8件目【嘘で飾って、傷つけて】
俺の口から漏れ出た大きなため息に、サクマの表情がピシリ固まる。醜鬼を倒した疲れによるものでも、お前が助かって安心したよ、という安堵のものでもない事は俺の表情を見て察しがついたらしい。
「…今日は帰る。戻って外に出るぞ」
俺の言葉にサクマはビクリと肩を振るわせ、居心地が悪そうに俺の後についてくる。ドニルとラドナは、意を決した表情の俺を見て生唾を飲む。これから何をするか分かっているのだろう。当然だ、いつ追放するかは話して決めている。故に今から俺が取る行動も、2人は周知している。
コツコツと4人分の足音が響く空間の中、ドニルが置いてきた果物を俺はわざと踏み潰して歩みを進める。辺りに広がる酸っぱい香り、ぐちゃりと嫌な音を立てて靴底にへばりつく果肉。いい気分のするものじゃない、だがそれがいい。今から俺は、もっと酷いもの…サクマの心を踏み躙るのだから。
しばらく経って出口へ辿り着く、この間に俺たちの間に会話はひとつもない。ピリピリとした雰囲気は外に出ても緩むことなく続き、外の光を浴びて「眩し…」と呟いたサクマの言葉に再び俺はため息をつき、
「…お前さ、醜鬼にすら1人で勝てないのか? そもそもお前のスキル『圧縮』、一度も使わなかったよな?戦闘でスキルが使えないなら素の身体だけで戦うしかないのに、お前それもないよな?」
「…え? え?」
突然の俺の豹変ぶりにたじろぐサクマ、その表情を見るのが辛くて、わざと視線を外しながらも俺は続ける。
「確かに醜鬼はCランク最上位だし、ヤバくなったら頼れとも言った。…だが、Cランクなんて雑魚だ。下から2番目の雑魚の中の最強、そんな相手に苦戦して、あまつさえ俺たちの手を煩わせるなんて…本当に助けが必要だなんて思わなかった」
嘘だ。新人で醜鬼に勝てる奴なんてそうそういない。俺たちからしたら余裕の相手でも、新人が実際目の前にしたら、戦う勇気が出るだけ御の字だ。それも不安に押しつぶされそうな中、知らない世界でそれをやってのけたハルトは凄い奴だ、本心からそう思う。だからこそ俺の口は、本心じゃない言葉を紡ぎ続ける。
「俺たちはSランクパーティだ。初心者を育てるためでも、ガキのお守りをするために組んでるわけでもない。今までは、育てれば強いスキル持ちかもと思って付き合ってきたが、さっきの戦闘を見て確信した。お前、うちのパーティに相応しくないよ」
嘘だ。元々そんな期待は込めていないが失望した雰囲気を出すため、苛立たしそうに足をトントンと地面に叩きつける。俺たちだって誰だって、初めから何でもできる奴なんていない。それを期待するのは傲慢だ。だがそれを求めた傲慢野郎の体で、さらに話をする。
「前に聞いたけどさ、お前なんか目的あるの? ないんだろ? じゃあ向いてない冒険者なんかやめて普通に働けばいいじゃないか。簡単じゃないかもしれないが、少なくとも冒険者よりは適性があるだろうぜ」
嘘じゃない。少し前、さりげなく聞いた時にサクマは特に目的なく冒険者になったと話していた。冒険者は命の危険と隣り合わせだというのに、強い目的意識もなく何となくで始めた、という事だ。馬鹿馬鹿しい話だが、転生冒険者は往々にして理由を持たず冒険者になる。
一度死んだことによる命に対する認識の変化や、この世界を夢か何かだと勘違いしている故の甘い考えだ、というのがドニルの言だ。何を言うのか、命より大事なものなんかないと言うのに。
「全員で話して決めたんだ、お前はこのパーティにはいらない。もう十分世話焼いてやったろ?これやるからもう出てけ。…追放だ」
ちゃりん、地面にぶつかる金属の音が辺りに響く。袋に入った5枚の金貨、数日はこれ生活できる。サクマは捲し立てるように話を進める俺の顔と金貨の入った袋を交互に見て、
「……そんな。皆さん優しかったじゃないですか。僕のことパーティに誘ってくれて、色々教えてくれたじゃないですか…! あの態度もみんな、嘘だったんですか!?」
「ああ、そうだ」
…嘘だ。本当はもっとまともに戦えるようにしてやってから、円満にパーティを抜けさせてやりたい。次は俺たちみたいなのじゃなく、ちゃんとお前を評価してくれるパーティに入れよって言ってやりたい。だがそんな悠長なことをする時間はない。俺たちに追放されずに燻っているハズレスキル持ちがまだ、いるのだから。
「……ああ、そうですか…。そうですよね、フフ…そういうイベントか…。そのためのNPCだったんだ、なるほど…」
「? おい、何ぶつぶつ喋ってんだ。さっさと俺たちの前から失せろ」
「分かりました、いままでお世話になりました」
意外にもあっさり引き下がったサクマは丁寧に俺たちに礼をしてから後ろへ振り返り、澱みない足取りで歩いていく。何やら小さな声で呟いていたが、いきなりのことすぎて心が少し変になってしまったのだろうか…。申し訳ないことをした、だが突き放すような言い方でないといけないんだ。
しばらくして、サクマの後ろ姿が見えなくなった頃。ドニルとラドナが暫くぶりに口を開き、
「お疲れです、ギル」
「今回はもっと深刻な雰囲気になるかと思ったけど、案外最後は軽かったわね」
「ああ、そうだな…でも前回の『ハルト』ってやつより全然心が痛んだわ、何にも辛そうじゃなかったしアイツ」
「そんな名前でしたっけ? 確かに辛さを隠して気丈に振る舞ってる、って感じではなかったですよね。受け取った連絡では彼も無事『創生』のスキルが覚醒して、今は何故か目の前でピンチに陥る女の子たちを助けて回ってるらしいですよ」
「うげ、そんなことなってるの?私あの子のノリちょっと苦手なのよね、本人的にはあれでもテンション低かったらしいけど」
サクマの行く道を追うように歩きながら、何気ない会話をする。今回の追放も中々来るものがあったが、それでも慣れがあるのでそんなに引きずる事はない。なにより、国の連絡でちゃんと覚醒したかどうかが報告されるので、それを聞くことがなにより安心する。ああ、ちゃんと1人で生きていく力が身についたんだな、と。それを聞くまでは基本安心できないのだが、前回のハルトはなんか…。調子のいいやつだったし、万が一スキルが覚醒しなくても何とかなった気はするな。
「にしても、これで7人目か…随分長く感じる、王様にこの仕事を依頼された時が相当昔に思えるわ」
「そうそう、ドニルったらその場で泣いたりしちゃってね」
「ちょっと! やめてくださいよ!」
カラカラと笑い声を上げながら俺たちは宿へ向かって歩いていく。
明日も新しい奴と会って追放までの道筋を組み立てるのだ、いつまでもクヨクヨしてられない。少なくとも俺たちが今まで追放した奴らはそんな弱気になってない、それなら俺たちも追放した側として堂々と、やっていこう。
俺はそんな決意を固めて、明日のことを思うのだった。
【補足情報】
この世界は冒険者以外にも様々な職業がある上、バイトの研修みたいな期間もありその間も給料は貰えるので、働こうと思えば基本的に食いっぱぐれる事はありません。
なのでギルのように思い詰めて、追放した相手を慮る必要はないのですが、彼の性分としてどうしても放っておけないので追放して数時間はそわそわしています。
ラドナはギルほどではないにしろ「大丈夫かしら…」と思ってはいます。ドニルはもともと色んなパーティに参加しては抜けるを繰り返していたのでそんなに気にしてません。




