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異世界追放業  作者: なきり。


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6件目【無理があるだろ】

 サクマをパーティに入れてから、5日が経った。初めてダンジョンに入った日はそうではなかったが、やはり異世界からやってきていく宛ても頼る相手も居ないサクマは俺たちのパーティに正式に加入し、そこから日々ダンジョンに潜り様々な知識と経験を積んでいった。…とはいっても戦闘はさせていない。基本的にドニルの荷物を持たせて後ろに付いて来させるだけ、これはサクマだからではなく転生冒険者には皆そうさせている。

 追放する時の言い訳作りもそうだが、彼らにまともな戦闘経験はない。あっちの世界ではモンスターなんかおらず、対人間の戦い程度しかした事がないそうだ。

 そんな中でいきなり剣を持たせてハイ戦ってください、なんてとてもじゃないが出来ないだろう。しかしなら何のためにパーティに入れたんだという話になるかもしれないので、その疑問を解消する時間が必要だ。


「てことで、今日のダンジョン探索ではサクマに戦ってもらう。ヤバい時は俺たちが補助に着くが、基本的にはお前が1人で全てやるんだ。相手はCランクダンジョンだ。くれぐれも油断はするなよ」


「は、はい! 武器も装備も買ってもらったし、こ、ここ、怖く、ないです!」

「震えてるけど」


 頭と胴に装備した軽い鉄の装備、そして腰に携えた剣がカタカタと震えに合わせて音を立てる。俺たちの戦いを後ろから見ていたとはいえ実際に直接戦うのは初めてなんだ、そりゃビビるのは仕方ない。


「無駄に自信が有り余ってるよりは良いでしょう。いいですか?まずいと思ったらすぐ後ろに引いてください。ギルとラドナさんが後ろで待機してますし僕も色々と準備はしてますが、咄嗟の判断ミスは起こりうる事なのでしっかり気を張っていてくださいね」


「はい! が、頑張ります…!」


 意気揚々と、というより空元気に近い大きな返事。俺たちはガチガチの動きで歩いていくサクマの後ろ姿を見ながら着いていく。


 ダンジョン内部、ただでさえ鬱屈とした空気の岩肌に緊張感のある雰囲気が張り詰める。俺たち3人だけなら発生する会話も、サクマの意識の妨げになるかと何となく誰も口を開かない。何だろう、我が子の巣立ちを見る親の気分ってこんな感じなんだろうか。

 ピクリ、耳が反応する。俺たち以外の物音、それも後ろから。ダンジョン内では当然、毎回都合よく前からモンスターが出てきてくれるわけではない。だがこの場合どうするか、サクマは前に集中しているし、そもそもこのままだと先に鉢合わせるのは俺たちだ。もしかしたらこっちに向かって来ない、もしくは追いつけないモンスターかもしれないが…


「ドニル、後ろに」

「分かってます、もう手は打ってます」


 小声でドニルに声をかけると、ドニルは返事と共に顎をしゃくって後ろを見ろと示す。そちらを見やると、柑橘系の果物が一つ、落ちている。


「…あれが何なんだ? 帰り道に食べるためにあそこに置いてんのか?」

「違いますよ…。粘性の液体が地面を跳ねる音、相手は粘水スライムです。奴らは自分の体に違う成分の液体が混じることを嫌う、その中でも柑橘系の果物は香りと共に一番避けるんです。ダンジョン内にわざわざ果物を持ってくるような人居ないのであんまり知られてないですが」

「ほーん、流石」


 ドニルの知識に感心していると、前からサクマの「あっ」という声が聞こえてくる。


「な、なにか音がしました。この先になにかいるかも」

「俺たち今ちょっと喋ってたからその音かもよ」

「いや、違います。ぴちゃぴちゃ音がするんです」

「…確かに、この音は…」

「スライムですよね、前に進みます」

「いや、これは……あんまり口出すのは良くないですね」


 ドニルが意味深なことを呟くが、その声はサクマに届かない。何だろうか、俺にも粘水の音に聞こえるんだが違うんだろうか?何にせよモンスターがいるのは確定だ、サクマは当然俺たちも気を引き締める。

 少し急ぎ足でサクマの後をついていくと、ちょうど角を曲がって見えなくなったサクマの悲鳴が聞こえて来た。急いで進んで角を曲がると、そこには…


「ウボァァァ…」


「ヒィィ!! な、何だこいつ!」

「こいつは…『醜鬼オーク』だ!」


 大粒の涎を地面に落としながら、巨大で醜い人型の豚…醜鬼がこちらを見つめる。おい、こいつはCランクの中でも最上位の強さだぞ。いくら武器があるとはいえ、初心者が敵う相手じゃない…!さっきの水音はこいつの唾液が零れ落ちる音だったのか。

 まずいな…。ドニルとラドナ、元々後衛の2人は俺より少し後ろで位置づいていたが、そのせいでアイツらの足の速さじゃ角を曲がって俺たちの姿が見える場所に来るまで少し時間がかかる。アイツらならサクマが戦ってギリギリ勝てる程度に醜鬼を弱らせたりサポートしたりが出来るだろうが、俺にそんな器用なことは出来ない。

 俺に取れる選択肢は、見守るか、こいつを殺すかの二択だけだ。


「サクマ、こいつに勝つのは無理だ。俺が加勢する、お前は下がって…」

「い、いや! 僕にやらせてください…!」

「はぁ?」


 何を言い出してるんだコイツ…。粘水や小鬼なら見た目的に弱そうだし舐めてかかるのは分かるが、こいつは見た目でもうヤバいと誰にでも分かる。

 人間では考えられないほどの巨体、それを覆う筋肉と脂肪の分厚い層。俺なら余裕だが、その肉体に刃を通して致命傷を与えるのは簡単なことじゃない。しかもただの新人冒険者じゃない、転生冒険者のサクマが敵う相手とは到底思えない。そんな相手に単身向かう決意をするということは、


「なにか、勝てる策があるのか?」

「な、ないです。でも、ここ数日みなさんの後ろについていくだけで、何の役にも立たないで、なのに宿に泊まったりご飯食べたり、装備も買ってもらって…そろそろなんです、そろそろ、僕は強くなるはず…いや、ならなくちゃ」

「…そうか、その心意気は立派だ。よし、やるだけやってみろ。だがヤバいと感じたらすぐ加勢するからな」


 少しだけ言い回しが引っ掛かるが、要するに世話になりっぱなしで居た堪れないからそろそろ自分も活躍したい、という話だろう。初心者なんてそんなもんだ、俺たちベテランにおんぶに抱っこで成長して良いんだと思うが、本人の決意を踏み躙る権利なんて俺たちにも、いや他の誰にもないのだ。


「やる、やってやる!ここが僕の覚醒イベントだ!」

「ウボォア!!!」


 サクマのよくわからない啖呵に呼応するが如く醜鬼の戦意がサクマに向かう。サクマの異世界人生初の戦闘が、ここに始まった。

【補足情報】

 醜鬼オークはCランクの中でも特に強いですが、所詮はCランクなので冒険者的にはあんまり強くない部類です。理由としては、致命的な頭の悪さが原因になります。何度も何度も同じ手に引っかかるし、簡単なひっかけに見事なまでに掛かるので、一部の人からは遊び道具みたいに扱われてます。

 ですが名前に鬼の名を冠しているだけあってその肉体には目を見張るものがあり、耐久力だけで言えばBランクの魔物と比べても遜色ない、いやそれ以上のものです。攻撃力も勿論高い、文字通りの怪物って感じです。もし喋れるなら「コロス」と「タベル」以外の語彙がなさそう。

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