうとはせず、その場に横たわった。
彼女を腕の中に抱き寄せ、その髪の匂いを嗅ぐ。
それは彼の慣れ親しんだ、心から安心できる、幸せの匂いだった。
彼は、疲れ果てていた。
あまりにも遠くまで歩きすぎてしまった。
命よりも長い旅路を歩み、時間よりも遠い海を越えてきたのだ。
彼女が息を引き取った、その時。
彼もまた、ようやく足を止め、少し休む気になったのだった。
どれほどの時間が経っただろうか、不意に、燃えるような熱い気配が彼の意識を呼び戻した。
わずかに目を開ける。
視界に飛び込んできたのは、まるでこの天地さえも耐えきれないかのような、巨物の影だった。
その頭部は、彼がこれまでに目にしたどの生物よりも巨大だった。
その身体は、大地にそびえ立っているのか、それとも空から垂れ下がっているのかさえ判別できない。
それは、決してここに属さない生き物だった。
天地が静まり返る。
こうべを垂れた巨物だけが、死を迎えようとしている彼を、静かに見つめていた。
雪は、まだ降り続いている。




